第20話 考えるな!感じろ!感じたまま想像しろ!

〜AM/PM ??? 太田サキ〜


「空でも飛べなきゃ、無理でしょこんなの」

壁を見上げながら言う

「そうか・・カナは・・」

佐川はそう言うと、何やらブツブツ呟きながら考えている様子。

そう、カナはきっとこの先へいったのだろう。

「佐川・・どうしよう?」

と佐川を見て、ハッと息をのんだ。

「佐川・・・浮いてるよ」

佐川が30cmくらい浮いている。

「ああ、浮いたな」

平然と佐川が答える。

「どうやったの!?」

「やってはいないよ。信じ込んだだけ」

「はあ?」

言っている意味が解らない。

「サキ君・・ここは夢の世界なわけだよ。」

「信じたくはないけどね。」

そう。私は、いまだに信じたくなかった。でも信じるしかない。

なんとなくわかってはいた。わかってはいるのだけど・・

「サキ君・・君はそこが問題なんだ。」

懐中電灯で、自分のメガネを光らせながら、佐川はそこでため息をつく。

「もったいぶんないで教えなさいよ!」

「短気なところも直したほうが良いな~。」

無言で鞄の中から投げれそうなものを探す。

「つ、つまりだ、サキ!空を飛ぶ夢を見たことはないか?」

「あるけど・・何?」

「アレは・・潜在意識の中で性的な欲望を・・という話は置いておいて、、」

振りかぶった缶きりをおろす。

「飛んでいるときは、飛んでいることを不思議に思わないだろ!」

「うん。それで、あ、飛んでる。私飛べたっけ?見たいに考えちゃうと・・・」

「落ちていくよな。」

なるほど、佐川の言いたいことがわかってきた。

「佐川が飛べてるってことは、ここはやっぱり夢の世界で・・」

「そう。サキも飛べるって事だ。そう信じ込めればな」

とぶ・・

空を飛ぶ。

ここが、夢の世界なら、出来そうな気がする。

現に佐川は浮いている。夢の中だから、現にということはおかしいけど。

佐川が出来るなら・・・

目をつぶり、思い切って地面を蹴った。

「おお!」

佐川が下で声を上げる。

目を開けると下に佐川がいる。結構高い・・・・

と思った瞬間、バランスを崩して落下していた。

「ぎゃーーーー」

・・・・ドズン。

いた・・くない。

目を開けてみると佐川の顔。

「サキ、落ちるって思っただろ。」

どうやら、地面に落ちる寸前に佐川にキャッチされていたらしい。

「ちょっと、おろしてよ!!」

抱きかかえられている状態は、この上なく困惑で迷惑な感じだ。

必死で佐川から抜け出すと、息を整えて、目を閉じた。

飛べるんだ。この世界なら飛べるんだ。

今度は軽くジャンプをしてみる。

地面の感触はまだ伝わってこない。

ゆっくりと目を開ける。佐川の顔が同じ高さにある。

下を見ると、足の下には空間。なんだか不思議な感覚だ。

「よし、では、行くとしますか!」

佐川はスーーーっとまっすぐ。エレベーターに乗っているかのように上へ上がっていく。

私もその後に続こうとするが、ふわふわしていて、うまく動けない。

「ちょっと佐川――!どうしたらうまく飛べんのよ~~」

佐川が塀の向こうを除きこみながら答える。

「サキはまだ飛ぶことに抵抗があるんだよ。自分はこんな風に飛べるってしっかりイメージできれば、その通りになる。そのイメージがぼやけると不安定になる。」

「その、何でもわかってます!という物言いが、気に食わないから、言う通りにしたくない場合はどうしたらよいわけ?」

毒づくと、佐川は振り向いてメガネを光らせた。ピカピカ点滅している。

どこかからBGMも流れてきた。

「古きよき時代・・・・・映画の中のマスターたちは、こういった・・・・・・考えるな!感じろ!感じたまま想像しろ!」

ババーン!!効果音が鳴り、佐川の背中からエフェクトが・・演出細かいし・・

夢の中の力を、こんな無駄なことに使う、佐川の神経が信じられない。

それに何か余計だ・・とか何もいう気が起きなくなった。

突っ込むなんてもってのほかだ。調子に乗る。

とりあえず、佐川のいる塀の上に向かって、イメージをする。

あそこまで、飛ぶ。体がググっと引っ張られていくイメージ。

佐川に出来たんだから、私にも出来る。

『出来ないわけないじゃん』

心のどこかで何かが力強く言った瞬間に、佐川の隣まで移動していた。

「こんな簡単なこと。何をモタモタしてるんだか・・」

言ったのは佐川でなく私だった。

なんだかすごく違和感がある。

「おい。こっちだ!」

佐川に呼ばれ塀の上まで来ると、それは塀ではなく木で出来た建物だった。

というより・・

「なに・・これ・・」

ファンシーなウサギちゃんが『迷路入り口』の看板を持っている。

という看板がある。矢印は「→」

「迷路だろうな」

佐川は相変わらず何の驚きも見せない。

「なんでこんなところに迷路があるの・・」

ウサギちゃんの下方向に、ぽっかりと口を空けている入り口。

入り口からは、階段が下へ下へと続いている。

「出来たんだろうな。・・というよりは、カナが逃げるために、可能性が高い。」

「・・・夢の世界だもんね・・いい加減慣れてきた」

私がつぶやくと、佐川は入り口から中をうかがっている。

「まあ、とにかくはいってみよう。」

「そうだね、カナを連れ戻さないと。」

自分に気合を入れて、力強く言った。

佐川がこっちを見て、少し笑った・・気がした。

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