第325話
ここ最近本気で叱られた事が無かったラグナは、本気で叱りつけてきたアリッサム王に対してキッと睨みつけてしまう。
その様子をみて、
『この程度で反発するとは……若いな。しかし当然か。まだまだ使徒様は人族から見ても子供なのだ。キチンと導いていくのも我ら大人の勤めか……』
と冷静にラグナを観察していた。
「あえて言わせて貰います。慌てて行った所でまたミラージュの兵に見つかって同じ事を繰り返すおつもりですか!」
「くっ!!」
言い返す事が出来ないラグナは悔しさのあまりグッと拳を握りしめる。
そんなラグナの様子を見ながらアリッサムは優しく諭すように話し掛ける。
「ガッデスが反攻作戦を実行するにはもう暫くの時間が必要です。」
「えっ?」
アリッサムの言葉に動揺するラグナ。
「考えても見てください。反攻作戦を実行するには兵が移動すれば終わりではないのですよ?兵が食べる食料の確保から武器や防具の準備。そのルートの確保。どれも一国が実行するには時間が掛かるのです。」
確かに一国が動くにはそれなりにしっかりと準備しなければいけない。
「確かにそうですが……でも早く向かわなければ間に合わないかも……」
「確かにその可能性もゼロではありません。全てはあなた次第なのですよ。」
「……僕次第とは?」
「あなたは先程の状態のままガッデスへと向かって行っていれば、ミラージュの兵士に対する警戒を怠り、そして発見され戦闘になっていた可能性もあります。万が一発見されてしまったらどうなるでしょう?当然戦闘になるでしょう。もしかしたら再び怪我をするかもしれません。ミラージュが仲間に知らせるかもしれません。そうなってしまった場合の事を考えて下さい。」
「ではどうすれば……」
「落ち着いて冷静に行動すれば良いのです。あなたは我々よりも早く目的地に着くことが出来る手段を持っているのですから。我々もガッデスに対して冷静になるように意見いたしますので。」
ラグナは大きく息を吸い、そしてゆっくりと息を吐く。
「……ガッデスに向かいます。」
先程とは違い、ラグナが落ち着いた様子にアリッサムはホッとする。
『この様子ならば大丈夫だろう。』
「我々もすぐにガッデスへと使者を送ります。そして使徒様、使徒様たるアナタに対して偉そうな物言い、申し訳ありません。」
アリッサム王はラグナに対して深々と頭を下げて謝罪する。
「あ、頭を上げて下さい!僕の方こそ、考え無しに動こうとしてしまい、本当にごめんなさい。そして、止めていただきありがとうございます。」
今度はラグナがアリッサムに対して頭を下げて謝罪する。
そして事態を見守っていたルテリオは小さい手をパンパンと叩いて鳴らすと
「それじゃあガッデスを止めるために動きましょう。」
と二人に対して声を掛けるのだった。
ラグナは精霊樹に頼み、人気のない場所へ出口を作って貰えるように頼む。
「ありがとね。」
お礼にと魔力の固まりを精霊樹に渡すと、収納から魔道具を取り出す。
いつもの高速移動用のフルセット。
それに顔を隠すために以前ガッデスで作ってもらったフルフェイスのヘルムを装着。
そしてラグナはとある事を実行することにした。
「きっとミラージュの兵士達は、ガッデスとアルテリオン間をウロチョロしている存在がいるって情報を既に国に伝えているハズ。流石に正体まではバレてないだろうけど……正体不明の何者かがいるって事は把握してるんだ。どうせこれからもバッタリと出会ってしまう可能性もあるし、バレても大丈夫な前提で動けばいいか。」
と何とも脳筋な答えを導き出すのだった。
そして魔道具を装着し、準備は完了。
「さてと……行くか。」
ラグナは魔道具に一気に魔力を流すと、今まで避けてきた街道を爆走する。
「この街道の先にある森のどこかにアルテリオンの国があると言われている!我々以外にも何人もの部隊が周囲を探索してきたが、未だに発見には至っていない!更に、不審人物がいるとの目撃情報もある!草や木の不自然な動きにも注意せよ!」
「「はっ!!」」
「それに……お前たちの中にも目にしたことがある奴はいるだろう!女神様の名を語る偽りの女神の声には決して耳を傾けるな!魂を奪われるぞ!」
ミラージュの兵士達は今までにないほど緊張感を持って慎重に行動していた。
これまでここへと派遣された部隊は、何者かに食料を燃やされたり、行方不明になったり……
人の形をした人ではない存在に慣れ果てた何かになってしまったりと、無事に帰ってこれた部隊は数えられるほど。
危険な任務から無事に帰れるよう、出発前に神殿にて女神様へと祈りを捧げてから任務に赴いていた。
そんな時……
「ん?なんだ……?」
ゴォーっという音が前方より聞こえてきた。
「た、隊長!前方よりなんか聞こえませんか?」
その一言で全員に緊張が走る。
「なんだ、あれは!?全員構えろ!!」
前方から激しい音がどんどんこちらへと近いて来ているのがわかった。
更に砂埃を激しく撒き散らしながら、その音を立てている何かが向かってきている。
兵士達は剣と盾を構え、覚悟を決める。
そしてその轟音と共に接近してきている存在の姿をようやく視認出来たのだが……
「人間……子供か!?」
フルフェイスのヘルムを装備し、姿を隠したまま接近してきたその存在は……
「はっ……?」
盾を構える兵士達の遥か頭上へとジャンプし、そのまま走り去ってしまったのだった。
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