第39話 夢の世界で、元となる者たち
〜??? 佐川鷹志〜
自転車をこいでいる佐川鷹司は、ひどく冷めている。
あれはいつか・・いつかと言うのは・・・そう、小学生のときだ。
テストは勉強しなくても出来た。
ただ、学校の先生はどこかうそ臭く、親は自分に興味が無い様子だった。
クラスメイトは幼稚で、なじめなかった。
かといって、いじめられるほど、自分は非力でもなかった。
自分は、どこか他人と違う。
そう強く感じていたのはあの頃だっただろう。
自然と、学校は休みがちだった。休んでも誰も何も言わない。
ある日、昼ごろに起きた後、置いてあった朝食を食べながら、ふと・・
自転車に乗って、遠くに行ってみよう・・と考えた。
朝食は相変わらず、味はしなかった。
食べた後、当ても無く自転車に乗り込みペダルをこぐ。
いろいろな景色が遠ざかって行く。
しかしどの景色も、自分に興味を持ってはくれなさそうだった。
ふと自転車を止める。
同じくらいの年齢の女の子が、こぶしを握りしめて、立っている。
まわりを囲む男の子。
「炊飯ジャーの魔法を使ってみろよ~~ユメミガ~~」
「魔法瓶に入ってみろよ~~夢見すぎてまだねてるのか~~」
口々にいい、笑いあう。笑いながら、男の子の集団は去っていく。
残された女の子は、握り締めていた紙を、クシャクシャに丸めて投げ捨てる
・・ゴミ捨て場のゴミ箱に綺麗にソレはおさまる。
そして、一瞬こちらを見ただろうか・・・走り去る。
何を捨てたのだろう。
自分はゴミ箱に手を突っ込むと、丸められた紙を取り出した。
原稿用紙だった。
自由作文だろうか?不思議な文章だった。
魔法瓶の魔法は、時間をとめる。
あったかいものは、あったかいまんま。
私が入ると私のまんま。
炊飯ジャーの魔法は、お米を成長させて、ご飯に変える。
私にかけたら大人になれる。
炊飯ジャーと魔法瓶。いろんな種類があるみたい。
いろんな魔法があるみたい。
どれがすごいか比べてみるには
たくさん見て、たくさん調べてみないとだめだな。
文章の終わりには花丸がついている。
自分は、その紙を丁寧にたたむと、ポケットにしまった。
・・・・ずいぶん懐かしい。
そう、あれは小学校の頃の自分だ。
鷹志の意識は覚醒していく。
これは波の音だろうか・・・
目を開けて起き上がると、オレンジ色の光。
ここはどこだろうか?
寝ていた部屋は、ドアなど無く、そのまま外へ続いていた。
きれいに透き通った海が、太陽光をキラキラと反射している。
外に出て、建物をぐるりと回りこむ、海の反対側は、古多摩の町並みが見える。
そうか。ここはおそらく、下から見ていた山の頂上だろう。
しかし、反対側が海になっていたとは、驚きだった。
寝ていた建物は、木や石が寄り添って、自然物だけで作られている。
加工したわけでも無いのに、見事に均整の取れた建物だった。
「こいつは興味深いな」
思わずつぶやく。
興味のままに、部屋に戻り、色々な物を観察しながら廊下を通り、歩いていく。
いくつかの部屋を通り過ぎると、広間に出た。
円と十字と正方形の模様が埋め尽くす。その模様はうっすらと光を帯びている。
その中心には、サキとカナが立っていた。
「あ~~~。たかし~~きがついたの~~~??」
カナがパタパタと近寄ってくる。
「良かった!平気なんだね!」
サキも声をかけてくる。
そうだ、オレはたしか・・
両腕を見る。
今まで気にも留めていなかったが、確かについている。
「どういうことだ?」
サキのほうを見ると・・サキの横に、いつの間にか見知らぬ老人と、女性が立っていた。本当にいつの間に立っていたのだろう。
老人は青というよりは黒に近い羽を、体中につけている。
皮膚は土のような茶色で、深いしわが刻まれている。
そのせいか、鷹志には大地に根ざす大木といった印象を感じさせた。
しわの下に覗く瞳は金色。
たくましい白いひげは、物語に出てくる魔法使いそのものだ。
女性は、穏やかな表情をたたえている。
水色の薄い布を巻いており、金色の装飾品で、それを体にとめている。
たとえるなら、海。神話に出てきそうな印象だ。
そうとうな美人だが、魅力的というよりも、母性を感じさせる。
「ふたりが~~なおしてくれたんだよ~~」
カナが、佐川の横で教えてくれた。
「お目覚めかな・・佐川鷹志。」
老人がしゃべった。
「はい、ありがとうございました。」
自分の考えを口に出す。こう言う時は直感に従おう。どうせ違ったとしても何かしらの進展はあるだろう。
「・・もしかしてあなた方は・・老賢人と太母では?」
夢の世界で、元となる者たち。それが彼等なのではと考えたのだ。
すると、女性が微笑んで言った。
「呼び方はあなた方が勝手に着け、呼んでいるものです。私たちはそれであり、それでない。好きに呼んでください。」
肯定とも否定とも取れない言葉が返ってくる。
だが、鷹志はとりあえず、二人をそう呼ぶことにした。
「サキ、あの後、いったい何があったんだ?」
今度はサキに質問をする。
「えっと・・なんだかよくわからないけど、クスタは・・消えちゃって、黒い鳥が来たのよ。それが、このおじいさんで、この場所につれてきてくれたの」
なんだかいまいち要領を得ない。
サキ自身も、理解していないのだろう。まあ、無理もないだろう。
それよりも話を聞けそうな人がいる訳だしそちらを頼ろう。
チラリと視線を送ってみると・・
「それについては、私たちからお話しましょう。」
太母が口を開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます