第40話 何で女子ってこうなんだろう?・・鷹志
〜夢の広間 佐川鷹志〜
太母は微笑みをたやさず、大きくはないが不思議と通る声で話す。
「あなたたちが、クスタと呼んでいるあの子も、もともとはああいった存在ではなかったのです。自由に、純粋な存在でした。今から1500年ほど前に、ある強い念にとらわれてしまい、今でもその念によって動いています。」
太母の微笑みが少しだけくもる。
今度は、老賢人がしゃべりだした。
「その念を封じるために、お前達が神獣鏡と呼ぶものを、古く、力のある土地に埋めさせたのじゃ。しかしその土地も、神獣鏡も、何十年かまえにお前たちが崩してしまった。
・・それからというもの、アレは、この世界に迷い込んできた人間を、幻の中に捕えて、力を奪い取るようになった。」
二人の説明を聞いていたカナの視線が、ぐるぐると動いている。
・・・容量をオーバーしたな。
カナの視線は、しゃべっている老賢人の髭のうねりのあたりを行ったりきたりしている様子だ。
「そのせいで、ますますアレはおかしくなっていった。だから、わしは分身を使って・・」
老賢人は腕を振る。
腕が変化し、鳥の形になる。カナが「お〜〜〜」と拍手をしている。
「捕えられた人々を、現世に追い帰していたんじゃ・・・時には手荒だったがな」
そういうと老賢人は、こっちを見て笑った。
そういえば、黒い鳥はこの老賢人だと、サキが言っていた。
「あのときは、手荒でしたね。たしかに」
この老人に腕をつかまれて肉をえぐられたのか・・。
「まあ、帰れれば、あの程度はなんともあるまい。」
老賢人はフォッフォッフォッとうれしそうに笑う。
「あの子が、サキさんを狙う。というのは、予想が出来ました。あなたは昔から、良くこの地へ遊びに来ていましたからね。」
「おとなしく、夢の身だけできておればよかったんじゃ」
太母と老賢人が交互に言う。
「それなんですが、何で私なんかを?」
サキが二人に質問した。
二人は顔を見合わせる。
老賢人はあきれているような、太母は微笑んでいるような、微妙な表情だ。
「おまえ、気がついていないのか?」
やれやれといった感じで老賢人は話し始めた。
「いったじゃろう。『迷い込んできてしまう人間はいる』と、それはタマタマ迷い込んでしまっただけじゃ。おまえのように、好きに出たり入ったり出来る人間。しかも他人を二人もこの世界に連れてこられる人間が、沢山おってたまるか!!」
老賢人はしゃべりながら、ヒートアップしていく。
太母はまあまあ、と老賢人を抑えるが、老賢人まだブツブツ文句を言っている様子だ。
「あなたの力は、夢を渡る力。そして夢の力を渡らせる力。使い方を間違えると、とんでもなく悪いことも出来ます。ただ、あなた自身は、そんなことが出来る子ではないようですね。」
太母はサキの頭をなでる。
サキはなんだか照れている様子だ。
「問題は、アレがおまえの半身を取り込んでしまったということじゃ。」
唐突に老賢人がしゃべる。
その声は、重く、苦々しいものだった。
「そうだ・・私、ワタシごとクスタを消しちゃったんだ。」
サキが、何かに気がついた様子でオロオロとしている。
「安心していいのか、ざんねんなのか、あなた方が判断することですが、あの子は消滅してはいません。うまく自分の世界へ逃げていったようです。・・まあ、そもそも消滅させることは不可能なのですが。」
太母がサキに話している。
「それでは、サキの半身を取り返すことは出来ないのですか?」
鷹志は質問をぶつけてみた。
大体の話は理解できた。あとはその点だけだった。
「方法はひとつじゃな。だが、それは簡単ではないぞ。」
老賢人と太母が見つめてくる。
「まず、サキの意思。そしてお前たちの協力が必要じゃ。そんなことより、このまま現世に帰ったほうが良いのではないか?」
二人の目は金色に光っている。
「その場合、あの・・あの11人の子どもたちはどうなるんですか?」
サキが聞いた。
「彼らはもう取り込まれてしまいました。」
太母が短く答える。その表情は暗い。
「サキの~~からだは~~大丈夫なの~~??」
ぼ~~っとしていたように見えたカナが、口を開いた。
「だって~~。半分に~~なっちゃったんでしょ~~」
カナは、太母に詰め寄る。
カナはどこまで、理解しているのだろうか?ふとそんなことを考えてしまった。
「とりあえず、方法を聞かせてもらえますか?判断はその後で考えます。」
鷹志が言うと、老賢人と太母が突然笑い出した。
「あなた方は、おもしろいですね。」
「うむ。おもしろい。」
ひとしきり笑うと、二人は、では、と前置きをして話し始めた。
「まず、アレの力を封じることが必要だ。それにはお前たちが持ってきた神獣鏡と、われわれの力が必要になる。その上で、アレを捕えている念を消滅させる。」
「ただ、私たちは、大きくこの場所から動くことは出来ないのです。元となる部分をささえなければなりませんから。ですから、あなた方に、力を託すことになります。」
二人の声はいつしか混ざり、どちらがどちらの声なのかがわからなくなる。
「そのうえで、サキさんの半身を起こす事が必要です。なぜなら、また一人に戻るためには、お互いが、戻りたいと思わなければならない。そして、一番重要な部分だが、アレとサキさんの半身は、ほとんど融合している。だから、一人に戻るには、アレを受け入れることが必要になる。」
そこで二人は言葉を切る。そしてサキをじっと見つめる。
しばらくの間をおいて、二人はサキに言った。
「最後はおまえ自身との戦い。お前だけしか戦えないだろう。もしうまくいっても、アレを心に入れて、封じ続けなければならない。失敗すれば、体を奪われるだろう。・・・・・さあ、どうする?」
言われたサキはこっちを振り返る。
その目はいつものサキとは違って見えた。
冷静を装うでもなく、迷ってもいない、意思のはっきりした瞳だ。
「佐川、カナ!私を手伝って!」
サキは迷わずに、そういった。
「い~~よ~~~。」
カナが答える。何の迷いもない。
俺の答えだって、決まっていた。
「面白そうだな。やってみるか」
そういうと、サキに親指をグッと立てる。
「ありがとう。」
笑顔で言ったサキは、今までのサキとは別人のようだった。
「きまったか・・それでは」
老賢人はそう言うと、俺に手招きした。
近寄ると、手首を掴まれる。
「アツッ!!」
手首が一瞬ビリっとした。
見てみると、手首に、深い青の羽模様が描かれている。
「これ・・保険とかきかなくなるんじゃ・・」
そうなったとしたら大変だ・・とアホなことを考えていると。
「あほう。普通の人間には見えんわい」
と老賢人に言われた。
心が読まれている?
「まあな、これでわしの一部がお前の中に入ったわけじゃ」
それで、説明は十分じゃろ。
老賢人が心の中でしゃべったことが頭に響く。
ちょっとした融合ってわけか・・ってこれはプライバシーが無くないか?
「え~~いいの~~?こんなの~~もらっちゃって~~」
カナがはしゃいでいる。
その手には金色の飾りがついたネックレスが握られている。
「つけてあげますね」
太母がカナに、ネックレスをつけている。
カナはなんだか足をブラブラさせたり、落ち着きが無い。
「これをつけてるときは、私がそばに居ますから。」
太母はそういって、カナの頭をなでる。
「ありがと~~おか~さん。じゃ~~なかった~~」
カナが言い間違えて、恥ずかしそうにしている。
「いいのよ、カナちゃん」
太母はにっこりと笑った。
「なんか、あっちのほうがいいな・・とおもったじゃろ」
老賢人がささやく。
はい、はい。確かに思いましたよ。
「心配するな。ワシはお前が呼ばない限りは、覗いたりせんわい。」
老賢人はフォッフォッフォッフォッと笑う。
なんか、この人の相手は疲れるな・・。
「あの~~~。」
サキが声を出す。
「私は、どうしたらいいのでしょう?」
自信なさげにサキが聞く。
いつものサキだった。
どうやら、人は急激には変われないらしい。
なんだか、ほっとした気持ちになった。
「あなたには、私たちの助けは要らないでしょう。」
太母は言った。
「そうじゃの。見たところ、誰かから受け継がれたモノも、あるようじゃな」
老賢人も答える。
「そ、そんな~~。」
サキはうろたえている。
「では、助言をひとつ送りましょう。」
太母が微笑み、言葉を続けた。
「あなた方の力は、想像力。未来を願い、思い描く力。生きるための力です。私たちはそれを助けるための手段でしかありません。ですから、あの子を封じる方法や、浄化の方法は、あなた方の想像のままに行うのです。」
太母の言葉を老賢人が受け取る。
「想像するということは具体的なことじゃ。それは創造につながる。どれだけ明確に、自分の力を思い描くことが出来るか・・・それが、勝敗の鍵となろう。」
二人は、それ以上語らなかった。
とりあえず、俺が寝ていた部屋に戻り荷物を回収していると。
「たかし~~。わたし~できるかな~~。」
カナが不安そうにしている。
「今のままでは無理だろうな。」
「え~~!無理なの~~??」
「俺たちにはまだ足りないものがあるからな」
「足りないものって何よ!」
サキも会話に参加してきた。
そう、いよいよ最終ステージ。だがしかしその前にやることがある。
「まずは練習だ!修行だ!秘密特訓だ~~~!!」
テンションのあがる俺をサキとカナはポカーンと見ている。
何で女子ってこうなんだろう?おれはつくづくそう思った。
修行だぞ!!!!!
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