第319話

「女神様の恵みに感謝を!!」


「「感謝を!!」」


天から降り注いだ光によって突如現れた金色のスープ。


ミラージュの兵士達は誰一人疑うことなく、スープをよそっていく。


『明らかに怪しいだろ!』


そう思いながらもラグナは見守る事しか出来ない。


『一体何が起きているんだ?何で平然とそんな怪しい物を食べようとするんだ?』


兵士達はスープをゆっくりと、しかしどこか待ちきれない様子で口に運んでいく。


すると……


「うめぇ……」


「身体の底から温かい……」


「これが女神様の恵みなのか……」


兵士達はスープを味わいながら次々と涙を流していく。


『いったい何なんだ……?さっきの謎の声といい、マリオン様の慌てていた声。それに未だに俺を包んでいるこの薄い青い膜は……』


困惑するラグナをよそに、ミラージュの兵士達は鍋一杯にあった金色のスープを全て飲み干していくのだった。


そんな光景に唖然とするラグナだったが……



しばらく兵士達を観察していると、先ほどまで食事をしながらガヤガヤと騒いでいた兵士達が徐々に大人しくなる。


そして、


「女神様に仇なす存在に神罰を!」


「「神罰を!」」


「女神様の愛を裏切った者に裁きを!」


「「裁きを!!」」


兵士達は急に立ち上がり、天に向かってそう叫び始める。


「な、なんだ……?」


兵士達の豹変ぶりに困惑するラグナ。


そんな時、兵士達が叫び続ける中、突然1人の兵士が持っていた剣を引き抜く。


「私は女神様からの愛を頂いたというのに、今まで裏切ってしまっていた!!我が国の情報をヒノハバラへ流してしまっていました。」


「女神様の愛を裏切ったこの者に裁きを!」


「「裁きを!!」」


「血を捧げよ!!」


「「捧げよ!!」」


「女神様、罪深き私の血を捧げあなた様の力へ!!」


そう叫ぶとその兵士は剣を自分の首に突き刺した。


ブシュッ!!


赤い血が周囲に飛び散る。


『な、なんて事を……』


あまりの光景に思わず呟くラグナ。


そんな時、首に剣が突き刺さった兵士から吹き出した血が怪しく光始める。


すると、


『罪深き悲しい子よ、我はそなたの罪を許そう。そなたの血肉は我と共に』


そう声が響き、その兵士の亡骸が地面へと吸い込まれていく。


『一体どうなっているんだ?』


唖然としながらその光景を見ていると、


『ん?……これは……我が愛しき民よ。微かですが、我に仇なす存在があなた達の近くに潜伏しているようです。これを滅し我に捧げ賜え。我は何時までも愛しき民を見守っております』


急に全身に鳥肌が立つ。


目に見えぬ何かがねっとりと纏わりついてこようとしているような感じ。


「神敵を滅せよ!!」


「女神様に仇なす存在に罰を!!」


兵士達は皆、目をぎらぎらと殺気立って周囲の探索を始めた。


ラグナはその場からゆっくりと姿を消そうとするのだったが……


「おい、あそこの草が不自然に潰れたぞ!!」


ラグナが一歩踏み出したその瞬間、草を踏んでしまった。


更に運悪くギラギラと目を見開き警戒していた兵士に異変を察知されてしまう。


兵士達がラグナの元へと剣を片手に駆け寄っていく。


『やべぇ!?』


ラグナは慌てて一気に魔力を込めて身体強化魔法を発動させると地面が抉れるほどの力で力強く踏み込む。


その結果、


「うわぁ!?」


ラグナの元へと駆け寄ろうとした兵士達に向かって大量の土が飛んでいき、視界を奪う。


一方、一気に魔力を込めて身体強化魔法を発動したラグナは……


「いつつ……」


自分が反応出来る速さ以上の速度が出てしまい、そのまま物凄い速度でゴロゴロと地面を転がってしまっていた。


痛む身体を何とか無理矢理動かし、木の上へと避難。


本来ならこのままこの場から立ち去るべきなのだろうが……


転がった際に足を痛めたのかズキズキと痛む為、兵士達に気付かれない事を祈りながらカモフラージュローブに再び魔力を流してジッと耐えるのだった。

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