第331話

「ᛈᛚᛖᚪᛋᛖ ᛞᛖᛞᛁᚳᚪᛏᛖ ᛗᚤ ᛗᚪᚵᛁᚳᚪᛚ ᛈᛟᚥᛖᚱ ᛏᛟ ᛏᚺᛖ ᛋᛈᛁᚱᛁᛏ ᛟᚠ ᛏᚺᛖ ᚥᛁᚾᛞ ᚪᚾᛞ ᛚᛖᚾᛞ ᛗᛖ ᚤᛟᚢᚱ ᛋᛏᚱᛖᚾᚵᛏᚺ!」


アリッサム王がよく判らない言語で魔法を唱えると、突如ラグナの目の前に現れた風の精霊とルテリオが光り輝く。


そして風がドリルの様に回転し始める。


「ラグナ君、今だ!!拘束をといてくれ!」


アリッサム王がラグナにそう指示すると回転した風が、暴動を起こしたエルフ達に向けて発射される。


「っ!!」


このまま命を奪っても良いのか……


一瞬迷ってしまったが……母親の亡骸にしがみつくエルフの子供の光景がラグナの脳裏に浮かび、迷いを振り払うとタイミングを合わせて拘束を解いたのだった。


「許さんぞ、人間!!女神様に仇なす存在に神罰を!」


カルミラが最後の悪あがきにと手を前に伸ばし何かをしようとしていたが……


ドリルのように激しく回転した暴風が前に突き出した手を飲み込み、引きちぎり、そのままエルフ達の肉体を飲み込んだのだった。


「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」


エルフ達は悲鳴を上げながら、風に飲み込まれていく。


そして飲み込まれたエルフ達の肉体は激しい回転により、ズタボロに引き裂かれ、血飛沫をあげながら肉片となって飛び散っていく。


そして竜巻が消えた後には、バラバラになったエルフの身体が散らばっていた。


「うっ、うげぇぇぇぇ。」


ラグナはあまりにも凄惨な光景に吐き気を覚え、その場で胃の中のものを吐き出してしまう。


「ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまって……」


涙を流しながら嘔吐するラグナの背中を優しくさすりながら謝罪するルテリオ。


それから数分後、胃の中が空っぽになり落ち着いたラグナはアリッサム王とルテリオの方へと振り向くと……


慌ててルテリオの身体を引き寄せる。


そして急ぎアリッサム王の手を引っ張ろうとしたが、時既に遅し。


「な、なぜ……?」


アリッサム王の腹部に手が貫通していた。


アリッサム王の腹部を刺した手の正体。


それは肉塊の化け物。


先ほど魔法によってズタズタに引き裂かれたエルフ達の肉片が一つに集まり巨大な肉塊となり、その物体から触手の様な物が飛び出し、アリッサム王を刺し貫いていたのだ。


「くそっ……」


口から大量に吐血し、力なく崩れ落ちるアリッサム王。


「アリッサム!?」


悲痛な叫びをあげるルテリオ。


肉片から複数の顔が浮かび上がる。


「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」


いくつもの声が重なり、不協和音のような不快な音が響き渡る。



そして肉片から再び手が伸び、アリッサム王を掴み上げようとしたその瞬間、


バチン


地面から急に現れた複数のソレは肉片に向かって強力な鞭のように己の根をしならせて弾き飛ばし、アリッサム王を取り込むと再び地面へと潜り消えていった。


「人間許さナイ!」

「人間なんて皆殺シ!」

「人間に尻尾を振るエルフも同罪ダ!」

「人間に媚びる女神などイラヌ!」

「我らが信仰する新しき女神様の供物トナレ!」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」

「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」


無数の顔が一斉にそう叫び、ラグナとルテリオを睨みつける。


「お前らいったい何なんだ!!」


ラグナは思わずそう叫んでしまう。


「「我らは新しき女神様に選ばれし使徒」」


「「我ラノ使命ハ、女神様ニ仇ナス存在ニ神罰ヲ与エル事!」」


先ほどから、この肉片から感じる悪意に対してつい最近感じた覚えがある。


それに……


「新しき女神だって……」


ふと思い浮かべるのは、あの禍々しい声の主。


「人間ガ憎イ憎イ」

「女神様に仇なす存在に神罰を!」

「神罰をー!!」

「神罰を!!」

「神罰を!!」


狂ったようにそれぞれの顔が叫ぶ。


そしてラグナへと襲いかかる複数の肉の剣。


ラグナはそれを何とかかわしながら、必死に考える。


こんな化け物になったとはいえ、元々はエルフ達だった。


この世界に転生してから未だに人の命を奪った事は一度も無い。


出来る限り殺人を避けていた。


この世界では命の奪い合いなんて日常茶飯事。


前世とは違う。


頭では理解しているのだが……


躊躇しているラグナに容赦なく襲いかかってくる多数の肉の刃。


「くそっ!」


既にぐったりと疲弊しているルテリオを庇いながら何とか攻撃を防いでいく。


「このままじゃ……」


徐々に追い詰められていくラグナ。


「やるしか……ないのか……」


己の手で人を殺める覚悟を決めるラグナなのだった。

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