第24話 大丈夫。痛いのは初めだけだから

〜AM/PM ??? 太田サキ〜


カナの表情がスローモーションで動いていく。

優しく笑っているような表情から 一瞬無表情になり 

目に力が入り 眉間と口が歪んでいき それが顔全体に広がる。

一瞬の変化だったが、サキにはしっかりとそれが見えていた。

「あんたたちなんか、嫌い!」

ハッキリとした声でカナはそういった。

そのまま言葉は、カナの口からあふれ出てくる。

「嫌い!嫌い!そうやっていつも本当のこと言わないで、冷静で、常識的で、やさしくて、カナのことわかったようなふりをして、本当にわかってくれようとは絶対にしなくて、鷹志なんて、鷹志なんて、カナの前から居なくなっちゃえばいいのよ!!」

見たことも無いような表情で、カナは佐川に言葉をぶつけ続ける。

「カナ!落ち着いてよ!」

思わず、カナの肩をつかんでいた。思った以上に勢いがついてカナの顔が近い。

カナは一瞬ビクッとして、私を見つめた。

カナの沈んだ瞳から、ゆっくりと水滴があふれ、顔の凹凸をつたっていく。

「サキも嫌い。カナに無いもの、いっぱいいろんなもの持ってて・・鷹志だって・・みんな、みんな居なくなっちゃえばいいのよ・・どうせ、みんな居なくなっちゃうんでしょ・・だったらはじめからいらないもん!一人でいい・・カナの事なんてほっといてよぉ」

「情けないこと言わないでよ!私だって!」

心が口からあふれ出す。

「うまくやりたくて、頑張って、でもうまく出来なくて。羨ましくって、生きてるだけで自信なんか無くなっていって。そんな自分が嫌で、嫌で嫌でたまらないけど、何とか必死で戦ってるんだから」

砂を濡らしている水滴は、カナの涙だけではなくなっていた。

「おんなじ・・」

カナはあっけにとられた顔で私を見つめて言った。

「一番嫌いなのは自分。ホントは嫌なのに、嫌って言ったら嫌われそうな気がして、いつも言えない自分。本当に消えてほしいのは、そんな自分・・」

そこまで言うとカナは私にしがみ付いて泣きじゃくった。

思わず抱きしめる。細いのに柔らかい。震えている。

・・・まるで、小さい子どもみたいだ。

涙と鼻水とドロドロになった手で、しがみついてくるカナ。

私の服もドロドロになっていったけど、不思議と・・いやじゃなかった。

カナの体をしっかりと抱きしめ直して背中をさする。

確かにカナはそこに居る。心も、体も。その事がうれしかった。

「カナ、帰ろうよ。」

ハンカチでカナの顔や手を拭きながら、カナに言った。

「かえる~~場所~~無い~~」

泣きながら、カナは言う。

「いえ~~誰も居ないもん~~ご飯冷たいもん~~」

しがみ付いてくるカナ。

「物音すると~~こわいもん~~」

カナの震える背中を、やさしくトントンとする。

私が怖がるといつも親がこうしてくれた記憶が身体を動かした。

カナの震えは少しずつ・・少しずつ収まっていく。

「じゃあ、今日は、家にとまりには来ないんだね?」

しゃっくりを数回したあと、カナは答えた。

「とまりに~~行く~~」

呼吸もだいぶ落ち着いてきた様子だ。

「じゃあ、カナ、とりあえずここから出よう。」

規則正しいカナの息遣いが聞こえる。

返事は聞こえない。また、しばらくの時間が流れた。

その様子を見ていた佐川が、久しぶりに口を開いた。

「もしかしなくても・・・寝てるな」

しまった。佐川がいた事を途中から忘れていた・・ああ・・どうにかして

佐川の記憶を消さないと・・ゆっくりと佐川に視線を送る

「サ!・・サキ・・さん。あの、落ち着こうか・・いや落ち着きましょうね」

「私は十分落ち着いているけど・・何か?」

「いや、そんな漫画でしか見た事ないものを想像しなくても・・危ないですよ、そんなものを軽々と素振りをして一体何をするつもりなんですか?なんて事が気になったりしていまして」

「ああ、これ。モーニングスターキヲクヨナクナレ壱号。ちょっと佐川そこを動かないで、手元が狂うと危ないから」

「手元よりも思考が狂っていると思うんですけど」

「大丈夫。痛いのは初めだけだから」

「そのセリフを高一女子が言うのはNO GOODだと思うのですが・・」

「痛いの痛いの飛んでいけ!記憶とともに!」

佐川は逃げ出した・・しかしボスからは逃げられない

・・・・・・・・・・・・・・・・


少し無駄な時間を過ごしてしまった。

ドロドロになったカナの顔と服を整えながら少し物思いにふける。

これで終わりだといいけど・・

サキはメイクの基本をカナに叩き込まれていたが、自分にする勇気はない

夢の世界だからなのかうまくできている気がする。

一応基本だけは抑えたナチュラルなメイクに・・・思った以上にカナは美少女だ

普段は塗りすぎなのではないか?これなら佐川もイチコロだろう

すでにイチコロしているから2コロかな・・面白くもない

結局記憶を失わなかった佐川は

「ここで見た事、聞いた事は誰にも言わない。もし言った場合は10号釣り針を100個飲んで見せる」

とよく分からないが具体的な条件を出して、少し離れた所で五体投地している。

もしも動いて乙女の秘密きがえをのぞこうものなら再度記憶喪失実験に付き合わせる約束になっている。

「佐川、終わったよ。カナの事おんぶしてもらえる?」

佐川はゆっくりと立ち上がって言った

「仰せのままにご主人様」

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