混沌が広がる世界

第330話

「なんだこれ……」


風の精霊から告げられた緊急事態に慌ててアルテリオンに戻ったラグナだったが……


「何でこんな事に……」


目の前に広がる光景に唖然とするしかなかった。


ミラージュからの卑怯な自爆テロによって破壊された街がやっと元の綺麗な街に戻りつつあったのだが……


「嘘だろ……」


あちこちで火の手が上がっている。


街の至る所でエルフ達が傷つき倒れていた。


「おかぁーさーん、目を開けてよ……何で目を開けてくれないの……」



幼いエルフの子が必死に自分の親に呼びかけている。


「ねぇ……一人にしないでよ……」


だが、その子の願いは届くことは無く……


母親だったものは二度と動く事は無くなった。


「なんでこんな……」


あまりの惨状にラグナはただ立ち尽くす事しか出来なかった。


すると街の奥で激しい物音と共に砂煙が上がるのが見えた。


「誰かが……誰かが戦っているのか!?」


ラグナはギッと唇を噛み悔しい感情を押し殺すと、急いでその場所へと向かった。


そこはアルテリオンの王城の目の前。


そこでは一人の小さな妖精の少女が大勢のエルフ達を相手にたった一人で戦い続けていた。


「ハァ……ハァ……」


少女は肩で息をしながら、必死に戦っていた。


「何で!!何で同胞であるエルフ達を傷つけたの!?」


涙を流しながら戦う少女。


「女神様に仇なす存在に神罰を!」


目の前にいるエルフ達に少女の声は届くことなく狂ったようにそんな叫びを上げながら襲ってくる。


「お願いだから正気に戻ってよ!ねぇ、いったいどうしたというの!?」


「黙れ!人間に尻尾を振る裏切り者め!」


「カルミラ!!何でこんな事をするの!!」


「死ね!!女神様に仇なす存在に神罰を!」


剣を振りかざし、少女を切り捨てようと襲いかかる。


「くっ」


思わずギュッと目を閉じる少女。


「させるかぁぁぁ!」


その時、何者かが目の前に飛び込んできて、その攻撃を受け止めた。


「大丈夫ですか!?」


「貴方は!?」


「遅くなってごめんなさい。カルミラさん!!何をしてるんですか!!これは全てあなた達の仕業ですか!!」


ラグナは精霊神であるルテリオを庇いながら、怒りを込めてそう叫んだ。


「人間、人間、許さない!!人間許さないぃぃぃ!!女神様に仇なす存在に神罰をー!」


「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」


カルミラを含め、その場にいる狂ったエルフ達全員が同じ言葉を叫びながらラグナに襲いかかる。


「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」


ラグナは魔力をこめて魔力障壁を発生させると、襲いかかってきたエルフ達に向けて魔力障壁を叩きつける。


魔力障壁にぶつかり弾き飛ばされるエルフ達。


それでもなお、のそりと立ち上がり向かってくる。


「「女神様に仇なす存在に神罰を!」」


まるで壊れたロボットかのようだ。


そんな異常なエルフ達に恐怖を感じるラグナ。


明らかに手や足がおかしな方向に曲がっていても痛みを感じていないかのようにまた動き出す。


そんな異様なエルフ達の攻撃を防ぎつつ、何とか元に戻せないか打開策を見つけ出そうとするがなかなか見つからない。


「魔力障壁!!」


無理やり魔力障壁で狂ったエルフ達を地面へと押し付ける。


「もうこれを止めるには命を奪うしか……」


そんな葛藤をし続けるラグナ。


するとラグナの肩に小さな少女が息を切らせながら立つ。


「あなたに重荷を背負わせる訳にはいきません。アリッサムいきますよ!」


ルテリオがそう叫ぶといつの間にか精霊樹の根に巻き付かれた姿でアリッサム王が現れ、聞いたこともない言語で魔法?を唱え始めた。


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