第6話 驚愕の事実・・

大きな黒い鳥が鳴いている。カラス・・にしては大きすぎる。

鳴き声もそれとは違う。

踏み切りに捕まった私は 自転車から降りて 反対車線へと渡る。

電車が通り過ぎ・・・不意に踏み切りの音が途切れて・・

踏切が上へと跳ね上げられる。

自転車にまたがり、地面を蹴る。

踏み切りを渡ったら左 パチンコ屋の前を通り過ぎ 線路沿いの道を走る

道は次第に線路からはなれて行き 細くなっていく

スピードを上げ ゆるい坂道を一気にのぼる

平地へと戻り 道が広がっていく

駅前の自転車置き場 作業服を着たおじさんが自転車に札をはっている

タバコ屋を右へ サンエイストアー 和菓子の夢見堂 古本屋青春堂

おもちゃのトミヤ 景色が後ろへと流れていく

左手を握り、急停車。

止まった先は、一軒の駄菓子屋。

ポケットから財布をだし、中を見ると、ピカピカに光る百円玉。

ちょっと悩んで、20円のジュースと10円のチョコリングを買う。

シワクチャな手が70円のおつりをくれる。

私の小さな手は、それを大事そうに財布にしまい

自転車のかごにお菓子を入れて また、勢いよく自転車をこぎ始める。

長いくねくねと曲がる坂を 一生懸命こいで、こいで、こいで・・・

急な坂の重力に勝てずに自転車がとまり 足が地面につく。

下を振り返ると 前よりも高い位置まで上ってきていた

満足感と敗北感を同時に感じながら、自転車を押して坂を上っていく。

角度が一番急な難所を上がり終えると その後はなだらかな登りが続く。

少し開けた場所から 沈みかけの太陽がのぞき

その光が ちょっと離れた丘を照らす。

上を見る。

山の中腹の 神社にある鳥居がみえる。

鳥居の上に影を落とすのは、大きな黒い鳥

・・・鳥はこっちを見ているように見える。

頭の中の図鑑がパラパラとめくれて。

鷲??・・かな?と鳥を見ていると、

金色の目。

私を見ている・・今度は、はっきりとそう感じた。

鳥が居るから、鳥居なのかな? ふとどうでもいいことを考える。

その瞬間黒い鳥は鋭く高い声で一声鳴き、飛び上がった。

上がって、そのまま、私に向かって一直線に飛んでくる。

・・・・・ぶつかる!??

・・・・・・・・・―――――――――

PP PP PP PP PPPPPPPPP・・

目覚ましを止める。


〜AM5:00 太田サキ〜


デジタル表記・・・あ・・今一分になった。

「また・・あの町の夢・・」

PPPP PPPP PP・・

目覚ましの2度目をとめる。

ボーーっとしていたようだ。

頭を少し振って、今日着る服をすばやく身に着けていく。

サキの通っている学校には制服というものがない。

一応、第一服装というものがあるが、男はブレザーにネクタイ。

女はその横に立つにふさわしい格好というもので、曖昧なものである。

今日の服装は膝丈のチェックスカート、ワイシャツにクリーム色のセーター。

学校でも一般的な格好だ。

別に、スカートはチェックでなくてもよいし、

セーターの色も決まっているわけではない。

入学式の説明で配られた「第一服装の見本」と書かれたパンフレットに

載っていた服装をサキは購入しただけだ。

同じ要領で購入した、校章のワッペン付きブレザーをハンガーからはずし、

鞄を持って、部屋を出る。

顔を洗い 台所へ向かう 椅子に鞄とブレザーを置き

手早く朝食の準備を始める。

太田家では「朝食は自己責任」ということになっている

ただ、一人分作るのも全員分作るのも手間は一緒なので、

一番早起きのサキが全員分の朝食を作っているのが現状だ。

昨日のうちにセットしておいた、炊飯ジャーを開ける

炊き立てのご飯の香りがする。

ふと・・小学生のときに書いた「炊飯ジャーと魔法瓶」という作文を思い出す。

なんで佐川があれを持っていたのだろう・・・思い出しても恥ずかしい。

先生からは花丸をもらったが、散々男子に馬鹿にされて・・

学校帰りにゴミ箱に捨てた記憶がある。

考えながらも手は動く。

弁当箱にご飯をつめて、パンをトースターにいれスイッチを入れる。

野菜を切り、炒めて、ベーコンを焼き、卵を落とす。

焼きあがったパンにバターを塗り パンを食べながら 料理を作っていく。

朝食を食べながら、昼食とみんなの朝食を作る・・なかなか手馴れたものだ。

自画自賛。―――――――――。

チラリと時計を見る。

6時20分。 

5分進めてあるので正確には15分・・・

冷凍食品のコロッケと野菜炒めを弁当箱に入れ トマトを入れて・・完成!

手早く包み 鞄に入れる。

電話の内線をつかって、弟の部屋へ電話をかける。

「・・・な・・に??」

寝起きのかすれ声が聞こえる。

「何じゃないでしょ~!学校!!遅れるよ!」

しばらくして返事が返ってくる。

「今日は・・いかなくていいの・・だ・・」

寝ぼけているらしい・・

「いいわけないでしょ~ご飯出来てるからね!!」

と、まるで母親のようだと考えながら、受話器を置く。

と、しばらくして

プルルルルル・・

内線の電話。

何だろう?と思いながら受話器をとると。

「ねえちゃん・・」

弟だ。

「驚愕の事実・・」

まだ寝ぼけているのだろうか?

「今日は土曜日・・」

いい終わると内線は、プッと電子音を残して切れる。

少々間があって、自分のスマホを開いてみた。

小さい花と鈴のストラップが付いた、オレンジ色のカバーを開く。

スマホの画面には、

『AM6:35(SAT)』

と表記してあった。

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