第3話 やっぱりこいつは嫌いだ
〜AM8:22 太田サキ〜
「サキ~~サキってば~~~」
カナが体をゆすってくる。目の前には小動物のようなカナの顔。
どうやら、呼ばれていたみたいだ。
「どうしたの委員長!ぼーーっとして」
佐川も声をかけてきた。
委員長というのは佐川が私につけたあだ名。
サキは別に委員会にも入っていないし、ましてやその長では絶対にない。
「私は・・委員長じゃない。」
小さい声で抗議をするも、聞こえていないみたいだ。
委員長なんて、なれるわけが無い。
今のところ佐川しか呼んでないのが救いだが、佐川いわく
「マニアック系エキスパートの友達から借りたエロゲーム!!最高のストーリーだった。それに出てくる委員長に似ているから!」
らしい。ちなみに磨いたら光る系の美人らしい。心底どうでもいい。
そういうことを平気で言うあたりが、この佐川という男を物語っている。
「委員長!考え込んでいたみたいだから教えてあげよう!机の左側が暖かいのはね!カナ君のケツの熱だよ!」
馬鹿なことを言った佐川が、カナに殴られている。
馬鹿なことをいう人間には、本当に馬鹿な人と、わざと馬鹿なことをいう人間といるが、佐川は後者だろう。
いつも楽しそうにしている佐川には人が集まってくるし、佐川自身も気さくにいろいろな人に声をかける。私には、なれない人種だろう。
そんな佐川を見ると私はなんだか・・
・・苛立ちを覚える。
「で、委員長!」
ひょろ~んと長い身長の、短髪メガネがぐっと顔を近づけてくる。
メガネが光った・・様な気がした。
「川崎でハロウィンがあるらしいね!」
ハロウィン・・
いつのころからか始まって、いつの間にか定着していったあの行事。
年々規模が広がり、それと共にトラブルも増え、毎回開催が危ぶまれつつも
続いている。今年が最後??がキャッチコピー化している川崎ハロウィン
ここだけの話、日本人にハロウィンはなじまないと思う。
後、私は委員長じゃない。
「カレーからなんでハロウィン??」
思わず妙な事を自分でも、言ってしまった。
「なんで~~カレ~~??」
カナが表情でも
「何変なこと言ってんの?」
と聞いてくる。
また佐川のメガネが光った・・気がした。
「カレーといえばインド。インドといえばインドア。引きこもりとひき肉は似ている。似ているといえばカレーも煮ている。しかし引きこもってカレーばっかり煮込んでいてはいけない!外へ出てハローと言おう!というわけで・・・」
「つまり正月と、盆と、収穫祭が一緒に来たケルトの行事を見たいわけよね、ケルトとは何の関係も無い日本の、しかもいまいちメジャーじゃない首都圏の都市、川崎の。」
「委員長!ナイス無視!2点あげよう!」
どうでもいい佐川のたわごとを聞く必要はない。
聞いていると・・なんだかイライラするし。
「ケルト~???ハロウィンはアメリカのお祭りじゃないの?」
カナが聞いてくる。無理も無いだろう。
カナを含むたいていの日本人は
「ハロウィン」=「Trick or Treat(お菓子くれなきゃいたずらするぞ)」
と仮装ではないだろうか??
そう思っている間にカナと佐川の会話は続く
「カナ君!今回我々が行くのはアメリカ版の劣化コピーだよ!」
「烈火って激しそうだねーー熱そうだね~~」
「カナ君ナイスボケだ!1点あげよう!」
「20点で一割引~~!」
何がだろう?そういえばさっき私も二点もらった・・・
でも、それを聞くことは、サキには出来ない。
なんだか、二人のコントを邪魔したらいけない気がするのだ。
「・・・前夜祭に、霊やらお化けやらが出てくるから、それから身を守るためにお面つけたり、カボチャくりぬいてランプにしているという根本を知らない日本人が、ただ仮装に興じる様を見に行きたいとおもっているのだよ」
佐川が力説してる横で、カナはわかったような顔をしてうなずいている。
佐川が馬鹿じゃないと思う理由のひとつは、こういう知識の豊富さだろう。
実際、成績も良い。
とはいえ、幽霊とか怪奇現象とかも信じているらしく、怪しい情報も多い。
「だったらその期間に川崎にいってみればいいじゃない。でも私は用事があるから、残念だけど・・」
興味がありませんと精一杯アピールしてみる。
事実、休日まで二人に巻き込まれたくなかった。
「用事って~~時間かかるの~?」
「え・・まあ・・そんなでも無いかな・・」
カナの問いに、用事自体が嘘のため、しどろもどろになってしまう。
やばいかなと思ったときはもう遅かった。
「じゃあ、決まり~~川崎行ったことないから~~不安だったんだ~♪サキが~~どうしてもやだ~~~っていったら~~どうしよ~~って思ってた~♪」
カナは延々と区切りなくしゃべっている。
「でも~~サキは~~予定あるんだよね~~。場所まで~~案内してくれたら~~帰ってもいいから~~~」
もうすでにカナのなかでは案内する事になっているらしい。
しかも途中で消えてほしいのだろう。
なんとか状況を打開しようと、口を開こうとした。
その瞬間、けだるそうに入ってきた副担任の声が響いた。
「ホームルームはじめるぞーー!席に戻れーー」
うちの学校にはチャイムがない。・・といってもサキにはあまり関係がないのだが、カナはバタバタと自分の席に戻っていく。
隣で佐川がささやいた。
「委員長!号令!」
「え?委員長じゃないよ。私・・」
小さく言いうと、佐川はにやっと笑って言った。
「でも日直だろ♪」
『やっぱりこいつは嫌いだ』私は改めてそう思った。
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