第324話
「ありがとう。もう大丈夫だよ。」
あれだけ痛んでいた脚はすっかり良くなっていた。
そして負傷してからというもの、痛みによってほとんど寝れない日々を送っていたラグナだったが、久々にグッスリと眠ることが出来た。
ラグナがようやく痛みから解放され喜びを噛み締めている頃、1人のエルフがアルテリオンへと慌てて駆け込んで来ていたのだった。
「何だと!?何故ガッデスはそんな事を決めたのだ!!」
ガッデスへと連絡に向かっていたハズの兵士が顔面蒼白になりながら駆け込んで来たと聞いたアリッサム王は、何やら嫌な予感に襲われ、自ら報告を聞きに行った。
「かの方が負傷したとの報告をした所、最初は悲観した様子でした。しかし、何故か急に好戦的となり、ミラージュに対する本格的な反撃を開始すると宣言したのです。」
その話を聞いて静まり返る王宮。
「……すぐにルテリオ様へと報告に向かう。状況によっては我らも動かねばならん。すぐに準備せよ!」
アリッサム王は厳しい表情をしながら精霊樹の元へと赴くと、ルテリオの名を呼び掛ける。
「ルテリオ様!!緊急事態にございます!」
アリッサム王がそう呼び掛けると精霊樹の根元に扉が出現する。
「この先は我だけで向かう。お前たちも最悪の可能性を考えて、準備せよ!」
「「はっ!!」」
アリッサム王は自身を守る近衛兵にもそう声を掛けると、覚悟を決めて精霊樹の中へ。
扉の先には降りる為の階段が続いていた。
普段であれば上へと上がるハズが今回は何故か下がる方向へ。
しかし、精霊樹がそう招いているのならばとアリッサム王は階段を下っていく。
五分ほどだろうか?
階段を下っていると、ようやく終着点と思われる扉が見えた。
そして扉の前まで到着すると、一呼吸置く。
『はい、あ~ん。』
『えっ。でもぉ……』
室内からは何故だか甘ったるい雰囲気の男女の声が聞こえた。
『も~、仕方ないなぁ。ほら、もっとそばにおいで。』
『こ、こら。や、止めて。そんな事、恥ずかしいわ……』
しかも室内から聞こえる男女の声は、どう聞いても聞いたことがある二人。
「ま、まさか……」
アリッサム王はあり得ぬと思いながらも慌てて扉を開くと、
「ほら、遠慮せずにあーん……」
「あー……ん?」
アリッサム王が慌てて扉を開いた先に広がっていた景色。
「……。」
まさかと思い慌てて扉をあけたのだが、アリッサム王はそっと扉を閉める。
自分達が信仰している精霊神が乙女のように恥じらいながらも、口をあけて何かを手渡されていた……
思考が停止するアリッサム王。
するとドタバタと室内から慌てるような音と、
「わ、判ってて扉まで案内したでしょ!!」
と誰かに対して非難しているルテリオ様の叫びが聞こえたのだった。
すぐに扉が開き、顔を真っ赤にしたルテリオがアリッサムの前に現れた。
「ち、違うのよ!?べ、別に変なことなんて……」
「ルテリオ様。」
アリッサム王は見てはいけないモノを見てしまったという感情を押し殺して、ルテリオへと話し掛ける。
「な、何かしら?」
「私は何も見ておりません。」
「え?それってどういう意味かしら……ねぇ、ちょっと!」
ルテリオが更に顔を真っ赤にしながらあたふたとし始めるが、アリッサム王はあの事を伝えなければならない。
「それよりもルテリオ様、ガッデスがミラージュに対して反攻作戦を開始するとの事です。」
「それよりもって、私とラグナ様はそんなんじゃ……えっ?今何て?ガッデスが……何て言ったの!?」
「ガッデスがミラージュに対して防衛戦争は止めて攻撃を仕掛けるとのことです。」
「な、何で!?ミラージュが疲弊するまで防衛戦争のみに徹するんじゃなかったの!?」
「それが……」
アリッサム王はラグナがいる目の前で真実を話して良いものかと悩む。
きっとこれを知れば彼は悩んでしまう。
……だが、隠したとしてもいずれは知られることだろう。
そう考えたアリッサム王は、
「実は……ラグナ様がミラージュの手によって負傷したことをガッデスへと連絡したのですが……その事を知った途端に何故か急に好戦的になったとの事です。」
ラグナはその話を聞いてショックをうけて、慌ててアリッサム王が入ってきた扉から外に出ようとした所、その扉事態が無くなっていたのだった。
ドンドンと扉があった場所へと手を打ちつける。
「早くここから出して!!急いで止めにいかないと!!」
ドンドン
「お願い!開けて!!」
ラグナの悲痛な叫びにアリッサム王は落ち着くように声を掛ける。
「落ち着いてくだされ!!」
しかしラグナは
「落ち着いてなんかいられません!!」
と反発し、力いっぱい壁を殴る。
殴られている精霊樹は痛みを感じているのか、殴られる度に根がビックンビックンと反応している。
アリッサム王は慌てふためくラグナの姿を見て覚悟を決める。
「いい加減にしないか!!慌てて向かったとしてどうなるというのだ!!」
と強い口調でラグナを叱りつけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます