第352話

ゆさゆさ、ゆさゆさ


「ん……?」


ゆっくり目を開けると空がうっすらと明るくなっていた。


『おはよう、頭痛いの大丈夫?』


「うん、寝たら大分良くなったよ」


ラグナはそう言うと身体を起こして周囲の確認。


「……アイツは?」


『一度だけこの木の下に戻ってきたけど……またワイルドベアが襲い掛かってそれからは姿をみてないよ」


「そっか、それなら大丈夫そうかな」


朝ご飯にと収納から串に刺した焼き魚を二匹取り出すと、醤油を垂らして魔道書と仲良く分けて食べ始める。


「ごちそうさま。んじゃ、行くとしますか」


『御馳走様。お腹いっぱいだから休む』


魔道書はそう言うとラグナの中へと消えていった。


そんな自由気ままな魔道書に苦笑しながら、ラグナはシーカリオンへと再び出発する。


アルテリオンを出発してから数日。


魔物を警戒しながら進んでいる為、普段よりも時間が掛かっていた。


そしてようやく、国境にあるシーカリオンの砦に到着したのだが……


「なんだ……これ……」


ラグナの目の前には悲惨な状況が広がっていた。


「これは魔物のせいなのか……?」


周囲には戦闘したと思われる痕跡があちこちに。


更には無惨にも食い荒らされた遺体も……


しかも老朽化していたとはいえ簡易的な砦が崩れていた。


流石にこの光景を見てしまうと、シーカリオンは大丈夫なのだろうかと不安になってしまう。


「一刻も早く、戻らなきゃ……でもその前に」


無惨にも食い荒らされた遺体をラグナは吐き気に耐えながら回収していく。



更に身元がわかりそうな遺品、装備品なども収納する。


「グギャギャギャ!」


「グギャ。グギャギャ?」


ラグナが崩れた砦付近で遺品を回収していると、まるで会話でもしているかのような声が聞こえたので咄嗟に隠れる。


「ギャギャ?」


「グーギャ!」


ラグナが声の主を覗くと……


そこに居たのは人型の魔物。


一度だけナルタの近くで戦った事があるその魔物の名はゴブリン。


五体のゴブリンが兵士だった遺体から装備を物色していた。


「グギャギャ」


ゴブリンは兵士から装備品を剥ぎ取ると乱雑に遺体を蹴り飛ばしている。


さらには新たに手に入れた剣を手に持ち、楽しそうに遺体を突き刺すような事も。


この光景にはさすがのラグナも何もせずにはおれず、


「ふざけるなぁぁぁぁ!!」


と叫びながらゴブリンに飛び込む。


「グギャ?グギャ!?」


突っ込んで来たラグナの姿を見て、仲間に伝える為に叫ぶ一体のゴブリンをガストーチソードで袈裟斬りにするラグナだったが、その行為を見た他の四体のゴブリンは自分達よりも格上の存在に気が付くと、すぐさま逃げ出そうとしていた。


「逃がすか!!」


それをさせじと追いかけるラグナ。


「グギャギャ」


逃げ切れないと悟ったゴブリン達は武器を構えてラグナへと攻撃を仕掛けてくる。


「グッギャァァァ!!」


ゴブリンがラグナを殺そうと剣を振り抜く。


対してラグナはガストーチソードへの魔力をあげ対抗する。


「グギャ!?」


ガストーチソードはゴブリンが振りかざした剣をいとも簡単に溶断すると、驚きのあまり声をあげたゴブリンの体をそのままの勢いで切り込む。


「グギャー!!」


という悲鳴を上げて叫ぶゴブリン。


上半身と下半身が真っ二つに別れながらその体は大地へと転がった。


「グ、グギャ……」


ラグナは勢いそのままに残りの三体のゴブリンもあっという間に蹂躙するのだった。

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