第351話

「……やっぱり意味がわかんない」


ラグナの目の前には森の中にぽっかりと空き地が広がっていた。


さて移動するかと思っていると……


「グァパァァパパァァァァー!!」


という叫び声が聞こえてしまい、身体がビクッと反応してしまう。


「まじかよ!?やべぇ!?」


と叫びながら絶賛全力疾走を始めるラグナ。


アルテリオンの無事を祈る暇もなく急ぎシーカリオンへと向かうのだった。


「はぁ、はぁ、はぁ、まじで何なんだよ、アイツは……」


日が暮れるまで突っ走っていたラグナは木の上に登ると、魔道書にハンモックへと変化してもらいカモフラージュローブをいつものように巻き付けるとゴロンと横になる。


『何?あの変なやつ。』


魔道書がそう話し掛けて来たのだが……


「俺が知りたいよ。あれは魔物なの?」


『私に聞かれてもわからない。それよりも、今日はご飯無いの?』


こんな状況下でも、魔道書は平常運転だった。


「うーん……今からは作ったり出来ないし……これでいい?」


と取り出したのはグーナパン。


シーカリオンの出店で購入した物を収納していた。


『……もらう』


と短く返事するとラグナの手にあったグーナパンが一瞬にして消えた。


「んじゃ俺も食べるか」


ここで違う物を食べ始めると魔道書が欲しがるので、同じ物を取り出して食べる。


パンの具材は葉物の野菜と何かの焼き魚だった。


丁寧に骨が抜かれてて食べやすい。


塩で味付けされているのだが……


「やっぱり俺的にはこっちがいいよな」


と醤油が入っている調味料ボトルを召喚。


それを軽く振り掛けて食べようとした所で……


『じぃー…………』



と言いながら目の前でふわふわと浮いている魔道書が……


「……一口だけだよ?」


『ありがとう』


とお礼を言うと醤油を振り掛けた部分に小さく歯形がついた。


『醤油美味し……』


魔道書は素材の味よりも調味料で味付けされた料理をかなり好んでる気がする。


そんな事を考えながら食べていると、


ガサガサ


ガサガサガサ


と草が激しく揺れ


「クンクン、クンクン。グパァ?クンクン」


と地面の匂いを嗅ぎながら移動しているヤツが現れた。


「クンクン。グッパァ?」


匂いを嗅ぎながら移動していたヤツは俺がいる木の根元まで来ると立ち止まって上を見上げている。


「グァ?パァ?」


首を傾げて不思議そうにしている。


俺はその様子を見ながらジッとしていると、


ガサガサガサガサ


と新たに激しい音がしたと思ったら……


「グァァァァァァ!!」


という声と共に飛び出してきたのは大型の熊の様な魔物。


『何だ、あれ?』


ラグナは未だに使い慣れない神眼を久々に発動させる。


[ワイルドベア]

森に住む熊が魔物化したもの。

強力な爪とパワーで相手に襲いかかる。


頭にそのような情報が一気に流れてくるのだが……


激しい頭痛が襲ってくる。


「ぐっ……」


その痛みに耐えながら、ずっと追い掛けてきたヤツも鑑定する。


[ダッシュバーード]

バードではない。バーードなのだ。

速さに命をかけた鳥型の魔物。

全ては速さの為に。

実は空も飛べるのだが、地上を疾走することに命をかけている。


流れてきた説明文にスピード狂かよ!と突っ込みそうになるが、その続きの文章を読んでがく然とする。


[ダッシュバーード]

自身よりも速い存在に恋をする。

相手の種族は問わない。

狙った獲物は死ぬまで追い掛ける。


激しい頭痛の限界ですぐに神眼による鑑定を止めたのだが……


いろいろな意味で更に頭痛に襲われる結果となった。


「グパァ!?」


ダッシュバーードは突如現れたワイルドベアに驚いたのか声をあげて逃げだす。


その後をワイルドベアは吠えながら追いかけていくのだった。


「はぁ……」


『大丈夫?』


「うん、何とかね……」


徐々に頭痛が治まると共に魔道書からの問い掛けに応じたのだが……


「グァッパァァァ♪」


先ほど慌てて逃げていたはずのダッシュバーードが、短い尻尾をふりふりしながらワイルドベアをおちょくっていた。


「グラァァァァ!!」


ワイルドベアも自身が馬鹿にされていると気が付いたのか雄叫びをあげながら必死にダッシュバーードを追い掛けていく。


ギリギリまで接近してきたワイルドベアの突進をダッシュバーードが避けると


「グァパパパパァ!」


とまるで笑っているように誰がどう見ても馬鹿にしている様に舌をべっと出したダッシュバーード。



大きな腕を振り上げてダッシュバーードへと叩き込もうとするのだが……


「グァパ?」


どこを狙っているんだい?


そう問い掛けるようなリアクションをしていた。


ワイルドベアは更に怒りを増しながら地面に落ちていた石を掴むとダッシュバーードに向かって投げつける。


投げつけた石はかなりの速度でダッシュバーードへと襲い掛かる。


「グァ!?」


ギリギリの所で石を回避することが出来たダッシュバーードだったが……


石は木に当たるとかなりの衝撃を与え砕け散っていた。


「グッ……パッパッ……」


その威力に驚いたのはダッシュバーード。


速度に全振りの自分にこの攻撃はヤバいと悟ったダッシュバーードは次の石を探し始めたワイルドベアから必死の逃走を開始する。


「グァッパパパパパァァァァァ!!」


「グルァ!?」


ワイルドベアはいきなり逃げ出したダッシュバーードの行動に驚いて拾ったばかりの石を落とす。


そして慌てて逃げ出したダッシュバーードを追っていくのだった。


「グァッパァァァァァ!!」


「グルァァァァァァ!!」


森の中でそんな声が時折響いていたが、次第にその声が小さくなっていくのだった。


「……もういいや」


激しい頭痛に襲われグッタリしたラグナは静かになった森の中で眠りにつくのだった。

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