第41話 私たちは、必ずここから、かえる。
〜闇 太田サキ〜
サキは、暗闇の球体を前にして、最後の決意を固めていた。
山の頂上から、きれいな円形の丘を目指し――そしてまた――あの長い螺旋通路を下ってきた。
そして、この中には、クスタがいる――――ワタシがいる
足が震える――体は少し緊張しているみたいだ。
隣には佐川とカナ。少し気が楽になる。
佐川がメガネを光らせ口を開く。
「さて、過酷で苦難に満ちた、それでいて実りのある、体感時間二時間に及ぶ修行の成果を見せてやりますか!」
「お~~~!!」
「修行ってただ遊んでただけじゃない。」
思わずお気楽な佐川とカナに突っ込みを入れてしまう。
佐川の言う修行は、空を飛ぶ鬼ごっこや、言ったものを創り出するしりとり。全員一緒に動くまねっこ遊び――――なんだか怪しいものばっかりだった。
「修行は楽しく、効果は最大!それがSTIC・・・佐川流戦略的想像術の秘訣の鍵・・キーなのだよサキ君。名付けてSTICKなのだよサキ君」
「たのしかったね~~~スティック」
「はいはい。そうですか。今思いついた感じですね」
「名前をつける事で、想像はより具体的になるのだよ・・・本当だぞ!だから必殺技名を叫ぶ必要があるのだ!つまり・・」
佐川はヒートアップしていく・・ほおっておこう・・・
・・・・いつの間にか、足の震えは止まっていた。
闇を見る。以前よりも恐怖を感じない。
意識を集中するとワタシの存在は、確かに闇の中から伝わってきている。
「私たちは、必ずここから、かえる。」
言葉に出していってみる。
カナと佐川がうなずく。
今度は、手はつながない。
見えなくても、お互いを感じることが出来る。
そう信じられた。
それはみんな一緒だったようだ。もしかしたら修行の成果かもしれない。
思わず笑顔になり、みんなの顔を見渡すと誰からともなく頷いた。
そして無造作に、闇に飛び込む。ほとんど同時に動き出す二人を感じた。
―――――――闇。
――――進んでも闇。
ただ、その中に銀色に光る一点。
ワタシだ。そしてクスタだ。
点は近づくにつれて――――大きくなり――――やがてそれは知った形をとる。
「自分から来てくれるなんて、うれしいよ~。」
クスタが笑った。
「うん。返してもらいにきた。私の体」
言うと――――クスタは笑うのをやめた。
「さっきの力なら、もう怖くないよ。ここはボクの世界だからね」
そういって、クスタは手を真横へなぎ払った。
ツィ―――――
暗闇の中で銀色の光が向かってくる。
「はあ!どーん!拳」
佐川が妙なポーズとともに叫ぶと光が拡散、消滅した。
「あれ?君も来てたんだ・・相変わらず、邪魔をするんだね」
クスタのまわりがゆがんだ。
ボグンッ
またあの沸騰音。以前のよりも音が大きい。
大丈夫だろうか!?佐川を見ると、
「クッ!!油断して、ちょっと食らった・・」
佐川がうめく。見ると、肩からほんのちょっとだけ、血を流している。
「まかせなさ~い~~~。痛いこ〜痛いこ〜ふらいあうぇ〜〜」
カナが佐川に近寄り、手のひらをかざす。
すると・・柔らかい光に二人が包まれ・・あっという間に佐川の傷はふさがる。
「きみたち、少しは力の使い方がわかったみたいだけど・・それでどうって感じなんだけどな・・」
クスタの表情は変わらない。
「さて、それでは本格的に反撃と行こうか!」
佐川が不適に笑っている。
調子に乗らなければいいけど・・・私はそう思った。
「へ~~~んしん!!」
佐川が妙な動きからビシっとしたポーズをとると、全身が光った。
そして光が佐川の体に集まって・・・
・・なんとも奇妙な格好をした佐川が、そこに居た。
頭を覆うヘルメット。首にスカーフ。上半身は肩のついた鎧のようなもの。
背中には棒が二本突き出ていて、腰にベルトを巻いている。
下半身はタイツのようなぴたっとしたものに、おかしな靴を履いている。
「お~~~!!じゃあ~~あたしも~~~。と~~~!」
カナも叫ぶ。
星がキラキラと降り注ぎ、カナを取り巻く。
そして、その星がカナに吸い込まれていく。
金色の線がシルエットをうつしだし・・・
極端に短いスカートと、露出度の高い服に身を包んだカナが現れる。
あ、胸がやけに大きい。
「ちがーーーう!!」
佐川が急に叫んで、カナにつめよる。
「いいか、女子の変身って言うのはな~~。一回裸になって、でも見えそうで見えない・・・みたいなのが正統派なんだ!!」
「ほえ~~~??」
カナが困惑している。
「やり直しを要求する!」
佐川が言った。
「するな!!」
私の突っ込みは形になり、空間を切り裂いて、佐川の脳天に直撃した。
「そろそろ・・いいかな?」
クスタが言葉を発する。
そこに、感情は感じられない。
「でも、君たちわかっているの?この体をこわしたらどうなるか?」
クスタがにやりと笑う。
「ぼくは、痛くもかゆくも無いんだよ。でも、この体が壊れちゃったら、お姉ちゃんもここから出られなくなるかもね・・・だって体が半分ないんだか・・」
言葉を続けようとするクスタの顔が、初めて驚きを見せた。
視線の先は佐川。
手には『三角縁神獣鏡』が握られている。
「お、顔色が変わったな。やっぱりこれは怖いのかな?」
佐川が言う。
ヘルメットのせいで表情はわからないが、きっとわらっているのだろう。
目の当たりがキラキラと光っている。
「まさか、それは・・いやだ・・いや――イヤダ!」
クスタが叫ぶ!と同時にクスタのまわりの闇が濃くなっていく。
「来る!」
言葉とほぼ同時だった。
闇が銀色を含み、交じり合い、はじけた
―――それを何とか、ギリギリで交わす。
私の体がほしいためか、今までは直接攻撃はしてこなかったのだが
――どうやら、今のクスタには関係が無いらしい。
「よほど、これが恐ろしいんだな。」
佐川が、攻撃を弾き飛ばした後に言った。
・・・いや、そうじゃない。
私の目には、クスタがおびえているように見える。
まるで、暗闇の中、迷子になってしまった子どものように。
「サキ、もっていろ!カナ、捕まえるぞ!の『ぞ』!」
佐川が『三角縁神獣鏡』を私に投げて、カナに叫ぶ。
「ぞ~~~は『ぞうさん』のぞ~~~!」
「カナ君!んがついてるよ!」
「しまった~~」
アホなやり取りとともに空間に突然アフリカ象が現れクスタに猛然と向かう。
つぶらな瞳がかわいい。
同時に『三角縁神獣鏡』がちょうど良い速度で私に向かって来る。
どう考えても鏡が優先だろう―――なんとかキャッチ―――アフリカ象に目を向けると鼻を振り上げてクスタに襲い掛かろうとしていた。
「来るな!」
ズボム。
クスタの声と同時にアフリカ像が黒い球体に削り取られ・・
あまりに呆気なく・・消える
消えていく残骸を見ながらクスタは笑い出した。
「なんだ、あせって損しちゃったよ。この程度の力だったんだ。」
「いいできだったのに~~」
「んがついていたからねえ。仕方がないさ」
そういう問題なのだろうか?・・象が可哀想に感じる。
「何を出そうと無駄だよ。僕は君たちよりもずっとずっと長い間この世界にいるんだから」
そういうとクスタはまるでオーケストラの指揮者のように腕を振るう。
GGyジャAA~~ン。
振動。巨大な音。音が壁となり、私たちに降り注ぐ。
ものすごい衝撃が体を襲い。闇の中へと弾き飛ばされる。
「うわ!!」
「きぃ~~やぁ~~」
佐川とカナの意識も、それぞれ別の方向へ遠ざかって言った。
「くうう!」
暗闇の中『三角縁神獣鏡』を握り締め、体勢を立て直す。
二人の意識は―――まだつながっている。
「その鏡、嫌な思い出があるから壊してもいいでしょ・・壊すべきだと思うな」
目の前にワタシ―――クスタ。
いつの間にか二人だけになっていた。
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