第38話 私の中で何かがキレた

「どうやら・・・成功したみたいだな・・カメ○メ破!」

佐川が言いながら、クイっと光輝くメガネを直した。


ちょっと思考が追いつかない・・・

「サキにやられたときから、出来るのでは・・と思っていたが・・出来たな。」

「佐川が・・やったの?」

佐川が手のひらを見ながら、ブツブツ言っている。なんだか・・嬉しそうだ。

私はいまだ、何が起こったのか理解できない。

「ああ、ちょっとイメージするのと、力をためるのに時間がかかったけどな!」

佐川がなんだかとても・・嬉しそうに言う。少し興奮しているみたいだ。

クスタのいた場所は、今もまだモクモクと、煙がたちこめていた。

「そうだ、カナ!」

たしか、吹き飛ばされて・・大丈夫だろうか。

近づき、声をかける。

「大丈夫??」

体に傷はない・・ゆすってみる。

「う~~~~。大丈夫~~~。」

軽くうなる。

そして、カナはパチリと目を開けた。

「びっくり~~~した~~~。うごけなく~~なった~~。でも~~今わ~~平気~~。」

カナが、しどろもどろに説明している。

良かった。無事だったらしい。一安心だ。

「よし、今のうちに逃げよう。」

佐川が言った。

「え?だって、クスタは佐川が・・」

と言いかけたとき再び体に強い圧迫を受けた。

「しまっ・・た。」

「ぬ~~~~~~。ま~~た~~」

今度は全員が、その場に固まってしまう。

「逃がさないよ。1500年も待っていたんだから・・」

煙の中から声がした。

煙が薄れていく。

徐々に現れていくクスタの姿は、異様な姿だった。

皮膚にヒビが入り、剥がれ落ち、瞳は暗く、爬虫類のそれを思わせる。

銀色の髪の毛が脈打ち、体に巻いた布が・・生命を持っているかのように揺れて・・うごめく。

はがれた皮膚の中は、ドス黒い何か・・。

呼吸すら、うまく出来ないほどの恐怖が、そこにあった。

「~~~~~~~~~~~~~~!!!」

カナが、声にならない悲鳴を発する。

「悪夢・・だな・・まさしく」

佐川は、引きつった笑いを浮かべている。

「少し、崩れちゃったけど・・いいか・・。」

クスタは自分の体を見てつぶやくと、おもむろに手をあげる。

何かが、煙の中から、クスタの横に飛んできて・・止まった。

あれは、私。もう一人の私。

クスタの横に浮かんでいるのは、もう一人の太田サキだった。

ワタシは目を閉じ、眠っているようにも見える。

ズルッ・・・

銀色の髪と、体に巻いた布が、もう一人の私に絡みついていく。

クスタが動き、表情をかえるごとに、ボロボロと体が零れ、落ちていく。

黒い風が巻き起こり・・クスタの体はどんどん砕けていく。

くだけた破片は、銀色の砂になり・・ワタシに吸い込まれていく。

そして、すべてが吸い込まれた後、ワタシはゆっくり目を開けた。

銀色。暗く、感情の無い目だ。

髪の毛も・・銀色に変わっている。

「とりあえず・・半分。」

「ーーーー!!」

声にならない悲鳴が口からこぼれた。

ワタシの顔から、クスタの声がでている。

「もらったら・・おかえしするんだよね」

と言いながら、ワタシの体は、佐川に手を向けた。

向けた手のひらがユガム。

ボグンッ

水分が沸騰するときの音を、何十倍かに拡大したような・・

そんな音が響いて、佐川の両腕が破裂した。

「イヤーーーーーーーーーーーーー!!」

カナが叫ぶ。

いや、私が叫んでいるのだろうか。

「アァグァアああアアア――。」

佐川が咆える。

うめいている佐川の体は、さっきから1mmだって動いていない。

ただ、あるはずの、両腕は無く。

そこからブクブクと血の泡が出ている。

「ガ・・ア・・・」

「いや・・だかしが~~しんじゃう~~」

うわごとのようにつぶやくカナ。しかし、体はピクリとも動かない。

佐川が、糸の切れた操り人形のように・・倒れた。

「アハハハハハハハ・・すごーい。まだ動いてる。」

ワタシがまるで、虫の足をちぎって遊ぶ子どものように、笑っている。

「次は~~こっちーーーー」

笑いながらワタシは、カナに指を向ける

涙を流しながら放心状態になっているカナの体が、ゆっくりと上昇しだした。

そして空中に止まる。

「やめて・・やめてよ・・」

私が言葉を発したとたん!

カナの体は地面に向かって急降下する。

ドヅッ

鈍い音。詰まるようなカナの声。

カナの体は地面で数回弾み・・佐川の近くまで転がっていく。

「―ッ―――!!」

胃から、何かがこみ上げてきてむせる。涙があふれてきた。

「た・・あかし・・だいじょ~~・・ぶ・・??」

カナは、弱弱しく佐川に向かって、手をのばす。

「すご~~い。丈夫だね~~」

ワタシは笑っている。

ひとしきり・・笑い終えると。ワタシは私にむかって言った。

「君には、何もしないよ。大事な体だからね」

恐怖と悲しみから、涙が止まらない。

クスタはなぜ、私なんかの体が必要なのだろう。

「なぜ必要か、おしえてあげようか。」

ワタシの体を奪ったクスタは、微笑んでいる。

私の考えていることが、わかっているのだろうか??

「うん。だって、もう半分はぼくの体だからね~。」

クスタはうれしそうにわらっている。

「いま、この世界は非常に不安定になっている。それは、忌々しいあの山が崩されてしまったから。だから、年の変わり目と昼と夜の変わり目が重なるときに、この世界に迷い込んできちゃう人たちがいるんだよ。」

この話はどこかで聞いたことがある。

「山が崩されたときに、結界が壊れた。でも、そのときには、ぼくの体も、力も、無くなっていた。だから、迷い込んでくる人たちから、力を集めていた。でも、そんなのたいして力にならないし、体が無いから、使った分だけ力が流れちゃって、この世界から出ることが出来ない。閉じ込められてから、1500年も外に出る日を、ずっと、ずっと待っていたのに。」

クスタはすごく悔しそうだ。

「僕の体と力をとりかえして、外に行くには、この世界と外の世界をつなぐ、強い力が必要だった!・・・でも、そんな力が、この世界に迷い込んでくる事なんて、絶望的だったよ。年が明ける頃には、もうボクの力も限界だった。」

そこまで言うと、クスタは笑った。

「でも、ギリギリになって、君が現れた。もう少し遅かったら、あやうく大変なことになる所だったよ」

笑い続けるワタシの顔をしたクスタ。

純粋な怒りがこみ上げてくる。

「あんた、私たちをだましたのね!」

「だました~?何のこと?」

クスタは、とぼけている様子も無い。

それがまた、気持ちをいらだたせる。気分がむかついてきた。

「あんた。いい加減にしなさいよ。じゃないと」

「じゃないと・・どうするの?何か出来るの?」

クスタの言葉は、一言一言が癇に障る。

「カナと・・佐川に・・こんなひどいことして・・」

だめだ・・何かが爆発しそうだ。左手が熱い。

「ねえ、何ができるのかって聞いてるんだけど〜〜」

クスタの言葉に、私の中で何かがキレた。

「いい加減にしろって言ってんだよ!!」

感情の爆発と共に手のひらが青く透き通った光を放つ。

それは四方八方にひろがり、すべてを飲み込んでいく。

私の体も、まわりの景色も、倒れているカナも、佐川も・・

―――――蒼い光に染まっていく。

その蒼い光が佐川とカナの体に触れたとき、何かが、その光を反射し、

光は空に上っていった。

「あれは!!」

クスタが驚愕の声を上げた。

そのクスタの体を、青い光が飲み込む。

「あ・・これ・・いやだ・・」

クスタの顔が恐怖にゆがみ、体から黒い光があふれる。

その黒をも、青が飲み込み・・すべてが青一色に染まっていく。

光はやがて収束し・・点へ。そして・・消える。

――――――――――ッ。

「く・・はあ。はあ。」

息を吐き出し、私はその場に倒れこんだ。

体の中にあったものをすべて出し尽くしてしまった。

そんな疲労感に襲われる。

顔を上げると、クスタがいた場所には・・・何も無い。

どうなったのだろう・・私がやったのだろうか?

そうだ、二人はどこに?

・・・もしかして、一緒に消えてしまったのだろうか?

あたりを見渡しすと・・いた。

カナと佐川は、寄り添うように倒れていた。

「カナ!佐川!」

二人に近寄ろうとした私の頭上で、何かが・・羽ばたく音が聞こえた。

・・ヴァ・・ヴァ・・・ヴァサ・・ヴァッサ・・・ヴァサッ・・ヴァスァサー

その音は、だんだんと近づいてくる。

恐る恐る、頭上を見上げると。

金色の目。

光の加減によって黒く見える、深い青の翼。

ゆっくりと近づいてくる・・青い影はだんだん大きくなっていく

そのサイズは・・理解を超えていく・・

「もう・・だめなの?私たち、もう・・・終わりなのかな?」

誰にというわけでもなく・・空間に話しかけていた。

絶望的。

そんな言葉が、ぴったり心にはまる。

「いや、まだ、助かるかもしれないぞ。」

質問に答えを返したのは、以外にも、頭上に浮かんでいる、黒い鳥だった。

そのまま、鳥は佐川とカナを無造作に掴む。

「ついて来い、太田サキ」

鳥はそういうと、大きく羽ばたき・・・混乱のため、言葉が見つからない私をのこして、飛び上がった。

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