第306話
「うっ……ここは……?」
ゆっくり身体を起こす。
「いっつっ……」
手や足に包帯が巻かれている。
ラグナは周囲を見渡すと、木のいい匂いが広がる部屋?のベッドに寝かされていたみたいだ。
「本当にここはどこだろう……?」
部屋には窓もない。
むしろ部屋の出入り口にあるべき扉すらない。
部屋の天井がまるで優しい日の光のように発光している。
「うわっ!?」
急にベッドの横の壁から顔が現れた。
「起きた!!」
「目を覚ました!!」
「美味しいご飯の人、気がついたよ!!」
壁から顔を出してきた正体は、アルテリオンの精霊達だった。
「ご飯ちょーだーい!!」
「はやく~!!」
俺の側に精霊達が群がって来た。
目が覚めてすぐにご飯って言われても……
身体のあちこちが痛いし、所々ヒリヒリしている。
「こら!!怪我人に無理させちゃだめでしょ!!」
「うおっ!?」
怒鳴る声と共に急に自分の股付近から小さい女性の頭部が出て来た事に驚いたラグナは、そのままベッドから落ちてしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
「いてて……流石にそんな所から急に頭が出て来たらビックリしますって……」
「ごめんなさい。悪気は無かったの。」
「ルテリオがイジメた~!」
「人間モドキを驚かせた~!!」
「いけないんだ~!!」
ルテリオがやらかしてしまったミスを小さい精霊達が指摘しながら騒ぎ立てる。
「き、気にしてないですから大丈夫ですよ?」
ルテリオの様子に違和感を感じたラグナは慌ててフォローするが……
「い~けないんだ、いけないんだ~」
と精霊達は責め立てる。
せっかくラグナが気にしてないとフォローしたのにも関わらず、全てを無駄にする精霊達へ。
下を向きながらプルプルと震えているルテリオは我慢の限界を迎えた。
「元はと言えばあなた達が騒いだのがいけないんでしょ!!いい加減にしなさい!!」
「怒ったぁ~!!」
「逃げろ~」
小さい精霊達はルテリオが怒ったのを察してすぐに散らばりながら逃げようとしたが……
「逃がさないわよ!!」
「むぎゅ!?」
「逃げれない!?」
ルテリオが発動させた薄い膜の様なものに精霊達は包まれて、捕獲された。
そして……
「反省しない悪い子にはお仕置きです!!」
と精霊達に怒鳴ると精霊達を包んでいる膜に対して何かを発動した。
「「「アバババババババーーーーー!!!!!」」」
精霊達の悲鳴が響き渡る。
「あれは大丈夫なんですか……?」
まるで感電したかのような雰囲気。
精霊達の髪型は爆発しており、プスプスと焦げたような音が聞こえる。
「全く……懲りずにまたイタズラばかりするんだから……」
ルテリオは呆れたように呟く。
「それよりもここは……?」
「ここは精霊樹の根の中に作られた空間です。あなたが怪我を負って意識を失った後……あなたの魔力を気に入っていた精霊樹があの場まで根を伸ばして、意識が無いあなたを根の中に取り込んでここまで連れてきたんです。」
ルテリオの話に驚きしか無いラグナ。
精霊樹の根に取り込まれたとか……
「あっ!?僕が戦っていたバケモノはどうなったかわかりますか……?」
あれだけの威力だったんだ。
あいつも無事では無いと思いたい。
「あのバケモノですか?再生を始めていたバケモノは……精霊樹が根を鞭のようにしならせて、かなり遠くの方まで空高く打ち上げてしまいましたよ?」
「マジですか……」
あわよくばそのまま二度と戻って来ないと思いたい。
「そういえば僕の魔力を気に入ったって言われても、精霊樹にあげた事なんてありませんよね?」
精霊達やルテリオ様にはあげたけど、初めて寄った際に直接精霊樹に魔力をあげた記憶はない。
「あ~……精霊達が精霊樹にもの凄く自慢してまして……あなたの魔力は甘くて美味しいと。精霊樹だけがあなたの魔力を貰えずにしょんぼりとしてしまったんです。それで私が貰っていたあなたの魔力を精霊樹に分けた時に、どうやら間接的に貰ったとはいえ一瞬であなたの魔力の虜になってしまったらしいのです。ガッデスからアルテリオンへと再び戻ってきた際に魔力を貰えると思っていたみたいなのですが……精霊達と私は貰ったのになんで自分は貰えないんだとイジケてしまいました。」
ルテリオの説明にただただ驚きしかない。
「えっと……精霊樹にも意志ってあるんですか?」
精霊樹とはいえ、見た目がもの凄く大きな木だからそんなものがあるとは思ってもいなかった。
「ありますよ。もっとも、私や精霊達の様に話をしたりなどは出来ませんが。人であるあなたは感じ取る事は難しいでしょうが、私や精霊達にはなんとなく感じ取る事が出来るんです。」
「へ~。」
ラグナがルテリオの話に関心していると、
「ん?」
壁からシュルシュルっと細い根が生えてきて、ラグナの腕に巻き付いた。
「あら、この子ったら甘えちゃって。」
精霊樹がラグナの腕に巻き付いたのを見たルテリオはうふふと笑いながら、その様子を優しい表情で眺めるのだった。
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