第32話 沈黙の中、甘みが疲れを癒していった

〜PM12:32 太田サキ〜


「カナちゃん。よくきたね~~。それと、お友達も~」

出迎えてくれたのは二人の老夫婦だった。

「おばあちゃん、おじいちゃん。ひさしぶり~~、男の子が鷹志で~、女の子がサキだよ」

カナがうれしそうに近寄り、私たちを紹介してくれる。

「こんにちは、急にお邪魔してすいません。」

佐川が、相変わらずの猫かぶりで、丁寧に挨拶する。

「あ、ど、どうも、よろしくお願いします。」

なんだか私だけいつもこんな感じだ。ちょっと落ち込む。

気を取りなおす。なおそう。

なぜ、急にカナの祖父母の家に来ているかというと、

カナが言うには、三角縁神獣鏡を見た・・似た鏡を見た・・ポイことがある・・たぶん・・昔だから今はあるかわからないけど・・似てると思う・・・らしく。それは幼少期に住んでいた祖父母の家だという。

まとめると簡単?だけれど、カナから聞くには大変な労力だった。

とくに、祖父母の家の場所は、なんだか話したくないような感じで、

やっと聞き出した地名は

『日吉』

結構・・・近くだった。

聞いた後、カナが

「ごめん~~。じつは川崎に~~いったことが~~ある~~」

とわけのわからない事を打ち明けてくれたが、何のことだろう?

武蔵小杉から東横線にのりかえ、日吉。

慶応義塾大学という結構有名な大学を横目に、商店街をすすむ。

「サンロードとか、なかよし公園とか、○○銀座っていうのは全国にどのくらい存在しているんだろうな~~」

佐川がくだらない事をつぶやいているのは、無視。

商店街を突き抜けると、ちょっとさびしげな住宅街になる。

その中の一軒。

とても・・・大きな家の前で、カナは立ち止まった。

カナは一瞬、チャイムを押すのをためらったかのように見えた。

・・いや、きっと気のせいだろう。

居間に通された後、カナは変わった様子も無く、出てきた大量のお菓子をパクついている。

あ、佐川までモリモリ食べている・・そういえば、お昼まだだったな・・

そう思うと、私もおなかがすいてきた。ひとつつまむ。

おいしい!もうひとつ・・

―――――パク。―――――モグモグ。――――――――ゴキュ・・・・

沈黙の中、甘みが疲れを癒していった。



「それで、その鏡をお借りしたいのですが・・」

佐川がおじいさんと話をしている。

お菓子の食べっぷりを見たおばあさんが、持ってきてくれた、おにぎり。

それも軽々とたいらげて、渋めのお茶でやっと一息ついた時、来た目的を思い出したのだった。

「こんなもの、うちにあったか?」

おじいさんは写真を見ながら、おばあさんに聞いている。

「さてねえ~~」

おばあさんも首をひねっている。

「あったよ~~~。あの、でっかい~~おしろ~~」

お城???カナの言葉は相変わらず、突拍子も無い。

「あ~~。蔵の中か、いいよ。ガラクタしか入ってないが、もっていきなさい」

おじいさんはなぜか納得して、蔵へと案内してくれた。

蔵は時代劇に出てくるような、漆喰塗りの外壁と瓦屋根の土蔵だった。

カナが城と呼んでいたのもうなずける。

というか、蔵のある家なんて、初めてだ。

「あれ~~~~?なんだか、ちいさくなった~~~??」

カナが首をかしげている。

「はっはっは。カナちゃんが大きくなったんだよ。さて、じゃあ、好きに探しておくれ」

おじいさんはそういうと、家の中へ戻っていった。

「さて・・」

佐川が木の扉から、かんぬきをはずす。

ギギッズズズ・・ギギギギッ

重く、鈍い音をたてて、扉が開いていく。

カナが中に入り、電気をつけた。

ジジジジジ・・・

今にも切れそうな電気の音が、静かに響いてくる。

蔵の中は、電気がついていても薄暗く、そして、なんだか湿っぽかった。

ほこりと土のにおいが鼻につく。

「いて!!」

後ろで佐川が頭をぶつけている。

そういえば、天井が低い。2階建てなのだろうか?

しかし、見渡してみても二階へあがる階段は見当たらない。

膨大な量のガラクタに隠されているのかもしれない。

入り口付近には、三角コーンや電飾。クリスマスツリー。三輪車。

壊れたローラースケートなんかが、無造作に積み上げられている。

この辺は、比較的新しそうだ。

「たしか~~。このへんに~~~あ~~~懐かしい~~」

カナが、ごちゃごちゃとした部分を、さらにごちゃごちゃにしている。

少し奥に行くと、棚に入った筒や、桐でできた高そうな木箱が並んでいた。

「この中から探すとなると・・ちと大変だな・・」

佐川がぶつくさ言いながら、積みあがった箱の中身を確認している。

その奥。何も無い空間に、私はなんだか違和感を覚えた。

意識が景色とともにゆがむ・・。

吸い寄せられるように私は天井にあるへこみに手をかけた。

ガゴッ・・ガラガラカラカラカラ・・ズズン。

天井から階段が降りてくる。

「あ~~さき~~すご~~い。」

「おい、サキ。どうやったんだ?」

カナと佐川の声が遠くから聞こえる。

足は階段をあがり・・二階にたどり着く。

「おい、待てって、イテ!」

「たかし~~大丈夫~~??」

二人の声は、もう気にもならない。

そう。アレがあそこに・・空間が一点に向かって伸びていくような感覚。

きっと私が探しているのはあそこにある。

いや、あそこにあるものが私を探させているのかもしれない。

自分と空間があいまいになっていく・・・この感覚は・・夢と同じ・・・

・・・・最後は・・・・真っ暗・・・・・・・・・・・

・・・・―――――――――――。

気がつくと、真っ暗な場所にいた。

なんで、こんなところにいるのだろう・・あたりを見渡す。

一点だけ地面が明るい。チラチラと光が動く。・・・だれか・・来る。

パチッ

軽い音とともに電気がついた。

つけたのは、佐川とカナだった。

「あ・・ここは?」

二人に聞いてみる。

「ここは、カナの、じーちゃんの、家の、蔵の、二階。」

「そして~~あなたは~~太田サキ~~15さ~~い」

見事な連係プレイだ。

おかげで自分が、蔵の中を捜索していた事を思い出せた。

「おい、サキ。その抱えているのは・・なんだ?」

佐川が私の胸元を指差した。

これは・・なんだろう?確かに何かを抱えている。

薄い青で染められた織物に、くるまれた、硬くて円形の・・

「あーーーー。それ~~~。それだよ~~」

カナが飛びついてきて、抱えているものを広げ、高らかに掲げた。

「さんかく~~ぶち~~~しんじゅ~~きょ~~」

パッパパ~~~ン

どこかでファンファーレが鳴った。

いや、佐川がおもちゃのラッパで鳴らしていた。

下のガラクタの中にあったな・・あのラッパ。

「とにかく、これで裏面!第二ステージもクリアーだな!よし、いくぞ~~」

「お~~~~」

「ちょっとまってよ、行くってどこに?」

盛り上がる二人についていけず、思わず聞く。

「決まっているだろ!NEXTステージさ!題して『Dream Cape』」

ビシッと指差す佐川のポーズは・・案外、決まっていなかった。


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