第353話
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ゴブリンは人間では無くて魔物だと頭では理解しているのだが……
「やっぱりこればっかりはこの世界にきて何年経っても慣れないや」
人の形をしていない魔物であれば、躊躇無く命を奪うことが出来るようになってきたが……
どうしても人の形に似ている生物だと、殺すという行動に対して未だに抵抗があった。
もうこの世界に転生してから十年以上の月日が流れているというのに……
「まあ、でもそんな事言ってられる状況じゃないか……」
魔の森以外でも現れるようになった魔物達。
いちいち魔物を殺める事に対して躊躇していたら、守れるものも守れなくなってしまう。
少し気落ちしながらも、周囲にゴブリンの仲間がいないか確認。
ゴブリン達が奪い取っていた遺品も回収するとシーカリオンの王都マリンルーへと再び移動を開始するのだった。
移動を開始してから数日後……
「ここの村もか……」
国境の近くにあった村は悲惨だった。
砦と同じように無惨にも魔物に殺されたと思われる遺体の数々。
簡易的な柵は破壊され、家も多くが崩れていた。
そして絶賛食事中の魔物達の姿も。
最初の頃はその魔物達の討伐、そして遺品と思われる物や遺体の回収もしていたが……
『ごめんなさい……』
このままこれを繰り返していては、到着するのがいつになるのかわからない。
遺品や遺体の回収を諦め、ラグナは目に涙を溜めながら突き進む。
そして更に数日後、シーカリオンの王都マリンルーが見えてきた。
「ん?どうし……」
マリンルーの外壁の外に建てられた、とある家の中から兵士と思われる人がボロボロの姿でフラフラと出てくると、そのまま地面へと倒れ込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
ラグナが慌てて駆け寄るが……
「うぅ……うぁ……に……逃げろ……」
と兵士が言うとそのまま意識を失ったのだった。
家の中ではまだ争う兵士の声と、魔物と思われる唸る声が聞こえた。
ラグナは兵士を一旦安全そうな場所まで運ぶと、意を決して家の中の扉を開く。
そして中を見て一言。
「はっ……?」
あまりにも予想外の景色にあ然としてしまう。
「なんでこんな事になっているんだ……?」
なんということでしょう。
玄関を開くとリビングへと向かう廊下と地下へと向かう階段があったはずなのですが……
奥行きが見えないほど広々とした洞窟へと生まれ変わっていたのでした。
「……って、なんで!?」
流石に理解不能過ぎて混乱していると、すぐ目の前で必死に魔物と戦う兵士達の姿が見えた。
「なっ!?逃げるんだ、少年!!ぐっ!!」
ラグナの存在に気が付いた兵士が慌てて声をあげるが、魔物からの攻撃を防ぐので精一杯の様子だった。
兵士達が戦っているのは二足歩行をしている犬。
その犬顔の魔物が鋭い爪で兵士達に襲い掛かっていた。
「加勢します!」
ラグナがそう発言しこちらへと向かって来ようとしたのを兵士は止めようとするが……
魔物からの攻撃を防ぐことで精一杯で止めるに止められなかった。
ラグナは収納から剣の柄を取り出すと、すぐにガストーチソードを発動。
ゴウゴウと激しい音をたてる炎の剣を構えると……
「助けに入ります!!」
兵士に向かって声をあげて魔物へと向かって飛び出す。
「ゴァァァア!」
飛び出したラグナに気付いた犬顔の魔物は大きく口を開けて威嚇し、そして鋭い爪の付いた両手でラグナに襲い掛かるが……
「キャイン!?」
ガストーチソードの前ではそんな爪が意味をなさずに、まるでバターを切るかのように簡単に切断されてしまうのだった。
そして返す剣で犬顔の魔物の首を一刀両断に切り捨てる。
ラグナは兵士達に襲いかかる犬顔の魔物を次々と退治していく。
「す、凄い……」
戦闘が終わると兵士の一人が思わず声を漏らしていた。
まさか自分達よりも明らかに年下の子供に助けられるとは思ってもいなかった兵士達。
命が助かったとホッとしたのも束の間、
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
という叫び声が洞窟の奥から聞こえた。
兵士達は洞窟の奥にいる声の主を助けに向かおうとした所で、自分達よりも小さい人影が駆けていくのが見えた。
「いったいあの子供は……」
兵士がそう呟く中、その小さい人影はというと
『なんで、アヤトさんの家の中がこんな事になっているんだよ!?』
と内心混乱していたのだった。
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