第23話 まるで映画のワンシーンみたいだった

〜AM/PM ??? 太田サキ〜


結構なスピードで飛んでいくクスタの後を、サキたちは遅れることなく飛びながら追いかけていく。

一度飛べると体がわかってしまえば、案外簡単なもの・・・

走るのよりも楽に感じる。何よりも、爽快感がある。気持ちいい。

・・今なら何だって出来そうな気さえする。

いくつかの角を曲がり、同じような景色が続く。

そうのうち、道は真っ直ぐになり、だんだん広くなってきた。

「ここだよ~」

クスタが止まり、指した先は、なんの変哲のない壁。

「行き止まり?どういうこと?」

私の問いかけにクスタはクスクスと笑う。

「だましたの?」

「だましてないよ~この壁の向こうにカナちゃんはいるんだって。」

そういうとクスタは壁のほうへ歩いていき・・

・・壁など無いかのように壁の中へ消えてしまった。

「ほほーーこれは興味深ヒヒ~ン」

佐川は壁を調べながら、上機嫌だ。

私もクスタが消えたあたりの壁を手で触ってみる。

見た目は木のように見えるが。冷たく硬い。質感はコンクリートのように感じる。

「と~~~。グわっ!!」

隣で佐川が壁に突撃して、頭の上に星とヒヨコを回転させている。

「あんたって、どんな状況でもそういう事を忘れないのね」

「それがオレのいいところだ!」

「胸を張っていわないでよ。それより、この壁どうなってるの?・・・・得意の考察は?何かあるんでしょ。」

「ふむ。おそらくカナはこの中にいるだろうな、それでこの壁は、カナの心のバリヤーみたいなものだと思う。」

「心のバリヤー?」

「ああ、ほら、人って他人には見せたくない自分ってのがあるだろ?」

真顔で佐川に言われて、心が締め付けられる感じがした。

他人に見せたくない部分は多すぎて、普段の自分にだって満足しているわけではなくって。うまく心の中のもやもやが形に出来ない。

「まあ、面白いのがこの迷路全体がバリヤーなんだろうけど、カナの場合どこかに穴があるというか、隙間だらけというか。まあ、カナらしいっちゃらしいけど」

佐川の言葉が遠くに感じた。

私の手は壁に触れる。手のひらが熱くなって・・

ビヴシィッッ

何かに亀裂が入ったかのような音が空間に響いた。

「おい、サキ!お前・・」

佐川の顔が驚きの色で染まっている。

それにかまわずに、ひび割れて崩れていく壁。その隙間へ足を踏み出していた。

瞬間グニャリと視界がゆがむ。白から灰色、黒。

目をつぶっていると見えるような、ウネウネが視界を覆う。次第に平衡感覚が無くなっていって世界が暗闇だけに覆われていった。

「おい、サキ!」

佐川の声と腕を掴まれている感覚。

手のひらから暖かさを感じた瞬間、視界が急に鮮明になった。

「ここは・・公園?」

見渡してみると、滑り台。ブランコ。ベンチ。そして私の腕を掴んでいる佐川。

その目は一体何があったと問いかけているようだった。

自分が何をしたのかは理解していた。

でもそれは映像を見ているようで、あまりにも現実感が無さすぎた。

「お前・・いや、いい。とにかく、今はカナを探そう」

佐川は一瞬言葉を濁すと、私の腕を放して歩き出した。

そうだ、カナを探さなくては。カナを見つけて現実に帰ることが一番だ。

自分の事は後で考えれば良い。

一つ一つ自分に言い聞かせるように考えをまとめる。

まとめながら佐川の後を追いかけ横へ並ぶ。

佐川は、遊具が密集しているあたりを目指しているようだった。

「ずいぶんと荒れ果てている公園だな・・」

佐川のつぶやきは、確かに現状を表していた。

ブランコは片方の鎖がちぎれているし、おそらく噴水だったであろう・・コンクリートの囲いに、所々緑色の水溜りが出来ている。

どれも存在感が希薄で、そこにあるのに見落としそうになる。

見る事に集中しないと、暗闇の中に紛れてしまいそうになる。

まるで暗闇がこの公園を飲み込もうとしているかのようだ。

「おい、サキ!いたぞ!」

佐川が声を上げると同時に、私の目にもその姿は飛び込んできていた。

砂場。比較的周りに比べると明るい。

そこで一人で砂遊びをしている少女。

黒のフワフワのミニスカート。体にぴったりとあった黒いロングコート。

縞々のニーソックスにクシャクシャのブーツ。

頭にこうもりの羽の付いたカチューシャ。

カナだ!頭で理解した時には、体は砂場へ走り出していた。

カナは手をドロドロに汚しながら、砂をいじっている。

「カナ!カナ!」

呼んでも返事がない。

「カナ!」

駆け寄り、肩を揺さぶる。

カナはまず私の手を見つめて、スローモーションのように・・

ゆっくりとこっちを見上げた。

「あ~~。サキ~~」

目に力がない。

こんなカナは見たことがなかった。

「どうしちゃったのよ!カナ!」

カナは、また砂をいじりだす。

「さがしてるの~~」

手のひらはドロドロに汚れて、うっすらと血がにじんでいる。

「でも~~みつからないの~~ゆびが~~うまく~うごかなくって~~」

「おい、カナやめろ!」

佐川がカナの手をつかむ。

「さわらないで~~」

カナが叫んだ瞬間、佐川が吹き飛んだ。

まるで、風に巻き上げられた木の葉のように佐川の体が遠ざかっていく。

そしてそのまま地面へ・・私は思わず目を閉じた。

「カナ、いきなり何をするんだよ。」

暗闇の中、佐川の声が聞こえる。

優しい声だ。ゆっくりとしゃべっている。

目を開けると、空中に浮かぶ佐川と、相変わらず砂をいじるカナ。

カナは佐川の問いかけに反応しない。

「カナ?何を・・探しているの?」

思わず声をかける。わずかな反応。

「われちゃったの~~。かけら~」

抑揚のない能天気な声、音はいつもと同じだけれど、そこに感情は感じられない。

カナの手元を見ると、割れてしまった陶器のカケラが並べてある。

「佐川、一緒に探すわよ!」

声をかけると佐川はうなずき、砂場に降り立った。

カナの横に座り、一緒にあたりを探してみる。

壊れたジョウロ アスファルトの破片 底に穴の空いたバケツ

砂場からは様々なものが、その一部を地上へ突出させている。

佐川の方をチラリと見ると、探しもせず、なにやら考え込んでいる様子だ。

「ちょっと、佐川!あんたも探しなさいよ!」

文句を言うと、佐川はカナを見ながら言った。

「サキ、多分、カナの言うカケラは・・俺たちじゃあ見つけられないぞ。」

「どういうこと?」

佐川は何を言っているんだろう。

そのまま、佐川はカナにしゃべりかけた。

「カナ、カケラは見つからないよ」

すごく優しい声だ。カナの手が止まった。

「カナもわかっているんだろ。ここには無いって」

カナがゆっくりと佐川を見上げる。

「いこう。」

佐川がそういい、カナに手を差し伸べる。

まるで映画のワンシーンみたいだった。

「佐川・・すごく胡散臭い。」

思わず、突っ込んでしまう。

それを見て、カナは少し笑った気がした。

そして、口を開く。

「あんたたちなんか、嫌い!」

ハッキリとした声でカナはそういった。

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