第14話 出て行きながらウィンクするな

〜AM10:23 太田サキ〜


佐川との電話のあと、サキは、方眼紙の空白部分を見つめた。

夢の町。そこにある駅の名前・・一呼吸置く。

そして一気に油性ペンを走らせて『古多摩』と書き入れる。

ひどく何かを消耗した気がした。


その方眼紙はいま、佐川の前に広げられている。

佐川は床に広げられた方眼紙を指差して、言った。

「つまり、この路帆って喫茶店にカナがいるんだな」

自分自身も半信半疑な夢の話と、その町の地図。

それを佐川は平然と信じてくれた。

「とりあえず、サキはこの地図を完成させてくれ。サキ、ノートパソコンを借りてもいいか?」

「いいけど、何につかうの?」

「ちょいと調べ物。ネットはつながるよな」

「うん・・でも壊れているかも・・」

同意はするものの、小さな声で佐川にいう。

サキのノートパソコンは、いつのころからか、ネットにつなぐと画面いっぱいに卑猥な広告が出てくるようになって、動かなくなってしまう。

もう・・平気かな?

そうおもって佐川がネットにつなぐのを横目で見ていたら・・・

やはり結果は同じだった。

佐川はいったん接続を落としこっちへ振り向いた。

「委員長・・」

できるだけ平然と言う。

「なに?」

佐川のメガネが光った・・気がした。

「エッチなサイトをのぞくのが趣味だったのか!」

「そんなわけ無いでしょ!!」

思わず投げた油性ペンを佐川はうまくよけて

「ふーん。じゃあ、変なメール開けたりした?」

「え・・・・開けてないよ。エッチな広告が入ったメールは・・・すぐ、捨てちゃうもん。」

開けた。そういえば開けた気がする。差出人不明のメールを開いたら、ひどい内容の広告が出てきて・・・小一時間見て、あげくにURLをクリックした。

それからかもしれない。

「はいはい。開けてないのね・・パソコンの入っていた箱ある?」

といって佐川はまたパソコンに向き直った。

油性ペンを拾い、パソコンの箱を佐川に渡す・・とノックの音がした。

「サキ~~。お茶はいったわよ」

薫の声だ。・・ノックをするなんて初めてではないだろうか?

「ありがとう。」

そういってドアを開けて、薫からお盆を受け取る。

「ありがとうございます。薫さん。」

佐川は一発で、薫に気に入られていた。

丁寧に菓子折りを差し出しながら、挨拶をしている佐川も気持ち悪かった。

だが、その後に言ったお世辞には頭が真っ白になりそうになった。

よくもまあ、平然と、

「お姉さんですよね?ご両親にも挨拶をしたいのですが・・」

なんて言えるものだ。

「カナちゃん、まだ連絡着かないの?」

薫の声が普段より高い。

「ええ、何度か時間を置いては、連絡しているのですが・・」

だれだろう・・この好青年は?

「家にも誰もいないみたいですし・・一応留守電は残したのですが・・」

残したのは私だ。

「そう・・旅行にでも行っているのかしら・・何かわかったら私にも教えてね」

そういうと薫は部屋から出て行く。出て行きながらウィンクするな。


「よく・・平然と・・化け猫の皮をかぶれるものですね・・」

がんばって佐川に皮肉を言ってみる。が、

「まあ、サキには無理だろうな~」

佐川はパソコンでなにやら打ちながら、平然と答える。

「こういうのはさ、正直すぎる人間には、向かないものだよ。」

「私だって嘘とかつくよ!」

なんだか、反論したくなった。

馬鹿にされてるような気がした。

「わっかりやすいけどな~。委員長の嘘は」

佐川の言葉は、なんだか、すっごい悔しい。

コイツは、わかってて、こういうイラつかせるような言い方をするんだ。

佐川に狙いを定めて油性ペンを振りかぶった。

「でもさ~。そういう人間のほうが、俺は好きだな」

佐川の言葉に、思わず硬直する。

・・・・何を言ってるのだろう?言葉のまま取ればいいのだろうか?

そりゃあ、恋とか、好きとか、嫌いとか、嫌いじゃないとは思うけど、でなきゃ部屋に上げないし・・って部屋???

この二人きりで部屋って状況は・・・

身の危険とかを感じたほうがいいんだろうか?

そんな大混乱をしていると、佐川がパソコンを打つのを止めて振り返る。

真面目な顔 なんだろう 佐川はメガネを中指で直しながらいった。

「なんて言ったって、そういう人の嘘は笑えるよな~。小学生のうそみたいだよね。私窓なんてわってないよ。ほんとだよ~~ってそんな感じ?」

投げたサインペンは、見事弧を描いて佐川の眉間に直撃する

・・そんな妄想をしながら。

「そんな嘘つかない。・・カナじゃないんだから・・」

そう言ったあと、カナのことを思い出して・・油性ペンを握りしめる。

なんだか申し訳ない気分になった。

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