第33話 『Dream Cape』って、頭の悪そうな直訳

〜PM3:17 太田サキ〜


「もう~~~つかれた~~~~あし~~~だるい~~ぼ〜ぼ〜」

カナがぼやいている。棒と言いたいのだろうか?

カナの祖父母の家を出たのが2時半頃。

たいして歩いていないはずなのだが・・・

「たかし~~ひっぱって~~~~」

カナが佐川に手を引かせている。

手をつなぐためか!!

サキは先行する二人を見ながら、なるほど!と思った。

現在地は、目的地へ通じる、長い坂の中腹あたり。

ここまで来れば、私だって佐川がどこへ行こうとしているのかわかった。

『夢見ヶ崎動物公園』

川崎市立の動物園で、例の、加瀬山の上に立っている。

「『Dream Cape』って、頭の悪そうな直訳・・」

つぶやいた声が、佐川に聞こえたらしい。

「まあ、そういうなって。タイトルがついたほうがソレっぽいだろ。」

佐川が振り返らずに答える。

「あめりかっっぽいね~~」

カナが脊髄反射的に答える。

そんな会話を繰り返すうちに、動物園の入り口へと到着した。

「と~~ちゃ~~~く!と~~てむぽ~~」

カナが元気よく、入り口のトーテムポールに挨拶する。

「で、ここに何があるわけ?」

佐川に聞くと

「いや、別に・・来たかっただけ!」

佐川が答えた。

思わず、空を見上げる。

雲ひとつ無い快晴。ずいぶんと空が近い感じがする。

こんな気持ちのいい日に、なんで私はこいつとここにいるんだろう?

人生って言うのは不思議だな~~。カナとだったら途中でお団子とか買ったりできたのにな〜〜。

「お~~~シマシマ~~~」

カナの声がずいぶん遠くに聞こえる。

多分、置いていかれたんだろうな・・・

視線を戻すと案の定、佐川とカナは園内を歩き出していた。

私っていったい何なのだろう?今の時代は私のほうが異常なのだろうか?

そんなことが頭をよぎる・・・・考えても仕方ないか

とりあえず、二人の後を追う。

追おうとしているのだが・・・。追いつかない。

早足・・いや。走っても走ってもたどり着けない。

どういうことだろう・・・変だ・・・また・・さっきの感覚・・・体と感覚が溶け合っていくような・・・・・・・・・


・・・・―――――――――――。

「おい!サキ!」

揺さぶられている。

「サキ~~~だいじょ~~ぶ?」

抑揚のない声。でも心配そうだ。

なんでだろう?なんで二人が私の周りにいるのだろう?

目の前には石碑。何か文字が書いてある。

まわりを見渡すと、立っていた場所はちょっとした丘になっている。

木に囲まれていて、その隙間から、舗装された広場が見えた。

「ここ、どこ?」

つぶやくと。二人は、ほっとした顔になった。

私は、カナいわく。

「ふらふら~~ぴゅーーーって〜〜サキがいなくなった~~~」

佐川いわく

「気がついたら、サキがこの場所に向かって、直進していた。ものすごい早足で・・」

らしい。私自身は・・よく覚えていない。

私の知らないところで、ワタシが動いている。

嫌な気持ちが消えない。

あの夢でもそうだ。私の知らないワタシ・・佐川とカナを、笑いながら痛めつける自分。

「私、何していたんだろう?」

思い出そうとしても、フィルターがかかったような・・

うっすらぼけた感覚で、よくわからない。

ただ、そんな中、誰かから、何かをもらった・・・そんな記憶がある。

何をもらったのだろう?

左手を見ると、手のひらに青いアザのようなものが出来ている。

どこかにぶつけたのだろうか?

と考えていたら、その手をカナに引っ張られた。

「いくよ~~~。ペンペンがギンギンいるって~~~」

何事も無かったかのように、現実に引き戻された。

カナのこういう部分はすごく助かる。

私は心からそう思った。

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