第7話 どちらにせよ女子の制服について議論するような組織は壊滅すべきだ
〜AM8:00 太田サキ〜
休みだからだろうか・・
人の通りがまばらな商店街を、サキは矢向駅に向かって歩く。
晴れていて・・気持ちがいい!
空気は冷たくなってきたが、こういう天気だと、外へ出て正解だと思える。
時折、冷たい風がスカートをあおる。
「この風さえなければもっといいのに!」
サキは独り言をつぶやきながら、
先日、佐川が言っていたウンチクを思い出す
「風ではなく「木枯らし」だ!今の季節は霜降。10月23日ごろから立冬までの期間のことで、その季節に吹く風が「木枯らし」っていうんだ。」
佐川のイラつく顔とセットで、
「そうこ~~??どんな字書くの~?」
と抑揚のない、間延びした声を佐川の横で出すカナの顔が思い出される。
思わず笑いがこぼれていた。。
「冬の風って冷たいよね・・なんで冬でも女子はスカートなの?」
とつぶやいた独り言に対して、佐川は黒板に『霜降』と書きながら、
「男子は夏でも長パンだよ。まあ、俺としては男子でもスカートをはくべきだと思うね!いや男子こそスカートを活かせると思うのだよ」
といい、突然近くまで歩み寄ってきたかと思うと
「女子の制服についての話はここまでにした方がいい。組織に狙われるからね」
と真面目な顔で嘘をつく。
「どんな〜〜組織なのかな〜〜」
「知ってしまったらカナ君にも危険が及ぶから多くは語れないが、その組織が女子の制服について大きな発言力を持つことだけは確かだ」
「ほほ〜〜」
うなずくカナはゴテゴテにデコレーションしたメモ帳に『組織?』と書いているが癖のある丸文字のため、お札に書いてある呪文のように見える。
その横に『霜降』と書いてあるので後から読んでも意味がわからないだろう。
「聞く気はないから安心して」
話を終わらせようと答える。どちらにせよ女子の制服について議論するような組織は壊滅すべきだ
佐川は少し遠くを見て
「そうだな・・寒いのなら、美的にはアレだけれど、毛糸のパンツがいい。おなかまであるヤツだ。それなら組織に追われることもないだろう」
と、どうでもいいことを教えてくれた。お前も組織の一員か?
「ただし・・アレはそのまんま直にはくのかな?そこの部分が良くわからないのだよ・・どうなんだね?」
『うるさい!!』
と言いたかったが、私にはいえなかった。代わりにカナが大真面目に答える。
「カナは~~~皮膚が弱いから~~直にはむりかも~~」
カナ、答えなくっていいって!ただの佐川(変態)なんだから・・・・
そんな午後の一幕をおもいだしながら・・
「佐川の言うとおり、毛糸のパンツでも・・・っていうか、着替えてくればよかった。」
とサキは小声でつぶやいた。
結局、あの後時間に余裕があったのと、現実逃避のために
もう一品料理を作ってしまった。
食べる人が起きてこないために、暖かなにおいが薄れていく料理たち。
それに、サランラップをかけながら
「まるで主婦みたい・・・」
とつぶやき、連絡用のホワイトボードに文字を書いていく。
「チンして食べてねって言うけど・・・最近の電子レンジはチンって言わない・・」
・・・・妙なことを一瞬考えたせいで、妙なことをそのまま書いてしまった。
ホワイトボードにサキと書いて丸で囲む
「・・・・・・いってきま~す。」
誰もいない台所へ声をかけ、あてのない散歩へ出かけたのだった。
矢向駅前は、ターミナルの出来損ないのような形をしていて、
一応ハンバーガーのチェーン店やコーヒーのチェーン店がある。
というかチェーン店の侵食が半端じゃない。
人口が増えているものの、昔ながらの店は高齢化していき、
気がつくと大手資本に入れ替わっている。
小さい頃はもっと違う風景だったような気もするが、その風景は思い出せない。なんにせよリーズナブルでそれなりのものを提供してくれるのだから
自由にできるお金の少ないサキにはありがたい。
とりあえずチェーン店の一つにはいり、コーヒーを片手に外を眺める
サキは自然と人間観察を始めていた。
現在AM8:15。
急ぎ足で歩く、スーツ姿の会社員や学生服の男女。
きっと、彼らも休日って事に気がついていないんだな。
それで会社や学校まで行って気がつくんだ。
・・・と妄想する反面、休日出勤や部活などだろうという理解もしている。
親戚の家に遊びに来た小学生。
病院へ行くバスを待っている老人。
デートの待ち合わせをしている女の人。
取引相手を待つ諜報員。
本当かもしれない妄想にふけりながら
何度も空になったコーヒーを飲もうとしている自分に気がつき
サキは店を出ることにした。
踏み切りの前に立ちこれからどうするか思案していると
不意に私の目は、踏み切りに釘付けになる。
黒い鳥。
いつも夢の中に出てくる鳥。
体に緊張が走る。
その鳥は不意に口を開くと・・
濁った高音で
「ヵアーー」
と鳴いた。
「・・・・でっかい・・・・・カラス・・」
つぶやき、緊張を解きながら、矢向駅から続く道を振り返えった。
今朝見た夢・・・・・・。
あの道の先は・・・・・いつものあの町なのだろうか?
リャーーン リャーーン リャーーン
踏み切りの警報がなり、バーが降りてくる。
行く手を阻まれた感じがしたので、一瞬考えた後、反対側の道路へ渡る。
どうせ今日はやることがない そう考えて
線路沿いの道へと、サキは足を踏み出した。
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