第316話
「ち、父上、これは……?」
未だに椅子に拘束されたままのサイ。
『およっ?およよ?もうそんなタイミング??』
急に女性の声が部屋の中に響く。
「お久しぶりにございます、賢者様」
「なっ!?」
自分の父が発した言葉に唖然とするサイ。
『け、賢者様だって!?』
『そうだね~。時が経つのは早いねぇ……あんなに若かったブリット君が、気がつけばこんなオジサンになっているんだもん。あ~、やだやだ。時は残酷だねぇ。』
「まだまだ気持ちでは若いですがね。身体は正直ですよ。本当に困ったものですな。」
はははと笑う父と賢者と呼ばれた女性の声の主は仲良さげに会話を楽しんでいた。
『それで?まさかこんなにも早くエチゴヤが次代を決めるとは思わなかったんだけど?』
「賢者様にはまだ情報が伝わって無いようですが……どうやらうちの商隊がミラージュにちょっかいを出された様でしてな」
『……何だって?それは事実かい?』
先ほどまで明るそうな女性の声だったのだが、父が先ほどの件を伝えると姿は見えないのだが威圧を感じるほどのプレッシャーに襲われた。
「え、えぇ……シーカリオン支部を任せている者からの緊急連絡で我々も知ったばかりですが……荷を接収されたとか。」
父ですら声の主からの威圧により、冷や汗の様なものが出てきている。
『彼女が連絡するくらいだから事実なんだろうね。それにしても……あの国は元からバカだバカだとは思っていたけど、ここまで酷くなるとはね。ナナシと日野っちが危惧していた通りになるとは……どの世界でも同じ様な過ちを人間は繰り返すんだね。』
サイはただただ唖然とする事しか出来ない。
初代勇者と初代エチゴヤの名前が気軽に出てくる。
つまりこの声の主はかの有名な賢者様……
しかし、彼女が存在していたのは遥か昔。
何故この様に話せるのだろうか?
「賢者様、息子が混乱しているようなので説明しても?」
『あ~、ごめんごめん。それじゃあ、私が説明するよ~!ごほん……聞いて驚くが良い!賢者リオとは私の事だぁぁぁぁ!!』
言葉だけだが、ドヤァという雰囲気が伝わって来た。
「ま、まさか……本当にあなたがあの伝説の勇者パーティーの1人の……!!」
『アヒャヒャヒャ!!それそれ!その反応が見たかった!!ブリット君なんて酷かったんだよ~?父上に連れられて此処に初めて来たときなんて……そんな馬鹿な事があるわけ無いだの、父上は騙されて詐欺行為に気がついてないだの……お姉さん泣いちゃうかと思ったよ~』
父上がずっと苦笑いをしていた原因が判明。
賢者リオ様へ失礼な物言いをしてしまったみたいだ。
『まぁ無駄話もここまでにしてっと……とりあえず、やることやっちゃうかぁ~。ちょっとそこで女神マリオン様へ向けて祈りを捧げて貰えるかな~?』
何故女神マリオン様へと急に祈るんだ?と疑問に思いながらも、サイは言われた通りに女神マリオン様へと祈りを捧げる。
賢者リオ様と未だに話せるのは何故なんだという疑問については聞ける雰囲気では無かった。
『女神マリオン様の巫女たるリオがサイを次期当主として正式に承認する』
賢者リオがサイに向けてそう伝えると、サイの頭の中に声が響いた。
『無限収納袋召喚を獲得』
「こ、これは……」
「声が聞こえただろう?」
「は、はい……これは一体……」
『これはだねぇ……初代エチゴヤであるナナシが持っていた無限収納袋を召喚出来るようになるスキルだよ~』
初代様と同じと聞いてサイは更に驚いた。
『ほい、これにて登録完了~!これで君は正式にエチゴヤ商会の次期後継者となった訳だ。おめでとう!』
「あ、ありがとうございます?」
次々と投げ込まれる情報の爆弾に圧倒されっぱなしだった。
「それじゃあ一度召喚してみなさい。」
父にそう促されたので、サイは試してみる事に。
「無限収納袋召喚!」
サイがそう唱えると体内の魔力をごっそりと持っていかれた感覚に襲われた。
そして現れたのは、
「麻布……?」
少し使い込まれた様な麻布で出来た袋が目の前に現れたのだった。
『お~!!今度はナナシと同じ収納袋じゃん!!』
「何ですと!?サイ、やったな!!」
「は、はぁ……」
初代様と同じと言われても……
「この無限収納袋は人によって袋の形や形状が様々なのだ。」
『そだよ~。ナナシの無限収納があまりにも有名になりすぎてさぁ……次代へこのまま引き継ぐ形だと狙われて危ないよねって話になったんだ~。だから、人によって袋の素材や形、大きさなどはその人の本質によって形状が変化する事になったんだよね~。それに元々は女神サイオン様がナナシへと与えた無限収納袋だったけど、その権限が魔王討伐後にマリオン様へと移譲されたんだよぉ。それでその時に、神具というべき状態からスキルという形へと変化したんだよねぇ~。』
このスキルはエチゴヤの代表と正式な跡取りのみに付与される。
跡取りを決める前に代表が亡くなった場合はマリオン様が独断で次期当主を決める。
正式な跡取りが亡くなった場合は代表が次期当主を選ぶか、マリオン様が決める事になっていた。
万が一エチゴヤの血族が全て失われた場合、このスキルはこの世から消え去る事になっている。
『んじゃスキルの説明するよ~!この無限収納袋には生き物以外のありとあらゆる物が収納可能なんだ~。やろうと思えばこの世の品物全てを収納する事だって可能だよ?まぁそんな事を考えた時点でマリオン様が権限を剥奪して天罰を落とすと思うけどね~。ちなみに……収納した品物を入れたままこのスキルを解除すると袋に入れた品物は二度と取り出せないから気をつけてね!それがこのスキルの制約。だからスキルを解除する前に必ず荷を取り出すのを忘れないようにね~。』
「わ、わかりました。」
サイは恐る恐る無限収納袋の中を覗いてみた。
袋の中は漆黒の闇。
底が見えない。
『それにしても本当に困ったねぇ……エチゴヤとしてはどう動く予定~?』
「現在、ミラージュからの完全撤退を指示した所です。」
『そかぁ、仕方ないよねぇ。んじゃうちもそれを軸に動き始めるよ~。』
「彼に負担を掛けてしまうのは申し訳無いのですがね……」
『そこは気にしなくていいよ~。むしろ彼は1人の方が精神的にも助かるみたいだから、こっちの事は私に任せて。それじゃあお互いに忙しくなるからここらで解散としようか~』
「わかりました。賢者様、何から何まで本当にありがとうございます。」
『いいの、いいの~。それよりも命は大事にだよ?んじゃいくよ~。ラグナ君の事は私がしっかりと見ておくから安心しなよ~』
「え、ラグナ君!?」
最後に賢者様から驚くべき名前を聞かされた瞬間、眩い光に包まれたのだった。
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