第317話
若手や中堅が次々に退職届を出すという盛大な祭りが行われた為、リアル大パニックになっていました……
本当に更新をお待たせしてしまい申し訳ありません。
「こ、これは一体……」
昨日は普通に仕事をしていた。
じゃあまた明日。
そう会話していたはずなのだが……
目の前には昨日まで商店だったはずの建物があるだけ。
出勤時間になり、普段通り職場へと向かうと……
昨日まで仕事をしていた商店がもぬけの殻になっていた。
商店に掲げられていた店名すらも綺麗に撤去されていた。
ただ呆然と立ち尽くしていると、同じ様にこの店で働いていた同僚が続々と集まってきた。
皆自分と同じ様に、様変わりしてしまった店の様子に立ち尽くしている様子。
「何でこんな事に……」
ただただ店員だった者達が困惑していると、
「みんな、集まっているようね?」
「し、支部長!!一体これは……」
支部長と呼ばれた人物は集まっているみんなへニコッと笑いかけると、
「急にごめんなさいね。ちょっといろいろあったのよ。説明の前にあなた達に渡すものがあるの。名前を呼んだらこっちに来てちょうだい。まずはメイルン。」
「は、はい。」
名前を呼ばれた者は困惑しながらも、支部長から発せられる圧に逆らうことが出来ずにジャラジャラと音がする物が入っている布袋を受け取っていく。
そうして次々と手渡されていき、後は残り5人。
しかし……
「これで全員ね?」
まだ受け取っていない仲間がいるのにも関わらず、支部長はこれで全員と言い切った。
「ま、まだ貰ってませんが……」
受け取っていない5人は困惑しながら支部長にそう答えると
「何故ミラージュの間者に払わなきゃいけないの?」
と物凄く真面目な顔でそう答えていた。
「なっ!?」
まさかバレているとは思って居なかった5人は驚き目を見開いていた。
「バレてないとでも思ったの?エチゴヤが気がつかないわけないじゃない。ウチの情報収集能力を舐めないで欲しいわね。それじゃあみんなに何があったのか説明するわ。昨日我らがエチゴヤ商会の輸送部隊が襲撃を受けたわ。」
「なっ!?なんだって!?そんなバカな事をする奴がいるのですか!?」
天下のエチゴヤ商会の名はここミラージュでも有名だった。
初代勇者パーティーを支えた1人が創業者であり、何百年という長き日の中で食糧危機の際には自らの私財を投げ売り他国であるミラージュの為に動いてくれていた事もあった。
人々の笑顔の為にと様々な支援を長き日に渡って続けてくれているエチゴヤを襲撃するなんて、許すことは出来ない。
「いったい誰なのですか!!我らエチゴヤ商会を襲撃した奴は!!」
間者である5人もまさかエチゴヤ商会が襲撃を受けるとは思ってもいなく、支部長からの説明に驚いていた。
「その襲撃した犯人がね。ミラージュの兵隊さんなのよ。私達の物資を根こそぎ徴収していったらしいわ。」
従業員の視線が間者とバレた5人へと向くが……
「そ、そんなバカな!?そんな命令なんて出るはずが!!」
確かに5人は間者としてエチゴヤの情報を内部から集めてはいた。
いたのだが……
間者としては本来失格なのかも知れないが、5人はエチゴヤに不利になるような情報は国に一切漏らす事は無かった。
それはエチゴヤに対して感謝していたから。
ある者は家族が病に掛かったと判ればエチゴヤが無償で高価な薬を手配してくれたり、子が産まれれば育児に必要な物資一式をエチゴヤからプレゼントされたり……
家族に不幸があれば見舞金など、至れり尽くせりだった。
正直な所、間者として働かなければいけないことが辛く……
5人は心のどこかで罪悪感を感じていた。
「命令があったのかどうかなんて、そんなこと私達には判らないわ。ただ、ミラージュの兵隊さんに物資を徴集されたって事だけは事実なの。幸い死人は居なかったらしいけど怪我人はいるみたい。それでね、事態を重くみた代表はミラージュから完全撤退する事に決めたわ。」
「そ、そんな!?」
支部長からの衝撃的な報告に5人は驚きを隠せない。
「そ、それじゃあエチゴヤ商会ミラージュ支店は……」
「ええ、昨日をもって閉店ね。」
「我々はこれからどうしたら……」
あのエチゴヤに就職出来たので安泰だと、そう思っていたのに……
まさかこんな事になるとは……
「その袋の中には今回の迷惑料も入れてあるわ」
「こ、これは……」
中に入っていたのは多額のお金。
「各自一年分の額は入れてあるわ。」
「い、一年分も!?」
「だから言ったでしょ?迷惑料だって。本当ならまだまだ商売を続けたかったんだけどね。みんな、本当にごめんなさいね」
「ま、待ってください!!お金なんていりません!!他の支部で働くことは出来ないのですか!!」
「他の支部ね……ごめんなさい、それは……」
支部長が何かを伝えようとしたその時、
「まだ残っているのがいたぞ!!おい、お前ら!!ソイツを捕まえろ!!」
ミラージュの兵士がそう叫びながらこちらへと走ってきていた。
「時間ね。みんなもそのお金を奪われないように逃げた方がいいわよ?」
確かに……
エチゴヤを襲撃するくらいだ。
難癖をつけて没収しようとするかも知れない。
迷惑料を受け取った従業員達は慌ててその場から走って逃げていく。
「お前ら、逃げるな!!」
そう兵士が叫んでいる声を聞きながら
「あとは……これはあなた達に。」
支部長は自らのポケットから硬貨を取り出すと、5人に向けて硬貨をピンと弾いていく。
5人は慌てて硬貨を受け取る。
その硬貨は金色に輝いていた。
目を見開く5人。
「これは代表には内緒よ?それじゃあね。」
そう言うと支部長は小さい丸い玉に魔力をこめ、その場から姿を消すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます