第22話 案外気に入っているのかもしれない
〜AM/PM ??? 太田サキ〜
どこをどう走ったのかわからない。いくつかの角を曲がり
下り坂や上り坂をサキは飛びぬける。
通路が狭くなっていき、後ろから
ガリゴゴゴギャギャガガガ
岩が壁を削り、何かを押し潰しながらスゴイ速度で転がる音が聞こえる。
目の前には壁が・・・
「サキ、こっちだ!」
佐川に言われ、横の隙間へ飛び込む!
その直後。すぐ後ろで、岩が壁にぶつかる音が響く。
ズズスーーーーン・・。
振動が収まると・・石の転がる音はもう聞こえなくなっていた。
はーーー ハーー はーーー ハーー
息の音が反響する。となりからも、同様に激しく、息をする音が聞こえる。
振り返ると、通ってきた隙間は、岩のとその破片で埋まっていた。
助かった!と思ったとたん、呼吸は平静をとりもどした。
なんだか・・息が整うのが、早い気がする。なぜだろう。
「どこ・・ここ」
小さな疑問は、新たな疑問によって打ち消された。
ちょっとした広場のような場所。
ぼんやりと明るい。明かりはないのに・・疑問だらけの不思議空間。
私がツッコミ症だったら生きていけないだろう。
「佐川?」
返事が無いので呼びかけてみると、佐川は一点を見つめている。
つられて、そちらの方向をみると。そこには子どもが立っていた。
カナではない。それは一目でわかった。
銀色の髪と不思議な形の髪留め
銀色の糸を束ねて体に巻いたような服装。
銀色の目。白い肌。
少し怖い印象を受ける。小学校の低学年くらいだろうか?
「サキが、想像したのか?」
佐川に聞かれ、首を振る。
聞いてくるということは、佐川が想像したのでもなさそうだ。
もしかしたら、この夢の世界で、自分たち以外の人と会うのは、初めて?
そんなことを考えていると、その子どもが口を開いた。
「あそぼ~」
にっこりと笑う。
「ねえ、なにしてあそぶ~~?」
子どもがトテトテと近づいてくる。
「こっちへこないで!」
私が急に叫んだ。
子どもはビクっとして立ち止まる。
佐川もびっくりして、私を見た。
私がこんな声を出すなんて。私もびっくりだった。
「あなた、いったい何者?ここで何をしているの?」
私の口が、子どもに対して質問をぶつける。
声は普通のトーンだが、冷静を通り越して冷酷な感じを受ける。
でも、この声を出しているのは私だった。
「ひ、ひぐ、うえーーーー」
あ、泣いた。
そりゃ泣くだろう。
「委員長、急にそんな大声出したら、子どもは泣くもんだよ!」
佐川に言われて、もっともだと思う反面。なんだか、この子どもから危険な印象を受ける。なんとなくだけど・・なんとなくだ。
佐川は泣いている子どもに近づいてあやまった。
「ごめんね~。びっくりさせちゃって、あのおねえちゃんちょっと今生物的な理由の生理なんだよ〜」
無言で佐川を蹴るも、佐川は気にせず子どもに話しかけている。
あ、子どもがすこし落ち着いてきた。
「あのひと・・こわい~」
目を潤ませながら、子どもはしゃべる。
その人差し指は私の方へ向いている。
その様子から怖い印象はもう受けない。ただの子どもだ。
「こわいよね~~。あの人は、特に意地悪だから近づいちゃだめよ~~」
「うん。」
うなづく。結構かわいいかもしれない。
「どうしてこんなところにいるんだい?」
「おしごとしているの。」
「おしごと?」
「うん、道案内のおしごと」
道案内?
佐川を見ると、佐川もこちらを振り返っていた。
「この迷路のことかな?」
「ちがうよ、この迷路だけじゃなくて、この町全体の道案内なのです」
いって子どもはえっへんと胸をはる。
「すごいな~~。小さいのにえらいね~~」
「うん。えらいのです。」
「じゃあ、案内してほしい場所があるんだけど、」
佐川が聞くと、子どもはニカーっとわらって言った。
「遊んでくれたら、案内してあげる!」
「仕方ないな~~じゃあ、何してあそぶ?」
佐川は苦笑いをしながら、そういった。
その顔を見て・・それはあんまり良い選択ではないな
とサキは思ったのだ。あくまでなんとなくだが・・
1時間後・・・あくまで体感時間で時計の針は進んでいない。
サキは傍観していた。落ち着くためにもお茶が飲みたい・・・
「おい!クスタもういいだろ!ヒヒーン」
佐川が3度目の文句を言っている。
鬼ごっこ。缶けり。縄跳び。かくれんぼ。
昔なつかしの外遊びをやり、今は佐川が馬になり、子どもが上に乗っている。
子どもはクスタと名乗った。
「もういっかい!もういっかい!」
はじめは佐川が主導権を握っていたのだが・・・
今ではすっかり佐川はクスタの馬だ。
実際に馬の姿になっているのは、夢の世界だからだろう。
ヒヒヒ~~ン
振り落とそうとする佐川馬。
・・だが、クスタはキャッキャと喜んで私に手を振っている。
佐川に誘われ、一緒に遊んでいるうちに、クスタとは打ち解けたものの・・
もともとインドア派の私には、外遊びはきつい。
早々にダウンして、今は休憩中。想像したお茶をすすりながら見守る。
ヒヒヒ~~ン
あ、佐川馬が泣いている。相当つらいんだろうな~~
私は立ち上がると二人に近づいて言った。
「クスタ。そろそろ、道案内してくれないかな?」
「え~~」
クスタの顔が曇る。佐川馬の顔は輝いた。
「お仕事してるなんて、えらいよね~~。えらいところみたいな~」
私の言葉に、クスタはニカっとわらった。
「うん。みせてあげる。どこを案内してほしいの?」
「カナって女の子がいるところまで、案内してほしいんだけど、出来るかな?」
無理なら、迷路の出口まで案内してもらおう。
「カナちゃん?その子ってシマシマ靴下の子?」
「知ってるの?」
「うん。こないだ遊んだよ~」
そういえば、カナも、そんなことを言っていたかも・・
「それはそうと・・降りてほしいんだヒヒーン」
下から佐川馬の声が聞こえる。まだ馬になっていたのか・・
「こっちだよ~」
クスタはそういうと、佐川馬の上から飛びあがり、広場の壁へと飛んでいく。
「助かった~~ヒヒ~ン」
佐川は人間に戻って・・・戻ってはいるが、しゃべり方が、馬のままだ。
「よし、行こう!佐川」
「ヒヒーン」
案外気に入っているのかもしれない。
私たちはクスタを追って飛び上がった。
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