第2話 牛と、排気ガスと、借金と、核と、銃
〜AM8:05 太田サキ〜
学校に着く 階段を登り2階 教室までは意識せずに進む
教室に入ると、友人のカナが私の机に座っている。
どうやら、隣の席の佐川と大声で話をしている。
カナとは入学式で道に迷っていた所を助けたら、懐かれた
というあまり大した事のないエピソードがある。
「ハリウッドに行ったら~〜はりうっどすた〜がいるかな~~行ってみたい~~~写真とって~~スカウトされたりして~~でも~~日本に帰るかな~~」
今日はそういった話かと思いながら間延びするカナの話に入る
「おはようカナ!ハリウッドに、常に有名人がいるとは限らないよ」
一瞬話し声がやみ、カナが振り返り「おは~~」と気の抜けた返事が帰ってくる
ブリーチで脱色した自前の癖っ毛を、前髪だけピシっとピンで留めている。
ブランド物のセーターにチェックのスカート・・・相変わらず短い。よくわからないけど90年代コギャルが今キテいるのだそうだ
カナは机から降りながら、話しかけてくる
「じゃあハリウッドいっても~~~すた〜はいないかな~?」
ここまでは、いつもと同じ・・・うまくやれている。
「運がよければ、会えると思うけど・・あ、カナ、髪型変えた?かわいいよ~」
とりあえず、変化している部分をほめるのが、礼儀らしい。語尾をあげるのか下げるのかは難しくて理解できないが・・
私は女子の風習に、やっとなれてきた。
「そ~かな~。ありがと~~。ね~~サキは~アメリカ行くとしたらどこ??」
カナが聞いてくる。大丈夫。うまくやれている。
机にカバンを置き、今日必要なものを取り出しながら・・といっても、大体は、学校においてあるので、取り出すのは小学校のときから使っている、布製のペンケース。あとは宿題のノートぐらいだ。ノートを机に置きながら答える。
「牛と、排気ガスと、借金と、核と、銃をどうにかしてくれたら、旅行に行ってもいいかな」
会話が少し止まった。・・・ちょっと、はずした?
「へ~~。銃はこわいもんね~~。たかC~~は~~??」
よかった、会話が違うほうに言った。
カナは隣の席にすわる佐川に話しかけている。
ここ数ヶ月、カナのお気に入りは『佐川鷹志』らしい。
そのお気に入りといえば
「おれはジャマイカかな?」
メガネを拭きながら平然と答える。
「ジャマイカって~~アメリカなんだ~~わたしもいってみたーい!」
ジャマイカはカリブ海の小さな島だよ!!
心の中で突っ込むが、実際には言わない。
「うんうん。ボブさんがいるんだよ!」
そして平然とウソを言う佐川。
「あめりかっぽーい」
そしてカナはだまされる。
私から見れば相手にされていないような気もするのだが・・・
カナいわく、
「いま~~くっつくか~~くっつかないか~~。恋愛の中で~~いっちば~~ん。楽しい時期なの~~!」
らしい。
だからというわけでもないが、私はあえて二人の会話に突っ込みを入れない。
あれは、二人の問題で、私とは関係が無いから。
大体、『一度信じてしまったカナに、正しい真実を教える。』という作業は『面倒』という字をノート1ページ分書くようなものだ。
確信犯の佐川がその様子をニヤニヤとうれしそうに見ているのは予想がつく
二人のラブラブ?トークはいつの間にか本場のカレーの話になっていた。
もう会話の意味がわからない。
話に加わるのも面倒そう・・・かといって、授業までやることはない。
だから、いつものようにノートを開き、ぼんやりと見つめる。
そうしているとつい、考えなくてもいい事・・・・昨夜見た、夢のことを考えていた。
子供のころに、何度か見た夢。
川崎駅で遊んだ後に、親に手を引かれて南武線に乗る。
自分の住んでいる町は3つ先の矢向駅。
駅自体は横浜市なのだが、踏み切りを渡ると川崎市。市と市の境目の駅だ。
矢向までの電車の中で、子供時代の私はドアにへばりつき、
左から右へ流れる景色を追っていく。
同じ速度で走るウサギを空想してみたり、遠くの建物が動かないことを、不思議に思ったりしながら電車は進む。
次は・・・尻手・・電車が止まり反対側の扉が開く。
反対のホームには、いろいろな人がいる。それを見るのも楽しい。
ドアが閉まり・・
尻手駅が右へ流れていく
高いところにあった線路が次第にさがって・・
地面と同じ高さになったころ、電車は止まり、目の前の扉が開く。
次は矢向だと書いてあるのを見て、「次だね~」と父親に報告する。
そして扉が閉まり・・また景色が流れていく。
「さき~~さきってば~~~」
カナが体をゆすってくる。目の前には小動物のようなカナの顔。
どうやら、呼ばれていたみたいだ。
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