第304話

「ふぅ……とりあえずこれで時間は稼げたかな。」


ミラージュの兵士達の物資に放火したラグナは森の奥へと待避したあと、木の上に登って休んでいた。


「さてと……これからどうしようか……」


森の奥では兵士達が騒いでいる声が聞こえる。


物資を燃やしたからそのまま諦めてくれればいいんだけど……


「ん?」


騒いでいる声の中に悲鳴が聞こえた気がする。


ラグナは木の上から飛び降りるとカモフラージュローブを羽織って兵士達の下へと向かったのだが……


「た、隊長ぉぉぉー!!」


隊長と呼ばれた男が空を飛ぶ何かに捕まっており……


「た、助け!?」


グチャッ


……


生々しい音と共に頭と身体が離れたのだった……


『うっ……』


何度見ても慣れない光景に思わず口元を手で押さえるラグナ。


「アひゃヒャひゃ!!モろイもロすギる!!」


隊長と呼ばれた人間を引き裂いたバケモノは大声で笑いながらゆっくりと空から降りてきた。


バケモノは手に持っていた頭をひょいっと近くにいる兵士に投げる。


「ひっ……!」


突然投げられた頭を兵士は受け取ってしまった。


手にはヌルリと人間の血が付き、ヌチャっとした肉の感触が伝わってくる。


「ぎゃあああああ!!!」


恐怖に耐えきれなくなったのか、兵士は叫び声を上げながら頭を放り投げてしまう。


「酷イこトをすルナぁ。仲間ノ頭ダろ?チャンと拾っテおけヨォ。」


素顔を仮面で隠しているバケモノの口元だけがニヤリとしているのが見えた。


そしてもう片方に持っていた隊長だった物の身体を……


物凄い速度で兵士達に向かって投げつけたのだった。


「がぁぁぁぁぁぁ!!」


隊長だった身体は盾を構えていた兵士にヒット。


兵士は勢いそのまま吹き飛ばされてしまった。



「盾ナンかデ防ぐカラ肉ガ飛ビ散っタジャないか~。ちゃンと受ケ止めてアゲないト。」


バケモノは兵士達をバカにしたような笑い声をあげていた。


「さァて、次ハお前ダ。」


ふわりと空を飛ぶと先ほど吹き飛ばされてしまった兵士の下へと着地するバケモノ。


兵士達は恐怖のあまり、動けずにいた。


倒れて意識が無い兵士をバケモノが持ち上げると、口元に手を当てて何かを意識が無い兵士に向かって流し込んでいた。


手足があらぬ方向に動き、時折ゴキュゴキュと只ならぬ音が森の中に響く。


「アガガガガァ」


目はこれでもかというほど見開き、異常なほどガタガタと震える兵士だったモノ。


額からは肉を突き破り角の様なモノが生え、背中からもバケモノと同じような歪な羽が生え始めていた。


「クヒヒッ!いいゾ、その調子だ。」


バケモノが満足そうな笑みを浮かべている。


「グルルルル……」


完全に理性を失っている様子の兵士はゆっくりと立ち上がると、近くにあった木に思い切り腕を叩きつける。


メキィ……


叩きつけられた場所の木がへし折れており、兵士の腕力の異常さがわかる。


「グラァァァァ!!」


兵士だったモノはへし折った木を掴むとそのままかぶりついていた。


「おィオぃ。ソンな物ヲ食べテドウする?美味そウな肉ナラ目ノ前にイるダろゥ?」


木にかぶりついていたバケモノの手が止まる。


「グラァ?」


ゆっくりと顔が動き、その視線は仲間だったはずの兵士の方へ。


「美味そウな肉ダろゥ?、食ベ頃だゼぇ?」


「グアァァ!!」


兵士だったバケモノは嬉々として兵士達の下へ。


兵士達は何とかして逃げようとするものの、何人かは腰が抜けて動こうにも動けない。


1人の兵士が兵士だったバケモノに捕まってしまった。


「ぐっ……レッド……俺だ!!ラジャーだ!!覚えて無いのか!!」


兵士達の中でたった1人だけ剣を構えていた兵士がバケモノに向かってそう叫ぶと、今にも捕まえた兵士に対して襲い掛かろうとしていた動きがピタッと止まる。


そして、捕まっていた兵士を地面に放り投げるとグルンと顔を振り向き剣を構えている兵士の方へ。


「レッド……ラジャー……ラジャー……ラジャー……!!」


バケモノは兵士の名前を呼びながら、ゆっくりと兵士に向かって歩いていく。


「あぁ……そうだ!!思い出せ!!お前はレッド!!俺達の仲間だ!!」


「ラジャー……ラジャー……」


バケモノはゆっくりとした動きで兵士の下へ。


「そうだ!!お前の義理の兄だ!!この任務が終わったら俺の妹と結婚するんだろ!!」


「レッド……結婚……サミィ……ラジャー……兄……」


ゆっくりとした動きで近づくバケモノ。


目からは涙が零れ始めていた。


「思い出してくれたか!そうだ!ラジャーだ!!」


ラジャーは剣を投げ捨てると手を広げてバケモノを抱きしめる。


バケモノもそれに応じて手を広げる。


そして……


「ラジャー……兄……美味そうな肉ダ」


「えっ……?」


抱擁した相手の首にガブリとバケモノは噛み付くのだった。

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