第25話 よくもまあ、ほいほいと人を信用できるものだ・・鷹志
〜時間予測未明 佐川鷹志〜
鷹志は、背中の重さに気を配りながら、立ち上がった。
背中には、すやすやと寝息を立てるカナ。
夢の世界の中で眠るなんて、お気楽なやつだ。
そんなことを考えながら、あたりを見渡す。
少し離れた所にサキが立って自分と同じようにあたりを見ている。
しかし・・サキに関しても謎が深まるな・・元々の性格が出ているにしては
説明・・いや整合性がつかない部分もある。今はまだ違和感でしかないが・・
サキの表情を見ると何も変わっていないようにも見えるし・・??サキがどこかを見つめている。その方向につられて顔を向ける。
その瞬間、迷路の中にオレンジ色の光が差し込んできた。
崩れていく迷路。作り出した張本人の意識が消えたからか?
・・・それともサキが何かをしたのか?
急な光に、視界はついていかず、しばらくは目を細めてあたりの様子を伺う。
光に目が慣れてくると、公園の様子は一変していた。
緑にあふれ、噴水からは水がキラキラと光っている。
「ここって!」
サキが何かに気がついたらしく、地図をクルクル回転させながら、見ている。
典型的な地図の読めない人間の行動だが、何も言わずに見守ることにした。
こういう時に声をかけても、良い結果には結びつかない。よく分からない禍々しい物で殴られるのはこりごりだ。
まあ、サキの反応からすると、地図に載っている公園なのだろう。
「駅はこっちよ!ついてきなさい!」
と、サキが歩き出そうとする。
・・・サキはこんなにはっきりとものを言う人間だったろうか?
この世界にきてから、だろう。違和感はますます大きくなる。
早いところ、この世界から抜け出したほうがよさそうだ。
そう考えていると、後ろから声が聞こえた。
「そっちへ行くと、鳥がいるよ~~」
振り向くと、ブランコをこぐ、クスタと名乗った子どもの姿。
そのままブランコの勢いで飛んで、サキの目の前に着地する。
今まで、どこへ消えていたのか?
・・・どうも信用のできない部分がクスタにはある。
そんなことを考えていると、サキが直球で質問した。
「クスタ!今までどこにいたの?」
「いろいろ~。それより、ここにいると、鳥に見つかっちゃうよ~~」
鳥というのはさっきの黒っぽい猛禽類だろう。
しかし、その言い方からクスタは何かをごまかしているように見える。
「じゃあ、どっちへ行けば良いの?」
サキは、クスタを一応だが信用している様子だ。
「こっちだよ~ついてきて~」
クスタはテコテコとすべるように歩いていく。
「わかった!佐川!いくわよ!」
やれやれ・・よくもまあ、ほいほいと人を信用できるものだ。
ましてやここは、夢の世界。深層意識の世界だ。
壁を簡単にすり抜けたことといい、クスタはそこの住民だろう。
・・であるならば、誰の深層心理なのだろう?
そんなことを考えながら、サキに続き、クスタの後を追う。
細い路地を抜けていくと、遠くに山が見える。
「こっち!こっち~~」
クスタが路地の先で左へ曲がる。
なんだか角を曲がるたびに、少しずつ視界にモヤがかかっていく気がした。
「霧が出てきたわね~」
サキも同感らしく、声をかけてくる。
背中のカナは相変わらず、規則的な寝息を立てている。
角をまた曲がる。
霧が濃くなり、日の光を乱反射して視界はさらにおぼろげになる。
もうサキの背中がかろうじて見えるくらいの視界だ。
・・・このままだと見失う可能性が高い。
「サキ、ちょっと止まってくれ!」
背中に声をかけるとサキは立ち止まり、振り返る。
??? どうもおかしい。サキの隣に立ってみる。
・・・・なんだか妙な違和感を覚えた。
というのも、立ち止まったサキは、思ったよりも近くにいた。
遠近感が狂っているのだろうか?・・自分の手をじっと見る。
・・・・!?自分の服の袖・・いや服自体・・こんなに大きかっただろうか?
いや、違う。この場合は自分が縮んでいるのだろう。
「サキ、この霧、もしかしたら危ないかもしれない。」
「どういうこと?」
まだサキは気がついていない。
「俺たち、縮んでいるぞ!」
「え!?」
サキは自分の服を確認している。
「オイ!クスタ!」
叫んでみる。
クスタ クスた kusuta くすタ クスTA くSUター
反響がすごい。
コッチ コッチ コッチだよ~ コッちこッチ こッチだって~~
クスタの言葉が、いろいろな方向から聞こえてきた。
これはもしかすると・・いやもしかしなくても・・・嫌な予感。
そのまま サキの手を取り 走り出す。
角をいくつか回り 霧の薄いほうへ 薄いほうへ 走っていく。
「ちょっと、ちょっと、どうなってるのよ~~!」
サキが講義しているが、今はこの霧から抜けるほうが先だ。
三つ目の角を曲がったときに、急に突風が吹いた。
吹き飛ばされそうになるのを必死でこらえていると・・・
ピュルーーコワッコワ ギギ――――
鳥類の泣き声が聞こえる。
頭上を見上げると、オレンジ色に輝く空に、ひとつの黒い点が見えた。
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