第30話 出来れば行きたくない。誰か反対してほしい。
PM2:37 太田サキ
「というわけで、体を取り返して欲しいと毎晩言われて、夢から覚めるわけだ。その期限は年が明けるまで・・というあやふやな感じだな」
うろ覚えで独自の視点であるカナの夢。いまいち容量をえない部分も多いが、サキにはその部分がハッキリとわかる。・・口を開きかけると・・
佐川が詳しく夢の内容を補足、整理した。
「あんたも、クスタの夢を見たの?」
サキは思わず叫んでいた。
「クスタ~~?」
カナは、だれそれ~?という表情をしている。
そういえば、カナは寝ていて、直接クスタにあってはいないのか・・
「クスタって言うのは、その光っている子どもの名前。」
カナに教える。
「ほほ~~。じゃあ男の子だね~。いっけんらくちゃ~く」
カナの中では何かが落着したらしいが、そう簡単な事ではない。
「サキも見たって事でいいんだよな・・夢」
佐川が聞いてくる。そう・・クスタの夢を3人共見ている。
内容も一緒だ。偶然ではないのだろう。
・・・あんなことの後だ、偶然のわけが無い。
「委員長。どうするんだ?」
佐川が聞いてきた。
相変わらず、委員長と時々呼ばれる・・昔ほど嫌ではなくなってる?
「どうするって、どういうこと?」
「ど~~ゆ~~こと~~??」
カナも私のまねして、佐川に聞いている。
佐川のメガネが・・・こいつは意識的に光らせられるのだろうか?
「クスタの体を探して届けるのかってことだよ。」
何で私に聞くんだろう?
「あたしは~~みんなが~~いくなら~~」
カナが言った。
「ちょっと、カナ。そんな簡単に決めていいの?」
思わず口を挟むと、カナは不思議そうにこっちを見ていった。
「サキは~いかないの~?」
言葉に詰まってしまう。
いくにしろ、いかないにしろ、簡単に答えが出せる問題じゃない・・・
・・・・ような気がする。気がするのだ。
「おーーーい。席につけ~~。ホームルームやるぞ~~」
ドアを無造作に開けて入ってきた副担任の声で、迷っていた私に、もうしばらくだけ考える時間ができた。
PM18:05 太田サキ
「本日もまた、神奈川県、川崎市で不可解な行方不明事件が起きました。
目撃者の話では、神隠しにあったかのように、姿が消えた。交差点を曲がったら、いなくなっていた。など、パニックを起こしている人も多く、警察はカウンセラーや病院と協力をして、捜査に当たっています。行方不明になっているのは、現段階でわかっているだけで11名。いずれも12歳から、16歳の少年少女で、警察は何らかの事件に・・・」
テレビでは、メガネをかけたアナウンサーが、作ったような表情でニュースを読んでいる。
あれから二日。金曜日になった。
しかし、サキはまだ、答えが出せずにいた。
クスタは毎晩夢に出てくる。
その姿は日に日に・・弱弱しくなっているように感じた。
クスタを助けに行かなくては・・夢を見るたびに、そう感じる。
しかしまたその一方で、その夢が、気になってしまう。
問題は、夢の始まりだ。
佐川が倒れている理由。カナが倒れている理由。
二人は、その部分を夢に見てはいないらしい。
けれど、私は夢に見ている。
佐川とカナをあんな状態にしたのはワタシ自身なのだ。
しかも、夢の中のワタシは、とても楽しそうにソレを行うのだ。
夢から覚めている今、そのことを考えると・・
・・暗く、恐ろしく、そして悲しい気持ちに襲われる。
だからあの世界へ行くことが、とても怖い事に感じるのだ。
こうやって、膝を抱えて考えていたとしても、答えはだせない。
それは解っていた。そんな自分が、歯がゆく思う。
ぼんやり見ていたテレビの画面は、いつの間にか違う風景を写していた。
「この公園から、10メートルほどのあの地点。母親と買い物をした帰りだったそうです。12歳になる・・・」
アナウンサーが実況している場所。テレビに映る風景に、私の目は釘付けになった。
あの公園だ。
迷いついた公園。帰ってきた公園。尻手駅の近くの、小さな公園。
電話が鳴っている。
楽しいメロディーのはずの『もりのくまさん』が、胸を締め付ける。
着信は・・佐川だった。
「もしもし」
「サキか?テレビのニュース見てみろ。神奈川の!TV・・」
佐川のすこし、あわてている声。
「見てる。見てるよ・・これって、あの公園だよね・・」
私の声は少し震えた。
「サキ、どうする?」
佐川に問われる。
なんで、私に聞くの!という言葉をのみこみ・・
「やるしかないじゃない!」
と答えた。
不安でしょうがない。出来れば行きたくない。誰か反対してほしい。
様々な事を考える・・でも、行くしかないと答えは出ていた。
「そうか・・わかった。」
返ってきた佐川の声からは感情が読み取れない。
しばらく沈黙が続く。
「でも・・クスタの体を捜すって、どういうことなんだろう?」
沈黙を破るように、佐川に聞いてみる。
「ああ、それなら、ある程度は見当がついている。」
返ってきた答えは意外なものだった。
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