第321話

「た、大変です、聖女様!!」


聖女と呼ばれた女性の元へと駆け込む兵士。


「そんなに慌てて、どうかしましたか?」


慌てて駆け込んだ兵士にニッコリと笑う聖女。


その姿に兵士は一瞬見とれてしまい、顔を赤く染めてしまったのだが……


「遠征に行っていた部隊の一つの様子が変なのです。女神様より、天の恵みを頂いたと。」


「……詳しくお聞きしても?」


聖女は真剣な表情で尋ねる。


そんな聖女に兵士は、先ほど見聞きした事を事細かに伝えるのだった。


……


「……そんな事が……わかりました、ではその者達の所へすぐに向かいましょう」


「はっ!!」


「……女神様の恵みを賜るなんて羨ましい……何故私には無いのでしょうか?」


1人残された部屋でニッコリと笑いながら立ち上がる聖女。


その表情は誰が見ても作り物の笑顔だった。


……

……


兵士達が集まっている場所へと辿り着く。


すると、そこには異様な光景が広がっていた。


「女神様に仇なす存在に神罰を!!」


「「神罰を!!」」


剣を掲げ、足を揃えて行進する一団が。


「……これは……」


兵士達が掲げている剣には、べっとりと血糊が付着していた。


行進する一団が聖女が来たことに気がつく。



「女神様の使徒たる聖女様へ敬礼!!そして祈りを捧げよ!!」


「「「はっ!!」」」


兵士達は一斉に片膝をつき、胸の前で両手を組むと頭を垂れて祈りを捧げ始める。


「皆、何があったのですか?一体どうしたというのです……?」


「はっ!我々が餓えに苦しんでいた所、女神様からのお声が届き、天の恵みを賜ったのです!」


「なんとお声が……それで、天の恵みとはどのようなものだったのでしょう?」


「はっ!それは、黄金に輝くスープでした!我々は女神様に感謝を捧げ、心の中で祈りながらそれを飲み干しました!!」


兵士からそう告げられた聖女はニッコリと笑う笑顔を崩してしまいそうになる。


『私は女神様のお声を聞いたこともなければ、何かを授かった事さえ無いのに……』


でもその前に、違和感が。


『これだけ女神様やこの国に尽くしてきた私ですら、女神様のお声を聞いたことが無いというのに……その声の主が何故この者らは女神様だと判断したのでしょうか?それに……』


「女神様からの恵みを口にした後、貴方達に変化はありましたか?」


「はっ!女神様への信仰がより強くなり、もやもやとしていた思考がスッキリとしました!それに、あれだけ空腹を感じていたというのに今では全く感じることがありません!」


空腹を感じない。


果たしてそれは本当に女神様からの恵みだったのだろうか?


「……では皆が掲げている剣に付いている血痕は?」


「はっ!!我らの仲間に女神様を裏切る行動をしていた者がおりましたので、その者は自ら自害を選択し女神様へ血と己の肉体を捧げ贖罪としたのですが……我らがここへ戻る最中に立ち寄った村にて、女神様を裏切るような行動をしていた為、贖罪の意味を込めて村人の遺体と血を供物として女神様へと捧げてまいりました!」


「……!?」


どこか誇らしげに、さも当然の行いの様に振る舞う兵士達。


「……そうですか。」


聖女は手を後ろで組むと、後ろで控える兵士達に向かってとあるハンドサインを送る。


「はぁぁぁぁ!!」


兵士達は槍を構えると、帰還した兵士達へと向かって突き刺す。


「な、何をするんだ!!」


腹を槍で貫かれているというのに平然と会話をしている。


「やはり……この者達は女神様の名を語る悪魔によって操られております!絶対に許すことは出来ません。直ちに殲滅するのです!!」


聖女がそう声を張り上げると、


「「はっ!!」」


兵士達は一斉に返事をし、行動を開始するのだった。


黄金のスープを飲んだ兵士達は足や手を切られても平然と反撃をしてくる。


首を刎るとようやく動きが止まる。


人数差もあり、そう時間が掛かることなく討伐に成功するのだった。


すると、目の前で悍ましい光景が広がる。


兵士だった者らの血肉が光り輝くと一カ所へと集まっていく。


あまりにも酷い光景に口元を押さえる兵士もいた。



そして一カ所に集まった血肉はみるみると地面へと吸い込まれていき、その場に残ったのは兵士達が着ていた服や武器だけなのだった。


「……。皆様、見ての通りこの様な結果を引き起こす存在、我々が信仰する女神様なハズがありません!」


「た、確かに……」


兵士達は、自分達が崇めている存在ではなく偽物が現れた事で、困惑している様子だった。


そんな兵士達を安心させるために動く聖女。


胸元で手を組み、目を瞑り、祈る様にして言葉を紡ぐ。


聖女の身体から発せられる聖なるオーラの様なモノに兵士達は魅了されていく。


そして聖女は言葉を続ける。


「女神様、傷ついた彼らに慈悲をお与えください。」


聖女がそう呟くと、再び辺り一帯に光が満ち溢れていく。


「うぉぉ!!」


「女神様!!」


「聖女様ぁぁぁ!!」


聖女が祈りを終えると同時に、負傷していた兵士達の傷が塞がっていく。


「皆様、私達が信じる女神様の存在をどうかお間違えにならないで下さい。」


「「はっ!!」」


兵士達は一斉に片膝をつき、胸の前で両手を組むと、先ほど聖女が兵士達にした様に祈りを捧げ始めるのだった。

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