第8話 なんとなくは正義だ
〜AM12:40 太田サキ〜
サキは途方にくれていた。
迷子になったのは、いつぶりだろう?
記憶を頼りに・・といっても夢の記憶なのだが、線路沿いの道を歩いていく。
そうすると道は線路から外れていき、次第に細くなっていく。
ゆるい坂をのぼり、道が開けていった先は・・『閑静な住宅街』だ。
実は、途中曲がり角や交差点もあったのだが・・
なんとなく夢の道に似ている方向へ歩いていったのが間違いだった。
さすがに、再度踏み切りを越えたときには、迷い始めたことを感じてはいた
「来た道を帰るよりかは、近くの駅まで行ったほうが楽かな?」
とひとりごとを言いながら、どんどん進んでいるうちに
来た道すらわからなくなってしまったのだった。
あたりを見渡すと、どこも同じような景色に見える。
「う~~ん・・とりあえず、ご飯を食べよう!」
そう自分に言い聞かせ、近くにあった小さな公園で、お弁当を広げることにした。
太陽がまぶしい。
小さな滑り台とブランコ。水のみ場とベンチ。それしかない小さな公園。
空気は冷たいけれど、公園のベンチは、太陽光でほんのりあったかい。
何よりも、お弁当がなかなかの出来だった
ほんのちょっぴり 幸せな気持ちになった。
「冷凍食品のコロッケも美味しくなったもんだな~っ」
と感心しながら、午前中歩きっぱなしだったサキは
腹ペコのペコの部分を満たしていく。
「ご馳走様でした・・お粗末さまでした。」
自画自賛。本日二回目。
お弁当箱をしまい、空を見上げる。
遠くの空に、黒い鳥。
・・・・・・・・・・。
「逆光で黒く見えるだけ!」
頭の中に湧き上がってくる妄想を吹き払うかのように、声に出す。
そして鳥の姿を見送ると、
「どっち行っても変わらないんだから、飛んでいった方向へ行ってみよう!」
そういって。また歩き始めることにした。
もちろんすべてひとりごとだ。
誰かが見ていたなら120%変人だろう。
自分だったら、見てみないふりをすると思う。
でも、言葉に出したい。そんな気分だったのだから、私にとっては正しいのだ。
黒い?鳥が飛んでいった方向に角をまがると、小さなお店があった。
中に入ってみると、『小学校指定』と書いた張り紙の下に、
文房具や体操着、水着まで並んでいる。
「ああ・・・うちの近くにもあったな・・こういう店」
そうつぶやいて、品揃えを見ると・・どうやら元は文房具屋らしい。
さまざまな色と大きさの紙やペンが、狭いスペースに並ぶ。
小学生が手に届きやすい場所には、最近人気のアニメキャラクターの絵が入った、消しゴム・鉛筆・ノートが並ぶ。
「すいませ~~ん」
声をかけると・・・数秒たって・・・
ガラガラガラ・・・
「はい・・いらっしゃい。」
50代半ばだろうか、きっと「おばちゃ~ん」と小学生には呼ばれているいであろう女性が、住居とお店の境目であるガラス戸を開けて顔を出した。
顔を出したときは不機嫌そうだったが、サキを見たとたん、大人用の営業スマイルを浮かべる。子どもには不機嫌なまま対応しているのだろうか・・
道を尋ねるだけだとなんだか悪いような気がする
このスマイルが、先程の顔に戻るのを見るのが なんとなく恐ろしい
サキは母の教えで『なんとなく』を信じるようにしている。
母いわく「それは本能のさらに奥にある宇宙からのメッセージ」なのだそうだ
それを言っているときの母の手には怪しげな漫画があったのでデタラメだと
分かってはいるが、なんとなく気に入ったのだ。
だからサキにとってなんとなくは正義だ。
「あの・・油性ペンと大きい方眼紙と・・」
となんとなくついでになんとなく目についたモノを注文をした最後に
「近くの駅にはどうやっていくのか知りたいのですが・・」
と付け加えた。
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