第9話 完成させてはいけないもの・・
〜PM 15:02 太田サキ〜
サキは手を止めた。
なんだかこれはいけないものだ・・・
完成させてはいけないもの・・・・
怖い・・・なんとなくではなく・・すごく怖い。
目の前には方眼紙が広がっていて、紙の上の中央に山。
山の中腹に鳥居のマークが描かれている。
サキが長い散歩から帰ってきたのは、2時過ぎ。
道に迷い、知らない公園で弁当を食べて、
店で道を聞いてから・・数分後には、大通りへたどり着いていた。
極太油性ペンと、最大サイズの白い方眼紙を抱えたサキは、左右を確認する。
左手に尻手駅。よく知っている場所だ。
振り返って見てみると今出てきた路地も見覚えがある。
「ここに繋がっていたのか・・・」
つぶやきと同時に脳内で地図がつながる。その事からサキはある事を思いつき、
そのまま電車に乗り、特に意識もせずに歩くと・・・家到着。
ドアを開け、台所に入る いつもの風景が広がる。
食い散らかされた朝食の残骸を片付けながら ホワイトボードを眺めると
様々な文字が書き加えられていた。
チンする=電子レンジで暖める事。
であるならば『電子レンジでチンして』ということは、言葉的に重複しているのではないか?・・・父
もともとは幼児言葉(ワンワンやブーブ)であった可能性有り、要検討・・・母
コケコッコーをクックドゥルドゥルと言う英語圏でもチンするって言うのかな?夕食はいりません。・・・道成
相変わらずおかしな家族だ。
察するにあの後、父が仕事に出かけ、その後に母が買い物に行き、昼ごろ起きてきた弟が遊びにでも行ったのだろう。
サキは濃い緑茶をいれて一息ついた後、思いつきを頭の中でまとめる。
緑茶を飲み干すと、さっと水でゆすぎ
「よし!いっちょやってみっか!」
謎の掛け声と共に、方眼紙と極太油性ペンを持って部屋へと入り・・・・
・・・一応、静かに鍵をかける。
部屋に新聞紙を引き、その上に方眼紙を広げる。
「まずは山。これは確実・・」
紙に山を描き。その中腹に鳥居のマークを書き込む。
隣にちょっと小高い丘。
そこに道を描き込み ちょっと下のほうに駄菓子屋
その周りの建物や風景を簡単に描き込んでいく
オモチャのトミヤ 古本屋青春堂 和菓子の夢見堂 サンエイストアー
道を伸ばしていって駅前の広場 駅前に喫茶店。
線路の上を四角く囲み・・・駅名・・駅名は・・・
そこで私は手を止めたのだった。
方眼紙を眺めると「夢の中の地図」はもう少しで・・
矢向駅とつながりそうになっている。
反対側も尻手に近づいていた。
最近眠るたびに見る夢。それを自分なりに整理してみよう
ちょっとした思い付きで地図を書いてみることにした。
夢の中で私は、3歳だったり、10歳だったり、今の自分の年齢だったり
様々だし、町の様子もその時によって少し変わる。
絶対に変わらないものは山と鳥居。それからいくつかの古い店。
矢向駅と尻手駅の間にもうひとつ駅があり、町がある。
その町に行く事もあれば、行かない事もあったが、その町は確かに存在していて、ちゃんと道を通れば、いつも同じ場所に出る。
駅前のお店が変わることもあったし、工事をしていることもある。ただ、良く行く建物はいつも同じようにたっていて、全体の風景は変わらない。
そんな町だった。ただし時間帯はいつも同じ・・
もうすぐ夕焼けがでて、家に帰らなければならない時間。
その町で私はいろいろなことをする。
お店で買い物したり 猫を追っかけたり 友達とかくれんぼしたり
・・この町で私の知らない場所はないといっていいほど、色々な所へいった。
夏には祭りがあって屋台も出たし、冬には雪も降った。
・・・夢の終わりはいつも鳥。
どこからか大きな黒い鳥が飛んできて・・・夢から覚める。
描いた地図は、あっという間に埋まっていった。
しかし、夢の世界の地図が、現実とつながってしまう事に、
私はなんだか・・恐怖を覚えたのだった。
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