第327話

困惑するドワーフ達の様子にラグナもただただ困惑するしか無かった。


混乱するドワーフ達にラグナは声をかける。


「僕はこうして無事です!!それでもまだ戦うつもりなのですか!!」


「いや、わしらは別に戦いたい訳では……あなた様の無事が確認出来たのですから……」


しどろもどろになるドワーフ王に、ラグナはハッキリと告げる。


「そんなに禁酒がしたいならばお好きにどうぞ!!」


この言葉の破壊力は凄まじかった。


「えっ!?」


シーンと静まり返るドワーフ国。


ラグナがゆっくりと周囲を見渡すと、ドワーフの大人達全てが土下座スタイルに。


それは国王やこの国の重鎮たるメンバー含めて同じ体制だった。


この場でポカンと突っ立っているのは、ラグナとまだ酒を飲んだこともないような子供達だけだった。


その頃、他の国でも慌ただしく情勢が動き始めていた。


「またですか……わかりました。残念ですが、女神様の元へと魂を導いてあげて下さい。」


ミラージュでは女神の名を語る何かによって、もはや呪いとも呼べる災害が確実に広がっていた。


「困ったものですな……」


「えぇ、本当に……」


聖女と教皇は思わず深いため息を吐いてしまう。


それも仕方が無い。


呪いを受けた者は人の形をした何かへと変貌してしまう。


一切食事も取らなくなり、決まって言うセリフは


「女神様に仇成す存在に神罰を!」


と手に武器を取り勝手にあちこちへと進軍を始めてしまう。


進軍先がアルテリオンやガッデスならば止める必要は無いのだが……


この者達はミラージュの国民すらも神罰と言いながら手に掛けてしまう困った存在だった。


何度も女神の名を語る偽物が居るというお触れを出しても、女神の名を語る何かからの甘い誘惑に市民や兵士達は耳を傾けてしまう。


だが、それも仕方がない。


長きにわたる戦により、国が疲弊していた。


満足に食べることの出来ぬ食料事情。


戦争により満足に入って来ない物資。



もはや重税とも呼べる神殿への献金。


それらが積み重なり、この国の民は皆疲れ果てていた。


その状況下の中でのエチゴヤの撤退。


撤退の原因を作ったのは自分達の国の兵士だと言う話は瞬く間に広がっていった。


そして自分達が信仰する女神に祈りを捧げても一向に良くならない生活。


自分達は女神様に見捨てられたのではないかという不安が広がっていた。


聖女と教皇が対策についての話し合いが行われる中、枢機卿の1人が顔を真っ青にして部屋へと入ってきた。


「教皇様、聖女様。緊急事態に御座います。」


目の前に現れた枢機卿が主に担当するのは軍務。


つまり軍事的にミラージュを動かしている人物だ。


その彼がここまで慌てているということは、相当不味い事態が起きたのだろう。


「一体何があったのですか?」


「実は……」


彼は恐る恐ると口を開く。


「ガッデスがこちらへと侵攻する可能性があります」


「「なんだと(ですって)!?」」


その言葉に2人は驚愕した。


ガッデスはミラージュからの攻撃により防戦一方だと聞いていたからだ。


「ガッデスにそのような余裕があるとは思えませんが……」


ガッデスへの街道封鎖が思っていた以上に効果を発揮し、もうしばらくすれば簡単に国を落とせると報告を受けていた。


それなのに何故今更になって侵攻してくるのか。


「それが……今になって食料や物資に余裕が出来たらしいのです。」


「街道封鎖は確実に行われているのですよね?」


「はい。それは確実に行われております。エチゴヤが物資の輸送を行った後、他の商隊が荷を運搬した形跡はありません。あくまでも可能性の話なのですが……初代勇者様と同じ能力を持った人間がいる可能性があると考えております」


その報告に驚愕する。


「詳しく……」


「はっ。この所、アルテリオンがあると思われる付近や、ガッデスへと向かう街道などで正体不明の#不審者がうろちょろしているとの報告がありました。それも一度ではなく何度もです。さらにその報告後に荷止めをされているハズのガッデスにて、酒を楽しむドワーフの姿が斥候より確認されています。しかも、アルテリオンやシーカリオンで作られている酒だったとか。それを踏まえると何者かがガッデスへと物資を運んでいる可能性が高くなります。」


「まさか……勇者様がこの世界に誕生していたと……?」


「まだ確定ではありませんが……勇者様と同じ能力を持っているとしか考えられないかと……」


「それは確かに……そう考えるのが妥当ですね……では、その者はアルテリオンへも荷を運んでいるでしょうね。」


重苦しい雰囲気の中、聖女は室内にある祭壇へと近づくと祈りを始める。


「女神様、我らミラージュは……」


聖女が祭壇へと祈りを捧げている頃、アルテリオンの地下牢では、


『カルミラ、アナタは本当にこのままで良いのですか?』


「誰だ!?姿を現せ!!」


地下牢で大人しくしていたのは、カルミラという名の元守備隊の隊長だった女性。


初めてラグナがアルテリオンへと訪れた際に、ラグナを捕まえた人物。


『憎き人間に尻尾を振る同胞を許してもいいのですか?』


「それは……」


カルミラは反人族派閥のエルフ。


家族である父は殺され、母と妹は人族によって慰み者に。


その後の行方は不明となっていた。


『アナタが望むなら、戦う力を与えましょう。』


カルミラは思わず唾を飲み込む。


他の牢に捕らわれている同胞にもどうやら同じ様な声が聞こえるらしい。


他の同胞も牢の中で立ち上がり、話を聞いているような様子だった。


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