第42話 約束をしたんだ・・・

〜闇・クスタ・ワタシ前 太田サキ〜


ぞっとするような暗い目。姿形は見慣れたもの・・いや、違和感がある。

鏡に写っていない私。反転していないワタシ。

そのワタシの手がゆっくりと私に向けられる。

「なんで、クスタは外に出たいの?」

「え?なんでって?何でそんなこと聞くの?」

思わず口から出た言葉に、クスタは不思議そうな顔をした。言葉を重ねる。

「だってこの世界のほうが、現実よりもいろいろなことが出来るじゃない!」

ワタシ /クスタの手が止まる。

「じゃあ、お姉ちゃんはこの世界でずっと暮らしてみたい?」

「え?」

「あまり変化なくて、景色もかわらない。他人からの干渉もない。いつまでも自分でいられる世界。そんな世界でずっと暮らしたい?」

「・・・少し前までは魅力的だった・・かも」

私は正直に言った。成長するにしたがって、現実は私にのしかかり、苦しめた。小学校の頃に・・いや、もっと前まで、楽しい事しかなかった時までもどって、いつまでもその生活を続けていたい。

――――――そう妄想したこともある。

「だったら簡単だよ・・お姉ちゃんの体は僕がもらう。その代わりお姉ちゃんはここに残してあげる。そのくらい僕にだってできると思うよ。だから・・」

「でも、今は自分でしっかり考えて、成長してみたい。だから、あなたにはこの鏡も、体もわたさない!」

はっきりとそう告げる。クスタはなんだか寂しそうに、でもどこかうらやましそうに笑った。そして黒い瞳が一気に見開かれる。

「じゃあ、僕も本気でその体を奪うことにするよ」

体に圧力がかかり、自由が奪われそうになるのを必死でこらえる。

――――――まだだ、もう少しこらえないと。

「外に出て何をするつもり?」

クスタの笑みはいびつに広がり、感情の見えない笑顔をつくり上げる。

「さあねえ・・そんなの出てから考えるよ。」

「そんな適当な理由で私の体を・・」

「適当に生きてる人だって多いんじゃない?ここに迷い込んでくる人ってそういう人が多かったから・・・お姉ちゃんもそうなんでしょ?」

適当なんかじゃ無い・・はずだ。上手く言い返せない。

「最近迷い込んできた子たちも・・なんていうかさ〜〜。自分を・・そうそう。ジブンヲコロシテ?生きている子たちだったし・・ねえそれってさ、生きてるの?死んでるの?自分を殺して生きるって何?意味あるの??」

クスタの声に合わせて圧力が高まり、銀色の闇が体の周りに集まり蠢く。

「意味はある。あった。」

「へえ・・どんな意味?サンコウまでにオシエテヨ。だってこれから僕は外でイキテ?イクわけだし・・イマノ使い方あってる?シャカイに出るにはタニンとホハバを合わせなきゃなんでしょ?上手くできるかな?ねえどう思う?」

「自分を殺して上手く生きようとしていたら・・自分を殺してはダメだって事がわかった」

言葉と一緒に力を込める。蒼い光が暗い銀色の中に混じっていく。

「何それ?殺してはダメだってわかるために殺してたの?それって無駄な時間じゃない?人間ってそんなに長くは生きれないんでしょ?」

「私には無駄じゃなかった。やってみないとわからなかったし、それでも関わってくれる人がいたから・・多分幸運な方なんだと思う」

クスタの顔から笑みが消えていく――あと少し

私は少しずつ力を強めていく。

「他人と合わせる事は大事かもしれないけど、それは自分を殺すほどの事じゃない。けど今までの私が無駄だったとも思わない。悩んで、考えて、どうでもいいやって思ったけど、やっぱり違うって思い直して、また悩むかもしれないけど・・・そうやって出した今現在の結論。今私はこう思っている」

蒼い光は暗い銀色と混ざり鈍く輝きながらクスタにまで届いている。

あなたに体は渡さない―――強く念じれば言葉に出さなくても伝わるはずだ。

クスタの顔から笑みが――――――表情が消えた。

「お姉ちゃん一人の力じゃ抵抗しても無駄だよ。まあ、例えば・・あいつらがいてもたいして変わらないけどね」

「じゃあ、本気でいってみようか!」

――――――来た。

クスタのそのすぐ後ろで、佐川がクスタにささやいた。

手には深い青色の羽が握られている。佐川の特訓の成果その1だ。

「え?」

虚をつかれたクスタに躊躇なく羽が振り下ろされる。

瞬間。クスタの体が深青の竜巻に飲み込まれていく。

「老賢人の刺青・・そこから具現化した羽は風を空気を自在に操る・・音を立てず ア〜ンド姿を見せずにここまで来るのも楽なもんだ・・・なるほど!自分の能力をペラペラ喋る登場人物の気持ちが今わかった!」

佐川が妙な格好のまま、無理のある角度の妙なポーズを決めて、喋っている。

・・・関わり合いになりたくない。

「こんなもの!」

クスタが叫び、漆黒が集まっていく。

同時に、竜巻も侵食され、黒く変化しているようだ。

「サキ!離れろ!カナ!2回しりとり!

「おっけ~~。だほ〜のほ〜は!~~」

はるか上空からカナの声が聞こえた。

見上げると、金色の光が暗闇の中に線を描き、交差を繰り返し

大きな網となる―――特訓が役に立ってる???

私はなんだか納得がいかない気持ちを押し殺し

佐川の指示通り、その場から飛び―――離れる。

「と〜からの〜、~~」

光の網が回転しながらクスタへと降り注ぐ。

ネーミングはアレだが、この広範囲だと、有効な技かもしれない。

「クハァa!こんなモノ、あんなモノォooo!!」

クスタが竜巻を侵食して、上空の網に向けてうち放つ。

「うそ!?なんで!!」

驚愕の声をだしたのはクスタだった。

網に竜巻が触れた瞬間。高速大根おろしマシーンにかけられた大根のように竜巻は四散する。

そしてそのまま驚いてるクスタを捕らえて、包み込み、網目状の球体となった。

「くそ!くそ!なんで!」

からはじまる言葉以外はルール違反だからな」

佐川が眼鏡を光らせる。先ほどとは違うポーズ。反りすぎだ。

「クk qく!!」

クスタがもがき、力を放つたびに、光の網に力は四散させられていく。

「それに~~これは〜〜あなたを傷つけるための~~ものでは~~ない〜〜からです~~」

カナが苦しそうに言う。維持するためにかなりの精神力が必要なのだろう。

「よし、カナ、もうちょっとがんばってくれよな。あんまり時間がないからサクサク行こうか・・クスタ・・いやトリックスター」

佐川の言葉にクスタは動きを止める。そして、またあの目・・ゾッとするような暗さ・・絶望のまま固定されたかのような目をする。

「名前が何?それで僕の正体を暴いたつもり?正直どうでいい感じなんですけど・・」

「ああ、そうだろうな。元になるうちの一つで最も自由で純粋で矛盾する存在。名前なんてどうでもいいと言いながら・・なんでクスタって名乗ったんだ?」

「それは・・長くて覚えられないって・・」

知っている。クスタ・・トリックスター

これは夢の中の記憶だ。きっと目が覚めたら薄れていく。夢の中で起こった事。




あそんでいると ときどきみかける

はじめはとおくからこっちをみてた 

いつからみてた わたしがみつけるまえ

ずっとまえ はじめてきたときからだって

かくれんぼ? おにごっこ? よくわからないけど

なんにちかかけて ワナをはって つかまえたら おしえてくれた


「なまえは?」

「トリックスターってよくまわりからいわれる」

「横文字?ながくておぼえられないよ」

「ヨコモジ??え〜〜??トリックスターでながいって・・でもそれいがいよばれたことないし」

「じゃあクスタ。あなたのなまえ」

「え?クスタ??ボクのこと?」

「イヤなの?ならちがうのは・・」

「イヤじゃない・・クスタ・・なまえ」


それから いくたびに いっしょに遊んだ

たくさん たくさん 話をした


「いつか外へつれて行ってあげるよ」


約束をしたんだ・・・








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