第15話 そう考えると、つじつまが合った気にはなる
〜AM10:54 太田サキ〜
「カナ、大丈夫だよね・・」
今日何度も口にしたことをまた口にする。
本当だったら、佐川と今日一緒にいたのは、カナだったかもしれないんだ。
私なんかじゃなくて、カナと二人で居たかもしれない。
カナもそれを望んでいただろう。
その相手は、何事も無かったかのようにパソコン作業を再開している。
「そういえば、電話を受けたときに、カナが妙なことを言っていたんだ。」
ふと、思い出した。そんな感じで佐川が話しをしだした。
「妙なことって?」
「ああ、これから、サキのうちに泊まりにいくんだって」
「今日の朝だよね、電話があったの。」
確かに妙だ。
「ああ、今朝5時48分。」
「よく覚えてるね。そんな細かい数字」
「朝はじめてみた数字だしな、携帯電話にも残っている。」
「でも、その約束をしたのは、昨日の・・いなくなる直前だよ。」
声が震えそうになる。
「そこなんだよな~~」
それを察したのか、佐川は普段よりも間抜けな声でそういって、
「・・・よしっと」
パソコンのキーボードをたたくと、こっちへ向き直った。
画面上では見たことも無いツールが色々と動いている。
卑猥な広告はカケラも表示されていなかった。
「なにをしたの?」
「○×XをL△pppXで晴だからBロー@え〃?999×¥」
・・・そう聞こえた。耳はいい方だから間違いない。
「へーーー。なるほどーー。」
よくわからないが、パソコンは直ったのだろうか?
「カナとおんなじ顔してるぞ」
佐川は笑いながら、ネットで呼び出した画面を見せてくれた。
日付と数字が並んでいる。
「なに?これ?」
「日の出と日没の時間だよ」
「それがなにか関係があるの?」
「さあ?サキの夢世界は夕方前が多かっただろ?そして、俺に電話がかかってきたのが、夜明け前だった。今のところはそれだけだよ」
「16時46分・・」
カナからのメールを開き、佐川に見せる。
「カナが私にメールを送った時間が、ちょうど日が沈む前だ・・」
「そうか・・・俺が電話を受けたのは今朝5時48分。」
「なにか・・関係がある・・感じがする・・なんとなくだけど」
なんとなくは・・私にとって重要だ。
佐川をみると少し考えた後に
「ここからは・・想像でしかないんだが」
そう前置きをして、話し始めた。
「この時間帯が、カナのいる古多摩って町と、今俺たちが住んでいる町とを、つなぐ時間帯なんじゃないかな?」
「だから、メールも電話もその時間帯に?」
「ああ、それともうひとつ。この古多摩町は、その時間しか存在しないのではないだろうか?」
「どういうこと?」
話が複雑になってきた気がする。
「それか、現実と時間の流れが違うのかもしれない。」
「浦島太郎の竜宮城みたいに?」
「ああ、まさにそんな感じだよ。サキのメールにウインナーコーヒーの事書いてあるだろ?」
「うん。なんだろ~?って書いてある。」
「で、店の人に聞いていた所を、サキは夢で見た。」
「うん。でも、それは夢の話だよ・・」
そういってサキは気がついた。
「夢って、大体が起きる前に・・朝方の眠りが浅いときに見るんだよね・・」
気がついたことを言葉に出す。
「そう。その後カナが、電話をしたんだ。俺に。なんでウインナーっていうの?ってね」
「そう考えると、つじつまが合った気にはなる・・けど」
信じたくない気持ちのほうが強かった。
佐川には、夢の話だって笑い飛ばしてほしかったのだ。
「なんで、サキがその町を夢に見るのかはわからないけど、もしかしたら他にも古多摩町を夢に見ている人は多いのかもしれないな。」
そういうと、佐川はインターネットで「古多摩」と検索してみた。
「ほう・・なんだか・・面倒なものが出てきたけど・・」
佐川は嬉しそうにそういった。なぜ嬉しそうなのか・・
画面には「鶴見の歴史」とあって、
縄文時代前期といわれた頃には、矢向近辺は海で、「古多摩湾(こたまわん)」と名前がつけられた。
とか、そのようなことが書いてあった。
「このあたりにあったのは・・加瀬山だけか。・・・おい、これなんだかシャレだぞ」
そういって佐川が指差したのが、
『夢見が崎』
という地名。
「ここ、遠足で、行ったことある。」
私はつぶやいた。
何かが頭の片隅に引っかかってはいるのだが、それが何かはわからない。
そんな私を見て、佐川が言った。
「その後、クラスの男子に、あだ名つけられただろ。」
「なんで佐川が、その事知ってるのよ!」
「男子っていのは、そういう生き物だからさ!」
佐川はニヤっと笑うと
「まずは・・この電車に乗ってみよう。」
と言って画面を指差す。
画面には『川崎駅 16:23分発 立川行き』とある。
「おそらく、昨日カナが、乗ったであろう電車だ。」
好奇心いっぱいの顔をして、佐川が言った。
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