第323話

「うぅ……」


動く事がダルい……


身体が疲れきって……


「はっ!?」


最後に見た光景を思い出し、慌ててベッドから身体を起こす。


「あれ?なんで俺、こんな所にいるんだ?」


見たことがある部屋。


木に囲まれて、窓が無いこの感じは……


ツンツン


「ん?もしかして……また助けてくれたの?」


俺の腕に優しく巻き付いてきたソレは、精霊樹である木の根だった。


「……気がつきましたか?」


その声と共に現れたのは、


「ルテリオ様……」


精霊神であるルテリオ様が俺の前へと姿を現わしたのだった。


「……。」


お互いに見つめ合ったまま固まる二人。


二人が最後に会った時の光景を必然的に思い出してしまう。


「えっと……。」


俺の考えがルテリオ様に伝わってしまったのか、彼女の顔はみるみる赤くなってしまう。


「……忘れて下さい。」


忘れられる訳は無いけど……。


「……はい。それで、僕はまた精霊樹に助けられたんですね?」


強引に話を変えることにした。


「そうですね。この子が独断で動いてあなたを助けたみたいです」


ラグナは精霊樹の根を撫でながら


「本当にありがとう」


そう感謝を伝え魔力を練ると、精霊樹へと受け渡していた。


ラグナから魔力を受け取った精霊樹はブルブルっと震え、喜んでいるのかルンルンな雰囲気になっていた。


すると精霊樹が負傷していた脚に巻き付いてきた。


痛みが襲ってくると思い身構えて……


「痛っ……くない?」


恐る恐るズボンの裾をめくり確認すると、あれだけ嘘のように腫れていた筈の脚が元に戻っていた。


恐る恐る立ち上がってみる。


痛みは来ない。


軽くジャンプしてみるが、


「痛くない……」


ラグナが驚き戸惑っていると、


「緊急事態とはいえ、怪我を治す為にまたこの子があなたの口の中に再び精霊樹の雫を投与してしまいました……」


ルテリオ様が急にビクビクしながらそう話してくれた。


「だから怪我が……」


「はい……。私が気がついた時にはもう投与されていて……」


徐々に涙目になるルテリオ様。


「だ、大丈夫ですよ!たぶん……それに今回は緊急事態でしたし、本当に何日も痛みに耐えていたので助かりました。」


あの痛みのおかげでここ数日ちゃんと睡眠を取ることすら出来なかったから。


一方その頃、ガッデスでは


「何じゃと!!それは本当か!?」


「はい。先ほどエルフから連絡がありまして……」


「……会議を行う。皆を集めよ。」


ガッデス王は皆を集めて会議を始めた。


「それは、本当になのですか!?」


「あぁ、改めて連絡をしたが事実じゃった。」


「……何て事をしてくれたんだ」


「我らの酒。命の酒を運んでくださるあの方を……」



「我らが酒の神を負傷させるとは……」


「ふざけるなよ……あの方が来て下さらねば我らが命の水が……考えただけで見てくれ、手の震えが止まらない。」


ラグナの負傷を知り、絶望するガッデスの官僚達。


『…………あぁ、心地よい絶望。もっと混沌を。我に力を。うふふ。』


誰にも聞こえぬその声。


しかし、その声が発せられた後、部屋の空気が一変する。


「許せぬな。」


「あぁ、許せぬ。」


「あの方を負傷させる。つまりは我らドワーフへ本気で喧嘩を売っているのだな。」


「ふむ。」


「我らは今まで防衛の為の戦いしかして来なかったのじゃ。仮に攻めたとしてもあんな国などいらぬからな。しかし……今回の事件、断じて許せる事ではない!」


ガッデス王が机をドンと強く叩く。


「ならばどうする?戦争か?」


「その決断をするのは我らだけでは無い。この国民全てじゃ!急ぎ民を集めよ!」


ガッデス王のその指示により城の前にはどんどんとドワーフが集まっていく。


普段よりも集まりが早い。


その理由は簡単。


ドワーフ王より酒に関する何かが発表するらしいとの話が一気に広がり、国民達の動きは恐ろしくほど早かった。


集まった者達は今か今かと待ち続けていると、


「皆の者!忙しい中、急な召集にも関わらず集まってくれた!」


ガッデス王が壇上に立ち国民に感謝を伝えた。


「皆に伝えなければならないことが一つある!この戦時下の中、我らの命ともいえる酒を運んで下さっていた方が、憎きミラージュの兵士によって負傷された!」


ざわざわとし始める国民達。


何故ならば、ミラージュの手により街道封鎖が行われた結果……


酒が手に入らなくなり全国民が激しい苦しみを味わったばかりだから。


またあの地獄の様な日々が訪れるかもしれない。


そう思った国民達は声をあげる。


「ミラージュの奴ら……許せねぇ!!」


「俺達が何したっていうんだ!!何でこんなにも酷いことを平然と出来るんだ!!」


「ミラージュを許すなぁ!!」


「許すなぁ!!」


国民達が口を揃えてミラージュを許すなと声をあげる。


ガッデス王が手をスッと上げると国民達は静まり返る。


「我らドワーフは長き日々に渡り防衛の為だけの戦をして来た。つまり迫り来る火の粉をただ払って来ただけだ。しかし、今回の件……断じて許せることではない!ミラージュに対して本格的に反攻作戦を行おうと思うが、皆はどうだろうか!!」


ガッデス王が国民達へとそう声を上げると


「「戦だ!!」」


「「ミラージュと戦争だ!!」」


雄叫びを上げる国民達。


「皆の意志は確認した!これより、我らガッデスはミラージュへの反攻作戦を実行する!!」


「「おぉ!!」」


ガッデスが防衛戦争をやめ、反攻作戦を決行してしまったのだった。


『もっと、もっと混沌を我に。そして力を与え給え。うふふ、あーはっはっはっ』


誰も聞こえぬその声の主は嬉しそうに声をあげるのだった。

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