第28話 目玉焼きにかけるのは何か?
〜AM8:23 太田サキ〜
「結局、何がどうなったのか、得意の考察はどうなの?」
サキは佐川に問いかけてみた。
あの後、それぞれの家から電話があって、カナの迎えが来るまではひとまず私の家にて待機することになった。
カナは『パパが~~来る~~』となぜか、そわそわしていたのを、
薫に進められ、入浴中。
薫は私たちの話を、すべてではないが信用してくれたらしい。
不思議な親だ。私自身、信じられない話ばかりなのに・・
「ま、あんたがそういうんなら、そうなんでしょう」
と薫は軽い感じで答える。
その反面、父は号泣しながら、
「無事でよかった~~かわいいわが娘よ~。おまえに何かあったら、あったら~~」
と恥ずかしい一面を皆に見せた後、出社。
弟は「おかえり~」と言って寝てしまった。
一応、起きて、待っていてくれたらしい。
落ち着いて、考えてみると不思議な事だらけだ。
部屋の外からは、薫が朝食を作る音と、香りがしてきた。
佐川はコーヒーを一口飲む。
その後に、わざわざ椅子に座ると、講義を始めだした。
「考えるに、あの世界は、現実とは別の世界だね」
「そんな事わかってるよ!」
ついつい、突っ込みを入れてしまう。
「まあ、まあ、落ち着いて。つまり、夢の世界なわけだ。問題なのは、誰の・・いや何の夢なのか?」
何の夢?というのはどういうことだろう。
佐川が続ける。
「あの町に至っては、駅から山の方へ行くにしたがって、古い建物になっていく。」
たしかにそうだ。駅前にあるのは比較的新しい建物が多い。
「しかし、すべてが現実には存在しない。つまり、なくなってしまったり、壊れてしまっているお店や建物だ。」
いいたいことが見えてきた。
「物や、町の夢ってこと?」
佐川に聞いてみる。
「ああ。そういう事だな・・いや、それどころか、この土地自体の夢なのかもしれない。もしくは・・」
佐川が黙ってしまう。なにか、考えているのだろう。
土地自体が夢をみる。
突拍子も無い話だけれど、佐川の話は、なぜか説得力がある。
「そういえば、アラームがなったとき、何でチャンスだ!っていったの?」
佐川に、一番気になっていたことを聞いてみた。
アラームがなったせいで、黒い鳥に見つかったのに。
「ああ、あれか~」
佐川はコーヒーを飲みきって、話し始めた。
「時計が止まったのは覚えているよな。」
「うん」
「俺の超高性能電波時計は、電波をキャッチして時間を正確に表示するんだ。」
さりげなく自慢が入る
「だから、電波がないと、誤差が出る。まあ、夢の世界では止まってしまったわけだけど・・」
「確か、日没の時間よね」
「そう。よく覚えていたね~~委員長。あの後に、アラームをセットしたのだよ。日の出の時間にね」
なるほど、たしかに現実と夢の世界をつなぐ時間。と佐川が言っていた気がする。
「それで、駅に走ったわけ・・」
佐川は見えないところで、助けてくれていた。
・・・それに比べて、私は何をしていたのだろう。
「まあね、でも、電車に乗り遅れたときはあせったよ~。無理やり飛び込むって手もあったけど・・・ねえ?」
想像したくない。失敗したときのことを
・・ミンチ状になっちゃうんだろうか?・・想像してしまった・・
「でもあれだな・・」
嫌な妄想していると・・佐川が不意に口を開いた。
「夢の中でほっぺたをつねって痛くない。って確認するけど、夢の中でも痛いものは痛かったな~~」
あ、そうだ。
思い出してしまった。
あの時、佐川に助けてもらって、佐川が腕を・・・
涙があふれてくる。私なんかを助けるために。
ありがとうって言いたいのになかなか言葉にできない。
「お、おい。どうした?」
佐川があわてている。
「あ~~~~」
抑揚の無い、平坦なカナの声。
「たかし~が~~。おそってる~~」
風呂上りのカナが妙な誤解をしたせいで・・・思わず涙が止まり笑いが込み上げてくる。感情がめちゃくちゃだ。
「いや、ちがう、どちらかというと襲われた側だ。猛禽類に!」
佐川が妙な言い訳をしている。その横でこっそり小さな声で、
「うで・・ごめん」
と、佐川にいった。
うまく、言えなかった。
本当は『ありがとう』って言いたかったのに。
佐川はチラリとこちらを見ると
「そんなの気にしてないから、誤解を解いてくれ!」
と必死だ。
カナは相変わらず、わかっていないけど、わかっている風な顔をして、
「事情はわかりました~~。とにかく~あやまりなさ~~い。」
といっていたので、ついに吹き出してしまった。
「朝食できたわよ!Boy&GIRLS!」
薫が台所から叫んでいる。
「は~~い。薫さん今行きま~~す」
助かった、とばかりに佐川がリビングへ。
「まて~~~」
とカナも続く。
なんだか、にぎやかな朝だ。
「ケチャップに決まっているでしょ!他は邪道だわ!」
「実はソースが合うんですよ。薫さん」
「マヨ~~じょうゆ〜〜最強説〜〜」
目玉焼きにかけるのは何か?
そんな会話を聞きながら、目玉焼きに塩を振る。
平凡な日々がまた、戻ってきた。
そんな気持ちでいっぱいの朝ごはんを食べる。
・・・勝手に私の目玉焼きにマヨを乗せるな!カナ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます