第334話

ここはヒノハバラにある辺境の村の山の中。


「さっきの声は何だったんだべ?」


「おめぇも聞こえたんけ。おらにもわかんね」


頭に響いた謎の声に困惑していた狩人達。


二人は食料を獲るために山に潜っていた。


「まぁ、あんまし気にする事じゃねえだ」


「んだな。それよりも今日はこんだけ捕れりゃ充分だろ」


そう話しながら今日獲た食料を背負い、山を降りようとしたその時、


ガサガサ。


「ん?なんかいるだべか?」


「なんだべな。肉食の獣とかだったらやべえぞ」


二人は獲た食料を地面におろし弓を構えながら警戒していると、ドスドスと激しい足音と共に茂みの中から飛び出してきたのは


「プギャァァァァ!!」


体長3メートル程の巨大な猪のような獣だった。


「な、なんちゅうデカさの猪だべ!」


あまりの迫力に狼狽える狩人。


「おめさ、逃げろ!これはただの猪じゃねぇ!ワイルドボアだべさ!!」


「な、何で魔物がこっちの森に来とるんや!?」


ワイルドボアと呼ばれた巨大な猪は、二人の方へ突進してくる。


「うひぁぁぁ!!!」


「ひぃぃぃ!!!」


構えていた弓を投げ出し、その場から逃げ出す二人。


「このまま村まで逃げるだよ!!」


「そ、そうだべか!?」


二人の元へと突進していたワイルドボアだったが急停止する。


ワイルドボアが止まった先にあったのは二人の狩人が山の中で仕留めた獲物達。


「い、今しかねぇ!村まで急ぐだ!置いてくぞ!!」


「わ、わかっただ!すまねぇ!!」


狩人達は荷物を諦め投げ出すと、急いで山を下っていく。


すぐに逃げ出したのが良かったのか、何とか無事に森を抜けて村に到着すると


「村長!大変だべさ!魔物が出たんだよぉ」


狩人は必死の形相で村長に訴えるが、


「魔物だぁ?んな訳ねぇべよ」


と半信半疑の様子。


「本当だって!信じてくれよぉ。オラも見たんだ!あれはワイルドボアだった!昔、アオバ村の連中について行って狩りをみた時に教えてもらった魔物だべ!間違いないって!!」


村長は必死に訴える狩人達の姿を見て、ふと先ほど聞こえた不思議な声を思い出した。


「さっき変な声が聞こえたばかりだかんな。一応、警戒しとくべ。おい!誰かこいつらに水を。あと村の連中を集めてくれ!!」


「わかっただ」


そう言うと村人の一人が家の外へと走っていく。


そしてしばらくして集まった村の男衆達。



その中心にはあの時逃げた狩人達がいた。


「おめえら、顔色が悪いけど大丈夫け?」


「あぁ……おら達の体調なんてどうでもいい。それより、おめぇらもあの不思議な声を聞いただか?」


「あの闇とか混沌とかよくわかんねぇ事言ってたやつけ?」


「そ、そうだべ。おら達は山の中でそん声を聞いたんだ。まぁ言ってる事がよくわかんねぇし、獲物もたんまりとれたから山を降りようと移動してたら、その途中でおら達は魔物に出会っちまったんだよ!」


狩人が魔物に出会ったと叫んでポカンとする男衆達。


そしてどっと湧き上がる笑い声。


「ははは!魔物だってか!?魔物が魔の森から出てくるわけねぇべよ!」


「そうさな。でけぇ猪を魔物と勘違いしただけだべよ、なぁ村長?」


狩人達の真剣な表情を気にすることなく茶化す男衆達。


そんな空気の中、村長は


「一応、変な声も聞いたんだ。今日から数日間だけでも警戒する事に決めた。」


「まじかぁ。まぁ村長が言うなら仕方がねぇべな。」


面倒だなという雰囲気が広がっている中、


「プギャァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


遠くから何か叫び声のようなものが聞こえた。


「な、なんだべ?」


「まさか本当に魔物が来たんじゃ……」


「や、やばいべ!みんな武器を持つだよ!!」


慌てて各々の武器を取りに戻る男衆達。


アオバ村の様に立派な防壁など存在しない辺境の村なので、気持ちばかりの柵はあるものの、簡単に破壊されてしまうだろう。


村の外で武器を構える男衆達の前に、そいつ等は現れた。


「プギィィィィィ!!」


体長3メートル程の巨大な猪のような獣が2頭。


「なんだ、このデケェ化物猪は!」


「こんなもんがいるなんて聞いてねぇべさ!」


ワイルドボアを実際に見たことがない村人達はあまりの迫力に狼乱する。


「と、とにかくおら達で村を守るんだ!」


「そ、そうだべ!!」


「んだ!」


狩人達の掛け声に気を取り戻し、ワイルドボアに立ち向かう男衆達。


しかし、


「プギャァァァァ!!」


目の前へと突進してきたワイルドボアの迫力に腰を抜かす。


「う、うわぁぁぁ!!」


グシャ


ワイルドボアに踏みつぶされた村人。


そして踏み潰した張本人であるワイルドボアはそのまま村の柵へと衝突。


ドゴォン!!


大きな音を立てながら壊れる柵。


「プギャァァ!!」


そのまま何事も無かったかのように村の中へと侵入。


村の中にある民家へとそのまま突っ込んでいくのだった。


「おっかぁぁぁぁぁ!!」


村人の叫びも虚しく響き渡る妻の叫び声。


「キャァァ!!」


次々と倒壊していく家々。


「お、俺の家も!!」


家族で暮らしていた男の家は、ワイルドボアの突進により崩れ去ってしまった。


「プギャア!!」



さらにもう1頭のワイルドボアが突進してくる。


「ゆるさねぇぞ化け物共が!!」


迫り来る魔物に槍を突き出す。


しかし……


ボキッという音を立ててへし折れてしまう。


「なっ!?」


驚く村人達。


狩人達や村人達が手に持つ粗末な武器ではワイルドボアを傷付ける事など出来なかった。


そこからはワイルドボア二頭の独壇場だった。


蹂躙されていく村人達。


「た、助けてぐれー!!」


「いやぁぁ!!」


「ぐぎゃぁぁ!!」


「うわぁぁ!!」


悲鳴と共に次々に倒れていく村人達。


「くそったれがぁぁぁ!!」


そんな中、ワイルドボアに向かって走り出す一人の狩人。


しかし……


「いくっ、へっ?」


狩人が最後に見た景色は、もう一頭のワイルドボアが大きな口をあけてこちらへと迫っている光景だった。


こうして辺境の村は人知れず壊滅。


この様な地獄の光景が世界のあちこちで広がっていたのだった。

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