第318話

「本当に最近やたらとミラージュの兵士が多いなぁ……」


ミラージュがエチゴヤに手を出したという情報は一気に各国に広まった。


その結果、ミラージュで商いをしていた商人達がエチゴヤに恨まれたら困ると夜逃げ同然で逃げ出したらしい。 


今では価格統制の為に全て国営に切り替えたらしいよ~ってリオさんが笑って教えてくれた。 


 『よっと……』


俺はミラージュの兵士達に見つからないように木に寄り添うとカモフラージュローブで姿を隠す。


「腹減ったな……」


「言うなよ、余計に腹が減るだろう……」


兵士達の様子が以前とは違い、痩せてきているような……


それに腹が減ったと腹をさすりながら歩いている。


「マジでエチゴヤに手を出した奴ら許せねぇ……」


「だな。そいつ等がエチゴヤから物資を強奪してなかったらこんな事になって無かったのに……」


「しかもお咎め無しだろ?女神様の意に従わぬエチゴヤに対して鉄槌を下したこの者達の勇気を讃えよ……だとさ。」


「その結果がコレだろ……」


「俺……エチゴヤの醤油を買うためにずっと金を貯めていたのに……」


「お前、まじかよ。あんな高いもの買うつもりだったのか。あれ、美味いのか?」


「お前はあの素晴らしい味を知らないのかよ。って俺も偶々お偉いさんに連れて行ってもらったエチゴヤの飯屋で食べたっきりだけどな。美味いなんてもんじゃないぞ。食の革命だ!」


「飯の話は止めようぜ……余計に腹が減る……」


兵士達はため息を吐きながら歩いていく。


「それにしても、ガッデスとアルテリオンへ物資を輸送している部隊を見つけろとか……」


「見つけ次第徴集せよって命令だもんな……」


「でもどうやって見つけるんだよ?未だにどの部隊も発見できてないんだろ?」


「あぁ。そもそも、その輸送部隊とやらが本当にアルテリオンとガッデスに荷を運んでいるのかさえ判らないんだろ?」


「噂によるとエチゴヤが主に最初は荷を輸送していたらしいんだ。でもウチの国が手を出した結果、その任務からも撤退したらしいな。」


「それじゃあ、誰がどうやってアルテリオンとガッデスに物資を運んでいるんだよ……」


「わからん。それを調べるのも俺達の仕事なんだろ」


「でもなぁ……結局それらしい部隊を見つける事が出来ずに、どうせ今日も無駄足だろ……」


そう愚痴をこぼしながら兵士達はラグナの目の前を通り過ぎていく。


それにしても……


『あの兵士達はアルテリオンとガッデスに荷を運んでいる部隊を見つけろって言ってたな……』


部隊なんていないんだけどな。


いつの間にかミラージュの標的がアルテリオンとガッデスから俺になっていた。


『というか、なんでそこまでして輸送部隊を探してるんだ?』


アルテリオンとガッデスの物流閉鎖の強化?


それともミラージュ自身が困窮しており、アルテリオンとガッデスの荷を奪って自身の国へ輸送するつもりなのか?


とぼとぼと歩く覇気の無い兵士達の後をラグナはこっそりとついて行くことに。


しばらく兵士達の後方から尾行していた所、


「そろそろ飯にするぞ。」


と隊長らしき人が声を掛けていた。


「はぁ……またこれか……」


兵士達が取り出したのは明らかに固そうな黒パンと干し肉。


「女神様からの恵みに感謝を。」


「「感謝を。」」


力なく食事前にそう呟くと皆が食事を始めるのだが……


「ウンギギギ!!」


固いパンを噛み千切ろうと必死になる兵士達。


『うわぁ……あれは固すぎだろ……』


せめてスープでふやかしたりしてから食べればいいのにと思ったが……


スープを作る材料すら用意されていないらしい。


固いパンをなんとか口に含んで食べたとしても……


次に待っているのは歯ごたえ抜群の干し肉。


「噛めねぇ……」


「あ、顎が……」


兵士達は何とか噛み切ろうと頑張っていた。


しかし……現実は非情だった。


「い、いてぇ……く、くそ……」


食事さえももがき苦しむ様子に、流石のラグナもドン引きだった。


「無理だ!もう噛めねぇ!!」


食事を取る兵士達は次々と諦めていく。


「せめてスープさえあれば……」


「なぁ……何で俺達はこんな目に……」


水でふやかして食べようにも、その水自体が貴重なのでおいそれと使うことが出来ない。


無理をしてでも噛み千切るしか無いのだった。


そんな時、


「それ以上言うな!我々は女神様に選ばれし民だぞ!これくらいの事、乗り越えないでどうするのだ!」 


満足に食事をとる事すら出来ずに弱気になる部下に対して隊長は活を入れるのだが……


「しかし隊長……我々はこのまま満足に食事が出来なければいずれ……」


隊員の一人が不安を吐露する。


「馬鹿な事を言うな!!そんな事は絶対にありえない。女神様が我々を見放すわけが無いのだ!!」


隊長が隊員に対してそう力強く答えている最中、


『マズイ!?間に合え!!』


突然マリオン様の声が頭に響く。


そしてラグナ自身が薄く青い膜の中に包まれた。 


その直後、


『我が愛しき民に恵みを』


どこか寒気がするような声が周囲に響いた。


そして兵士達の側に光が降り注ぐ。


「奇跡だ……」


「我らが女神様は見守って下さっていたのだ!!」


「女神様ぁぁぁぁぁ!!」


光が降り注いだ場所には金色の色をしたスープが入っている鍋が現れていたのだった。 


突如として現れたその光景に唖然とするラグナ。


『一体今の声は……それに何故急にマリオン様が……』


何が起きているのか、理解出来ないラグナなのだった。

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