第35話 下から、カナの泣きそうな声が響いた

〜AM/PM ??? 太田サキ〜


「こっち。」

ワタシが、佐川の腕をとって歩き出す。

カナはポカンとした表情だ。佐川も戸惑っている。

「ちょっと~~サキ~~~」

われに返ったカナが、私と佐川の間に割ってはいる。

「何?なんか文句でもある?」

ワタシの口は、さも平然と言い放つ。

「あなたが佐川のことを好きだろうと、ワタシには何の関係も無いわ。ワタシはワタシのしたいようにする。」

言葉を続けながら、ワタシは、カナを突き飛ばした。

・・これは、誰だろう。

私ではない。

私は、太田サキ。

でも、しゃべっているのも、太田サキ。

「おい、委員長。やめろよ、お前変だぞ。」

「委員長って呼ばないでよ!ワタシはワタシ。委員長じゃないわ。勝手にアナタ基準の枠でくくらないで」

佐川の言葉に即座に答えるワタシ。

「サキ~~どうしちゃったのよ~~」

カナの目には涙がにじんでいる。

「何かあると、泣くのね。子どもと変わらない。だから女の子ってキライ」

「おい、サキ、いい加減に・・」

ワタシは、佐川に手のひらを向ける。

嫌な力が、手の先に集まっていくのを感じる。

その力を、私は、佐川に向かって解き放った。

パン。

乾いた音。吹き飛び、地面を転がっていく佐川。

「あはっ!あなたも別にいい。ほしいわけじゃない。」

もしかしてワタシは今、笑っているのだろうか・・・

嫌だ。こんなの私じゃない。

そのまま、ワタシは浮かび上がり、グルグル〜っとまわり、あたりを見渡す。

古多摩駅が見える。

立ち並ぶ商店街は、オレンジ色の光に染まり、どれが何で、知っているモノなのかそうでないのか、区別ができない。

おぼろげで、あやふやな風景だった。

今いる場所は山の中腹あたり・・夢の中で、のぼった事がある場所だ。

光がさしてくる方角には、山が続いていき・・反対に小さな丘が見える。

そこをワタシはじーっと見ていた。

・・・・いったいどうなっているのだろう?感じているのは私なのに・・

私の体は勝手に動く。

私の体を、誰かが操っているとしか思えない。

私の体は、カナに視線を戻す。

カナを見ている。

「あんた・・色々じゃま・・」

ワタシの口は、そういって、手のひらをカナに向ける。

嫌だ、嫌だ。こんなの・・・私であるはずが無い。

「うるさい。ワタシはワタシ!これはワタシの体!!」

急にワタシの口が言った。

私に対して言っているのだろうか?

「そう、あんたに言ってるの!いつもウジウジ悩んでばっかりで、あんたを見ているとイライラする!」

ワタシの口から出た言葉は、いつも自分に言い続けてきた言葉だった。

「だから、もう要らない。出てって!!」

ワタシの口が叫ぶと同時に、意識は体から放り出されそうになる。

「出てけって言ってるでしょ! 」

ワタシの口がまた、叫ぶ。

黒い風の渦。突風。吹き飛ばされる。

私の体が、遠ざかっていく・・・

視界は黒い闇に覆われて・・・―――――――。

衝撃。

・・・誰かに体を抱きかかえられている。

「う・・」

体に、痛みが走る。目を開けたのだが、焦点がうまく合わない。

「サキ、気がついたか。」

佐川の声だ。

「さき~~へいき~~~??」

カナも心配してくれている。

前にも、こんなことがあった気がする。

だんだん、体に、感覚が戻ってきた。

「あ、私・・どうしたんだっけ?」

二人に問いかけると、二人は顔を見合わせて、深刻な表情をしている。

・・・思い出した。私は、二人を・・・

起き上がり、二人の様子を見る。

どうやら、怪我はしていないらしい。

「ごめん、私が・・私がやったんだよね。」

二人に謝ると、カナが私の頭に手を置いた。

「ゆる~~~す。」

カナが頭をなでてくれる。

「でも~~もう一人の~~さきは~~ゆるしませ~~~ん」

カナがおかしなことを言っている。

もう一人とは、どういうことだろう?

「説明しよう!」

佐川が割り込んできた。

「サキはいきなり俺たちに対して乱暴狼藉を働き、その上あ~~んなことや、こ~~~んな変態的なプレイを強要したフガ」

あ、カナのグーパンチだ。インパクトの瞬間にひねりこんでる!

その後、カナに説教をされている。

「・・あのあと、サキさんがサキさんを、はじき飛ばしました。サキさんの体から、サキさんが飛び出てきたのです。そのうち、一人は気を失っていまして、」

といいながら、正座した佐川は私を指差す。

「もう一人はあの丘のほうへ、飛んでいきました。」

といいながら、丘を指す。

「以上、説明終わりました!」

そういうと、正座の佐川はカナの方をチラリと見る。

「よく~~できました~~。足を~~くずしなさ~~い」

カナが言う。

「はは~~~」

佐川がかしこまる。

何だろう、このやり取りは・・緊張感のカケラもない。

私が二人に分かれてしまったというのに、まるで人事だ・・

・・・まあ、人事なのだろうけど。

おかげで、深刻になりそびれてしまった。

もう一人のワタシ。私とは正反対のワタシ。

あの太田サキは、私自身が出来ないことを、平然とやる。

たしかに、ああ言う事が出来たらな・・と考えたことはある。

でもそれは、大部分が、『シテハイケナイ事』と私自身が、決めた事でもある。

「さて、委員長。あ・・」

佐川が言って口を押さえる。

さっきの出来事を気にしているのだろう。

なんだか、すまない気持ちになった。

「なに?」

精一杯、平静を装って言う。

「あ、いや、サキ。これから、どうする?」

佐川が言った。

「とりあえず、クスタに会おうと思う。」

この世界に来てしまったのなら、クスタに会わなければならない。それにもしかしたら、私に起きたことの手がかりがつかめるかもしれない。

「そうか・・じゃあ、あそこだな」

佐川は丘のほうを指差す。

「クスタのいる場所って、あそこなの?」

なぜ、佐川はそんなことを知っているのだろうか?

メガネが光る。光り輝く・・この世界に来た途端これだ・・

「断言は出来ないが、いる可能性は高いな。運がよければ、もう一人のサキにも会えるぞ」

佐川の言った言葉が心に突き刺さる。もう一人のサキ。

もう一人のワタシが行った方向も、丘の方向だった。

もう一人のワタシに合ったら、私はどうすればいいのだろう?

「とにかく、行ってみよう。いなかったとしても調べたいこともあるしな」

佐川の言葉は曖昧で、まだ何かを隠していそうだった。

・・・でも、ほかに当ても無い。

幸い、クスタの体だと思われる『三角縁神獣鏡』は佐川の鞄にはいっている。

アレが、本当にクスタの言う、体であればいいのだけど

・・・ついそんな悪い想像をしてしまう。

「私って性格くらいかな?」

カナに思わず聞いてみる。

聞いてみた後、すぐに変なこと聞いたと後悔・・

けれど、答えは間髪入れずに返ってくる。

「カナは~~たのし~~よ~~。い~~と思う。」

答えになっているのか、いないのか、解らなかったけど。

カナに言われると、なんだか、いい気持ちだ。

「さて、行くとしますか。」

佐川はそういうと、飛び上がった。

「うん。」

私も飛び上がる。

林を歩いていくより、飛んでいったほうが早いだろう。

それに何より、飛ぶなんて楽しいこと、この世界でしか出来ない。

さて、それじゃあ、出発~~!!

と思った瞬間。

「なんで~~~とべるの~~ずるい~~~」

下から、カナの泣きそうな声が響いた。

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