第19話 新しくできた?この道が?

 〜AM/PM ??? 太田サキ〜


カナが叫んで駅のほうへ飛んでいく。

「待って!!」

サキは叫ぶと、走り出した。佐川も続いて走り出したのが見える。

カナは地面スレスレを不安定に飛んでいく。

私たちの走る速度より、ほんの少しだけ早い。本当に飛んでる・・

「おい!サキ」

「なに? 早く捕まえないと・・」

「なんか、追っかけてくるぞ!」

走りながら、佐川は後ろを見ている。

つられて振り返る・・と

100メートルほど後ろだろうか?黒い大きな鳥が旋回し、上昇していく。

そのまま、黒い点になると、また大きさを増して・・

ヴァサッヴサッヴサーーー。

羽の音が頭の上に響く。

「あの鳥は・・・」

黒い鳥は、再度ものすごい勢いでこちらへ急降下してくる。

足がもつれる。うまく回ってくれない。夢の中で何度か経験したあの感覚・・

「こっちだ!」

佐川が手を引っ張った。

ヴァサッヴサッヴサーーーヴサッヴサッヴサ・・・

羽の音が通過していく。

そのまま二人で、少しの間、様子を伺う・・・・

狭い。店と店の間の小さな隙間。ゴミ箱や自転車が詰め込まれている。

羽の音は・・聞こえない。

ふうー。息が漏れる。

「いったか・・」

佐川も声を漏らす。その息は私の前髪を揺らした。近い!でかい!

思わず、佐川からはなれる・・・私は平静を装ってあたりを見渡す。

「カナ?カナはどこにいったの?」

いない。どこにも見当たらない。見失ってしまった。

「まさか・・さっきの鳥に?」

「いや、それはたぶん大丈夫だ。」

「多分とかいい加減なこと言わないでよ!」

思わず叫ぶと佐川はゴミ箱をどけて、通路の奥へ進みながら。

「カナがこの通路に入ったから、追ってきたんだ。ちょっと俺たちには狭いけど、何とか通る事ができそうだよ」

言われて通路を見る。暗く、先が見えない。行き止まりなのかもしれない。

でも、行き止まりだとしたら、そこにはカナがいるはずだ。

持ってきた鞄から、懐中電灯と地図を取り出し佐川に聞く。

「佐川、ここがどの辺かわかる?」

地図をチラリと見た佐川は

「ここだな」

と指を刺した。

「おかしいよ・・・今までこんな通路なかったよ?」

「そうか?見落としてただけだろ?」

「ううん。もっと山よりなら、そういうこともあるかもしれないけど、これだけ駅よりの場所はすべての道を探検しているもの。」

「探検??・・そうか夢の中か」

そう。子どもの時の私は、猫のあとを追ったり、近道を探したりしながら、路地という路地を巡り歩いたことがある。

だから、地図も山のほうは適当で、駅の周りは正確のはずだ。

「じゃあ、新しくできたんだろうな」

佐川は平然と言った。

「新しくできた?この道が?」

「ああ。ここが、夢の世界ならな、おかしくはないだろ。」

佐川が言いながら、懐中電灯を私の手から奪い、通路の奥を照らした。

「さて、行ってみるか!」

佐川があまりにも平然としているので、なんだか不安が消えてしまった。

「そうだね、カナを探さないと!」

元気に言ったら、ちょっと元気が出てきた。


狭かったのは入り口だけで、少し入ると物もなく、普通に歩くことが出来た。

時々、割れた空き瓶や石が落ちているのを注意すれば、懐中電灯がなくても平気そうだ。

上を見上げると、建物の凹凸のせいで空は見えない。

けれど、隙間からオレンジ色の光が差し込んで来ていた。

しかし、もうずいぶんと歩いている。

地図がたしかなら、とっくに反対側へ出ている距離だ。

突然、前を歩いていた佐川が立ち止まった。

そのせいで佐川の背中に思いっきり、顔面をぶつける。

「ちょっと~!いきなり止まらないでよ!」

文句を言いながら背中を叩くと、予想外の答えが返ってきた。

「委員長。終点だよ。」

「え?どういうこと?」

「行き止まり。」

覗き込むと、そこには壁・・木の板が立ちはだかり、通れなくなっている。

佐川が懐中電灯を上に向ける。壁は5メートルくらいのところで無くなっていた。

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