第307話

「えっと……これはどうしたら?」


私、今現在、両腕、両足、身体に精霊樹の細い根に巻き付かれております。


流石に助けてもらった手前、振り解く訳にも……


それに変に力を入れたら簡単に千切れてしまいそうで、動くに動けない。


「ほらほら、困ってるんですからそんなに巻き付いたら駄目ですよ?せめて片腕にしてあげませんと。」


ルテリオが精霊樹の根に触りながらそう優しく語りかけるとシュルシュルっと巻き付かれていた根が離れていき、左腕だけに巻き付いている状態へと変化した。


「えっと……」


結局は左腕に巻き付かれているから動けないんだが……


ラグナが戸惑っていると、左腕に巻き付いている精霊樹の根の先端がツンツンと左腕を突っついてくる。


「ん?どうしたの?」


精霊樹の根を撫でてみるが……


やっぱり俺には精霊樹の感情を感じ取る事なんて出来なかった。


ルテリオがラグナに巻き付いている根に手を伸ばすと、優しく撫でながらふむふむと頷いていた。



「どうやらご褒美に魔力が欲しいみたい。でもだめですよ?まだ怪我も良くなってないし、魔力も消耗したままなんだから。我慢して下さい。」


ルテリオが精霊樹の根を撫でながらそう伝えると、精霊樹の根は明らかにしょんぼりしたような雰囲気を漂わせていた。


流石に助けてもらったのに、何もしないのは……と思ったラグナは右手を広げると魔力を圧縮する。


「ちょっとなら……どうぞ、受け取って下さい。」


ラグナが精霊樹の根にそう伝えると、周囲にある根がわっさわっさと動いてまるで踊っているような雰囲気に。


そして、一本の根がラグナの目の前にくるとぺこりとお辞儀をしてからラグナが練った魔力に触れる。


ブルブルブル!


ラグナの魔力を取り込んだ直後、精霊樹の根が激しく震えた。


「だ、大丈夫なんですか?」


現在いる空間も小刻みに振動し始めたので、驚いたラグナはルテリオに慌てて尋ねる。


「あまりにも濃密な魔力にちょっとびっくりしたみたい。でも、ほら。大丈夫そうよ?」


ルテリオが指さす方向をみると……


確かにあれなら大丈夫そう。


根同士が絡み合って、ルンルンに踊っているような不思議な光景が繰り広げられていた。


ラグナがその光景を眺めていると、腕に優しく巻き付いている根が再びツンツンと呼びかけてきた。


「今度はどうしたの?」


するとラグナの口をツンツンとツツいてくる。


「口?あけるの?」


ラグナの問いに頷く根。


ラグナは精霊樹に言われた通りに口をあけると精霊樹の根の先端から樹液の様な物が出てくるのが見えた。


そしてその樹液はラグナの口の中へ。


ラグナは口の中へと落ちてきた樹液?を恐る恐る舐めてみると、


「甘い!!それに……」


さっきまで身体中が痛かったのに……


「痛みが引いていく……」


腕に巻かれていた包帯をゆっくりと解いていくと、


「傷が何もない……?」


すり傷も何もない。


驚いたラグナは他の場所に巻かれていた包帯も解いていくが……


「これは……」


身体中のどこを探しても傷跡なんてモノは何もなかった。


ラグナが驚きながら自身の身体を見回している光景を見たルテリオはふふっと笑いながら真実を話してくれた。


「傷跡が消えたのは、精霊樹の雫の効果ですよ。」


「精霊樹の雫?何ですか、それは?」


「精霊樹の雫というのは、先ほど精霊樹の根から産み出された樹液の様な物です。簡単にいうと、精霊樹の力が凝縮されたものって感じですね。精霊樹の雫の効果は怪我や病気の治癒などになります。」


「だから傷が……ありがとう!」


ラグナは精霊樹の根を優しく撫でながら感謝を伝える。


「君のおかげで身体も楽になったし……もうちょっとあげるね!」


ラグナはそう言うと残り少ない魔力をかき集めて凝縮すると、精霊樹へとプレゼントすることにした。


「あんまり多くないけど、どうぞ!」


ラグナからの再びの魔力のプレゼントに喜んだ精霊樹は、ラグナの身体に根をスリスリしながら魔力を受け取る。


ブルブルブルブルブルブル!


再び精霊樹全体が震える。


震えが収まった直後、ラグナの身体に精霊樹の根が巻きつく。


そして口の中へ半強制的に根が突っ込まれた。


「フガ!?」


あまりに突然の行動に驚くラグナとルテリオ。


「うぐっ!?」


口に突っ込まれた根から甘い液体が注がれる。


バタバタと暴れるラグナ。


「だめ!!それ以上雫を飲ませたら、人では無くなってしまうのよ!!」


ルテリオが慌てて精霊樹を止めに入る。


「ん~!!!」


ラグナはあまりにも苦しい為、ジタバタと暴れながら口に入っている根を噛んで止めようとするが止まらない。


「本当に止めなさい!!その子はあの方の眷属なのよ!!お仕置きだけではすまなくなるわよ!!」


ルテリオの言葉にビクッと反応した精霊樹の根の動きが止まる。


そしてするするっと口の中に突っ込まれた根が抜けていく。


「ぷはぁ!まじで死ぬかと思った……うぷっ……」


ようやく根の拘束が解けたラグナなのだった。

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