第333話

『とうとう殺めてしまった……』


ずっと今まで避けてきた事をしてしまった。


震える手を見つめるラグナ。


ルテリオが呆然としているラグナの側に居なければと、疲労困憊の身体に鞭を打ち何とか移動しようとした、そんな時


『心地よい。何とも甘美。素晴らしい絶望。あぁ、力が戻る。お前たちの感情、魂、そしてその肉体は我の糧となるのだ。安心して逝くがよい!』


ラグナとルテリオに重圧が襲いかかる。


「ぐっ!!」


「こ、これは!?」


真っ黒に焼け焦げた肉塊が怪しく光り輝くと、地面へと吸い込まれていく。


『憎き奴らから力を奪われてから長かった……やっと……やっと力がここまで戻ってきましたわ!あーはっはっはっはっはっはっ!』


肉塊が完全に地面へと吸収されると、辺り一面に禍々しい笑い声が響き渡る。


そしてこの声の主は自らの力を行使し、この世界に生きる全ての生物に声を届ける。


『混沌たる世界よ!そこに封じられし者達よ!そなた達の枷は我が解放してあげましょう!さぁ、共に世界を絶望で包みこむのです!!』


「空が……」


禍々しい光が世界を包み込んでいく。


その光は禍々しく輝き始めるのだった。


「この声は……まさか!?」


ルテリオの驚く声に、空を見上げたまま固まっていたラグナはハッとして振り向く。


『さぁ、世界に住む生命達よ!共に祈りましょう。この世が闇に包まれ混沌とした日々を送れますように。真の女神である我からの祝福を授けましょう。皆様、我に祈りを捧げるのです!あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ』


真の女神という謎の存在が世界にそう呼び掛けた事によって、この世界に封じられし存在達が雄叫びをあげる。


「ウォォォォー!!」

「ギャォォォー!!」

「ピギャァァー!!」

「我、復活ナリ!!」


封じられていた存在達は枷が外れた事に喜び、各地で暴れだすのだった。


ラグナが自称真の女神と名乗った存在は禍々しい笑い声と共にどこかへと消え去った。


重圧から解放されたラグナは殺人をしてしまったという後悔を心の中にグッと閉じこめ、ルテリオと共にアリッサム王のもとへと駆けつけるべく、精霊樹の中へと入るのだった。


その頃、シーカリオンでは


『ありゃりゃ、予想よりも早く動き始めちゃったか。今回ばかりは厳しいかなぁ……でも可愛い子供達の為にも、お姉さん頑張らなくちゃ!!それにしてもやってくれたねぇ!!自分の事を真の女神なんて大それた事を言ってくれるじゃない。どうやって封印を解いたのかは知らないけど、この世界に帰ってきた事を後悔させてやるからね!とりあえず、ミオンちゃんに連絡かな。せめてこの国だけは守らないと。』


とリオは闘志を燃やしていたのだった。

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