第27話 なるはずのない着信音

〜午前六時十五分 佐川鷹志〜


眉毛が極太で凛々しい。もみあげも立派だ。鼻もクッキリとしていて。

頬には刻まれた深いシワ。後ろに立ったら首の骨をおられそうだ。

われながら、傑作の出来。加えた葉巻がチャームポイント・・

これが笑わずにいられるだろうか?いや、笑わずにはいられない。

反語。なるほど、反語とはこう使うのか!

その傑作が真剣にこっちを見ている。じっと・・られる!

鷹志はそんなことを考えて、思わず吹き出してしまった。


夢の世界から抜け出そうと飛び上がると・・

・・視界がゆがんで 飛べなくなって・・ああ、僕はいつ頃・・

などとアホな事を一瞬思いながら前へと進むうちに・・視界が定まり

気がついたら、この公園の近くに自分たちはいた。

飛べなくなるということは、夢の世界から現実へ戻れているのだろう。

カナは急に重たく感じたし、サキも寝てしまっている様子だ。

引っ張っても動かない。

手をしっかりと、痛いくらいに握られていて、座り込んでいる。

やっとのことで、サキとカナをこの公園に運び、缶コーヒーで一服。

暇になったので、芸術家の血が騒いだ!といういいわけで、顔面ペイントを楽しんでいた。それ以外のイタズラはしていない。誓って。

そんなことをしている間に、時刻は6時10分。

そろそろ連絡が来るころだろうと考え、顔を洗っていた所だった。


サキはまだ、キョトンとしている。その上に

「佐川、大丈夫?どっか悪いの?」

心配までしてくれた。

やはり、サキという人間はこうでなくては面白くない。

夢の世界では、危うく見えたが、今はその面影は無い。

「だ、大丈夫!それより、お前も顔を洗えよ、ひげが生えてるぞ!」

ほっといたら、そのままの顔で一日を過ごしそうな気がして、

タオルをサキに差し出した。




〜あさはやくめがさめたあと 鳩ヶ谷カナ〜


カナが目を覚ましてはじめてみたのは、サキの華麗なるドロップキック。

テレビみたいに、ぎゅーーん。どかーーん。って感じで、鷹志が吹っ飛んでいきました。

「お~~~ないす~~き~~く!」

パチパチパチパチ

拍手をしながら言うと、サキが抱きついてきた。

「カナ、気がついたのね!私たち、戻って来れたんだよ!」

変なことを言ってるサキ。何のことだろう?

よくわからなかったけど、サキに抱きしめられているのはちょっと不思議な感じ。でも嫌じゃない。

「さ~き~~。くるし~~よ~~」

サキはなんだか泣いてるみたい。

カナもなんだか泣いている。なんでだろ。

「なんで~~カナたち~~ないてるの~~??」

それに、ここはどこだろ?

サキのうちにとまりに行こうとして、どうしたんだっけ?

「みんな気がついたな~。よし、そろそろ行こうか?」

鷹志が声をかけてきて・・何で鷹志がここにいるの?

わからないことだらけだけど、

ぐっすり眠った後みたいに、気持ちがすっきりしてる。

「どこ~~いく~~?」

よくわからないけど、きっとサキや鷹志に聞けば、大丈夫。

前よりも素直にそう思えたのはなんでだろ?

「ちょっとまって、カナ。その前に顔を洗おうね!」

サキに連れられて、水のみ場で顔を洗う。

「おでこおでこ。良し!はい、カナ。タオル。」

横で面倒を見てくれるサキは、なんだかちょっとママっぽい。

そんなことを考えていたら、音楽が鳴った。

ひとつ、ふたつ、みっつ。

ひとつは「森のくまさん」・・これはサキのだ。

もうひとつは「ちゃるめら」多分、鷹志。

最後のは、なるはずのない着信音「パパの歌」

スマホを取り出して、ちょっと緊張しながらディスプレイを見る。

時刻は6時30分ちょうど。『着信中・・パパ』

電話に出てみる・・懐かしい声。

「カナか?大丈夫なのか?」

変わらない声。大好きだったパパの声。

「うんカナだよ~」

びっくりしながらも、頷く。

「カナ?無事なんだな?」

『いつでもかけてきなさい。』

そういって最後の日に携帯を買ってくれたパパ。

でもかけられず、かけてくるのを待つしかなかった・・

・・そのパパの声が聞こえる。

「うん。どうしたの~~?急にかけてきて~~」

喜んではいけないんだ。

本当はもうカナのパパではないから。

「ママから・・電話があってな。今から迎えに行くから。」

迎えに来てくれるということは、あえるのだろうか?

そうしたら、真実がきけるだろうか?

この年になれば、カナだって恋をするから・・・しているから・・

・・ママと別れた理由は、別に納得している。

それよりも、大切なこと。

カナのこと、今、どう思ってる?

聞くのが、怖かった質問だった。

でも今だったら、なぜだかわからないけれど、きけそうな気がした。

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