第320話
「神敵を滅せよ!!」
「女神様に血を捧げよ!!」
ミラージュの兵士達はそう叫びながらラグナが隠れている周囲を剣を握りしめたまま徘徊している。
「「神敵を滅せよ!!」」
兵士達は先程からずっと同じ言葉を繰り返しながら、少しでも怪しげな場所があれば剣を振り上げてその場所に振り下ろす。
そんな行動を何度も何度も数時間に渡って繰り返していた。
そして日も暮れてきた頃、ようやく兵士達がその場を離れてくれた。
「ふぅ……」
足の痛みにずっと耐えながら隠れるのは、想像以上にキツかった。
痛む足に触れるとさらに激痛が襲う。
「ぐっ!?」
思わず声が漏れてしまうほどの痛みだった。
そんな時、
『面倒な。我から見えない様に誰が小細工しているのやら。まぁ、いいわ。我の邪魔をするというのならば容赦はしない。覚悟することね。』
そう声が聞こえた瞬間、全身の体温が急激に下がった様に感じる。
そしてガタガタと身体が震えてしまうのだった。
『ちっ。もう時間か。命拾いしたわね。』
謎の存在から最後にと更に一際強く圧が掛けられると、ラグナは木の上だというのに意識を手放してしまうのだった。
………
…………
……………
ユサユサ。
ユサユサユサ。
「ん……」
身体が揺すられ、意識が徐々に覚醒する。
ゆっくりと目を開けると、
「まぶしっ!?」
日の光に襲われ思わず目をギュッと閉じてしまう。
ゆっくりと目を開けると……
「空……?」
雲一つ無い綺麗な青空が。
それにこの揺りかごの様な感じは……
「……ありがとう。」
どうやら魔道書が俺を助けてくれたらしい。
地面へと叩きつけられることなくハンモックの上で横になっていた。
身体を起こすと、
「うぐっ!?」
昨日よりも強めの激痛が襲ってくる。
痛みに涙目になりながらも周囲を確認すると、
「昨日かなり高い所で隠れていて良かった……」
昨日意識を失った位置から1メートルほど下の位置でハンモックが設置されていた。
しかし高い所で隠れていたおかげで地面からはまだ5メートルほど離れていた。
「流石にこの高さから地面に叩きつけられていたらヤバかったかも……助けてくれて本当にありがとう」
『うん。それよりも……足、大丈夫なの?』
「ちょっと動けるかはわかんないけど……」
『そう……じゃあご飯……貰えない?』
ちょっとしょんぼりとした声が聞こえる。
「大丈夫だよ。俺もお腹すいたし、ちょっとご飯にしようか。」
『やった……』
今日のご飯も収納に仕舞ってある出来合いの料理。
「これも美味しいんだけどさ……」
本当ならゆっくりたき火を楽しみたいけど……
ミラージュの兵士に煙やたき火の明かりで見つかる可能性があるのでたき火は出来ない。
だから、たき火で料理も出来ない……
せっかく増えたアウトドアスパイスを使って楽しむ事も出来ない。
もちろん、テント泊も出来ない。
たとえカモフラージュローブをテントの上から被せたとしても、万が一兵士が地面に設置してあるテントにぶつかってしまったらバレてしまう。
だからこの輸送を初めてからというもの、寝るときは木のかなり高い位置でハンモック泊。
別にハンモック泊が嫌いという訳では無いんだけど……
普通にキャンプしたい。
せっかく新たに貰った命だけど。
好きだったキャンプを楽しめたのは数回だけ。
「あぁ……はやく平和になればいいのに……」
思わずそう呟きながら、俺はズキズキと痛む足の痛みを堪えながら食事を口にしていくのだった。
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