第34話 降魔が時か、黄昏か・・

〜午後三時三十八分 佐川鷹志〜


「夢見ヶ崎って地名の由来は知っているか?委員長。」

動物園を回りながら、鷹志はサキにたずねてみる。

サキはさっきから、深刻な表情が消えない。

「たしか、太田道灌が、夢を見たんだよね」

サキが答える。その表情は、こっちの話しは上の空といった感じだ。

園内を駆け回るカナの後を追いながら、話を続けてみる。

「そう、ただ見た夢は・・悪夢だとされている。」

悪夢のはずなのに、『夢見ヶ崎』なんてファンシーな名前がついている。

それが不思議だった。

「悪夢・・」

サキはそうつぶやくと、何かを考え込んでいる。

表情は、ますます重く、苦しそうなものになった。

・・・しまったな。話を切り上げて、別の話に変えたほうがよさそうだ。

「そう、白い鷲が道灌の兜をさらっていってしまう。だから道灌は不吉を感じて、この場所に城を築くのを断念する。・・まあ、白い鷹や白い鷺だという説もあるが、白い猛禽類だと思っていればいいんじゃないかな?

ちなみに、この動物園には猛禽類とか、危険な動物はいない。なぜなら・・・」

話をしながら、考える。

サキがさっき立っていた場所は・・太田道灌碑の前だ。

サキの苗字が太田だからといって、結びつけるのは安易すぎる。

太田なんて日本中いくらでもいるだろう。

しかし、今回の一連の事件は・・・どうも流れが良すぎる。。

「猛禽類か・・」

サキがつぶやいた。

眉間に、しわがよっている。

おそらく、サキの中では古多摩町の、黒い猛禽類を考えているのだろう。

サキは、考えていることが本当に表情に出やすい。

「くさ~~~い。けど~~かあわいい~~~」

カナがペンギンをみて、はしゃいでいる。

その姿を見て、サキの表情は少し、穏やかになったようだ。

「サキ、一緒に回ってこいよ。おれはちょっと調べ物だ。」

そういいながら、背中を押してやる。

振り返ったサキの表情は、戸惑っている。

でも、少しうつむき、考えて、結論が出た様子だった。

「いってくる。」

笑顔でそういうと、サキはカナの元へ走っていった。

「さて・・・」

二人を視界にとらえながら、動物園のなかに散らばる神社や古墳跡をチェックして回る。どうやら、最近になって壊された形跡は無いようだ。

「となると・・・やっぱりあそこか・・」

独り言をつぶやくと、空を見上げた。

太陽は傾き始め、金色の光が、あたり一面に広がり始めていた。

「降魔が時か、黄昏か・・時間もそろそろいいころだな。」

時計をチェックする。

4時・・9分・・なんだか不吉な数字だ。

思わず、10分になるまで待ってしまう。

「た~~か~~~し~~~」

カナが叫んでいる。

「何してんの~~先行くよ~~」

サキもすっかり元気を取り戻した様子だ。

二人は、仲良く歩き出している。

「ああ、今行く!」

軽く答えて、二人の所へとはしる。とりあえず合流しよう。

はしりながら、どうも妙な違和感を感じた。

今いる場所が頭の中の園内地図と一致しない。

あそこは、いったいどこだろうか?

記憶では、この先はちょっとした展望デッキになっているはずだ。

しかし、緑がドンドン多くなっている。

二人までの距離はあと少し、林をぬけたところで、カナが手を振っている。

「はや~~い。たかし~~あとすこし~~」

太陽の光が、逆光になっていて、表情までは見えない。

林をぬけて、二人の元へたどり着く。少し開けた広場。

金色の光にあふれていて、輪郭がはっきり見えない。

しかし、この場所が、展望デッキなんかではないことはわかる。

「はやかったよ~~たかし~~飛んでるみたいだった~~」

カナが近寄ってくる。

また・・違和感だ。

カナが言うように、全力で走っていたのに、息が切れていない。

どうやら・・また・・・不意に手を握られる。

「また、きちゃったみたいね・・ワタシたち。」

そういったサキの表情は、今まで見たことが無いくらい。冷たい表情だった。

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