第336話

ラグナも共に救助活動をしようとした所でルテリオに止められる。


「ラグナ様には是非お願いしたいことがあります。」


真剣な眼差しで俺を見つめてくる。


「ルテリオ~、持ってきたよ~」


風の精霊が紙のような物を持ってきてルテリオに手渡す。


するとその紙が宙に浮き、勝手に文字が刻まれていく。


そうして綺麗に折り畳まれ、どこかうっすらと輝いている手紙を手渡されると、


「これをガッデスの国王へとお願いします。」


と託される事になった。


ラグナはコクリと頷くと、手紙の内容を聞かずに急ぎガッデスへと向かう。


ルテリオの雰囲気がどこか覚悟を持ったような空気だったため、手紙の内容を問い返すことはしなかった。


アルテリオンを出国し外に出ると、すぐに違和感とどこか懐かしい空気感を感じた。


『なんだ……?』


森の中が静まり返っている。


野生の動物達の声も、鳥すらも気配を感じない。


この感じ……


どこかで……


警戒しながら森を進んでいると、


ドン!


バキバキバキ!


激しい衝突音と共に木が薙ぎ倒される。


「なっ!?なんでお前が!?」


「ブルァァァァァァ!!」


ワンボックス並の大きな巨大が目をぎらつかせながら獲物を発見したが如く、俺を睨みつけ雄叫びをあげた。


「何でワイルドボアがこんな所にいるんだよ!!」


ラグナの叫びも虚しく、ワイルドボアは突進してくる。


しかし初めてワイルドボアと相対した頃とは違う。


重量級の巨体で迫り来るワイルドボアを魔力障壁を展開し真っ正面から受け止める。


ドン!!


という激しい衝突音と共に動きが止まるワイルドボア。



ラグナは冷静に収納から剣の柄を取り出すと、


「ガストーチソード!!」


轟々と激しい音を立てながら燃えさかる炎の剣でワイルドボアの眉間を突き刺す。


「プギィィ!?」


短い鳴き声を上げ、ガクガクと巨体を揺らしその場に崩れ落ちるワイルドボア。


動かなくなるのを確認したあと、収納に仕舞う。


「ふぅ……何で魔の森から遠く離れてるこんな場所に魔物が……」


真の女神と名乗っていた存在が言っていた事を思い出す。


「枷……枷を解放ってこの事だったのか?」


以前よりずっと不思議だった。


何故魔物達は魔の森から出ることが出来ないのか。


仮に出たとしても徐々に衰弱していく理由も判らなかった。


村のみんなに聞いても


「知らん。そういうもんなんだろう。」


と深く悩んでいる人もいなかった。


「魔物達を押さえ込んでいた何かが、あの存在のせいで解放されたって事か……?」


つまり初代勇者が戦っていた頃と同様の世界になってしまった……?


「もしもそんな事になってしまったら」


防衛力なんてものが存在しない村々は魔物達からの襲撃から逃げる事なんて出来ないだろう。


「あのアオバ村ですら壊滅してしまったんだからな……」


父さん……


母さん……


それに村長さんや村の狩人のみんな……


あの楽しかった日々を思い出すと胸が苦しくなる。


未だに父さんや母さん達を探す手掛かりすら見つからない。


それにあの国にはもう戻ることは出来ない。


そんな事を考えてしまい、少し警戒が緩んでしまったラグナへと悪意が迫る。


シュルシュルシュル


「ん?木の根?どうしたの?」


ラグナの腕へと巻き付く木の根。


ピシッ!!


腕に巻き付いた木の根が、ラグナの腕を締め付ける。


「痛っ!!精霊樹、急に何するの!!」


更に木の根が伸びてきて、ラグナを拘束しようとする。


「ちょっ!?止めろって!!いい加減にしないと怒るぞ!」


ラグナがそう怒鳴ると、


シャッシャッシャッと何とも不快な声が目の前の木から聞こえた。


目の前の木をよくみると、


「気持ちわるっ!!」


木の幹に人の顔のようなものが浮かび上がっており、何とも言えぬ気持ち悪さを放っていたのだった。

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