第293話

本当にお待たせしました。

まさかインフルエンザに感染するとは……



エチゴヤの輸送隊と別れてから3日目。


王都マリンルーまでは残り1日の距離。


あの襲撃以来一度も襲われる事なく、シーカリオンへと向かっていた。


流石にシーカリオンの領土内なので、ミラージュの兵士を警戒する必要が無くなったのがデカい。


そのおかげで夜はグッスリと眠れる様になった。


魔道具での高速移動は止めて身体強化を使いながら走り続けるラグナ。


『あー……テス……』


「ん?」


なんか一瞬声が聞こえた気がするが……


更に走っていると


『……テス……テス……こちらあなたの本命……応答願います。』


近付くにつれて、はっきりと声が聞こえてきた。


「えぇ……何これ?」


こんな事をやらかす人物は、あの人しかいない。


確実にあの人で間違いない。


『テス……テス……こちらあなたの本命、愛しのリオ。応答願います。』


もう名前まで自分で言っちゃってるし。


どうしよう……


無視しても良いけど……


そもそもどうやって返事をしたらいいのかも判らないし。


『……ありゃ?本当に聞こえてない!?』


そのまま無視をして王都へと向かっていると、何やら本気で慌て始めていた。


「あぁ……もう面倒臭いな!!」


遂に痺れを切らしたラグナは立ち止まると、そうボヤいてしまう。


『面倒臭いって何よ!?聞こえてるんじゃない!!アタシのことは遊びだったのね!!』


「違うわ!どうやって返事をしたらいいのか判らなくて、こっちだって困ってた所だよ!」


思わずそう叫んでしまうラグナ。


すると……


『今までだってこうやって話をしてたじゃない!!』


「確かにそうだけど……まだ1日の距離が離れてるのに、声が届くとは思わないじゃん!」


『ふふん!そこはもう。私、天才ですから。』


「……それで、何か用?」


ドヤ顔が目に浮かぶ様な声音で話すリオに対して、少しイラッとした気分になる。


『うーん。特に用は無いかな?』


「無いのかい!!」


ついツッコミを入れてしまった。


『いや~、正直な所どこまで声が届くのか判らなくてさぁ。ほら、ヒノハバラの時は専用の魔道具があったからこそ、 長距離通信やら転移みたいな無茶が出来たけど。』


「なるほど。」



『だからとりあえず、動作確認してたらラグナ君を感知出来てさぁ……それなのにシカトって酷くない……?』


シクシクと泣き真似の様な声がするが、話をぶったぎる事にした。


「リオさん、エチゴヤ以外の輸送隊……壊滅してました。」


『……ほぇ?……壊滅?まじ?』


「マジです。」


『えっ?えっ?どういうこと?何が起きたの?』


困惑するリオに対して、自身が出会ってしまったバケモノについて話をするのだった。


『あ~……そういえば、あの時魔族に2人連れ去られてたっけ。忘れてたよ。ん~、声が聞こえてるって事はいけそうだなぁ。ラグナ君、まだ魔力に余裕ある?』


「魔力?魔力ならまだ1割も使ってませんけど。」


『んじゃ後で魔力供給よろしく~。ほいっ!!私の下までおいで、愛しの坊や!!』


「気持ち悪!!」


思わずラグナがそう突っ込むと、地面が発光し魔法陣が浮かび上がった。


この魔法陣には見覚えがある。


あの時、学園から脱出する際にも使われた魔法。


更に光は増していき……


ラグナはあまりにも眩しいので目を閉じるのだった。


『終点、終点、愛しのリオ~愛しのリオの目の前に到着です。お荷物をお忘れにならないように、ご注意下さい。』


変な放送については気にしないことにして、


「本当に魔法に関してだけは、尊敬しますよ。」


ゆっくりと目を開けて、呆れた表情を浮かべるラグナ。


リオが封じられている魔道具が目の前に見えたのだった。


『やだなぁ、もう。そんなにも私の裸体をマジマジと見てくるなんてぇ。まぁ、仕方ないか。魅力的なこのボディだものね?』


「はぁ……」


何だかんだあって数週間ぶりのこの感じ。


ちょっとこのノリが懐かしいと思ってしまった自分にため息が出る。


『私の裸体を見てため息って酷くない!?』


「そうじゃないですよ。ちょっと自分の考えにため息を吐いただけです。それで魔力はどうすればいいんですか?」


『ん~ちょい待ち。そっちに行く。』


「行く?行くって……」


行くも何も装置の中じゃとラグナが戸惑っていると、装置の裏側から人影が……


「お帰り、ラグナ。」


装置の裏側から現れた人物?はラグナの側まで歩いてくると、そのままギュッと抱きついてきた。


「ただいま、リオさん。なんか同じ顔が目の前に2つあるから、ちょっと違和感が凄いけどね。」


ラグナに抱きついている正体。


それはリオが外で活動するために研究中のゴーレム。


見た目は本当に本人にそっくり。


肌の質感も言われなければ気がつけないほど。


「初めて見た時よりも、より人間に近付いてますね……」


「でしょでしょ。でもね~、まだまだ改良点はいっぱいあるんだよ。まずは稼働時間の問題と、本体である私から操作出来る距離。あとは触覚と視覚はだいぶ再現出来てるけど、嗅覚とか味覚も欲しいし……でも先ずは一番の問題がアレだね。ラグナ君や、ちょっと私に抱きついて持ち上げてくれないかな?」


「はぁ……わかりました。」



拒否権は無さそうなのでリオの要望に応えて、その身体を抱き上げようとするも……


「めっちゃ重たい!!なんじゃこら!!」


身体強化を使って何とか持ち上げる事が出来たが


……想像以上に重い。


「女の子に重たいってヒドい!!」


プンスカと怒るリオだが……


「いや……だって……これは流石に無理でしょう。」


「仕方ないじゃん!!稼働時間を増やすにはその分魔力をいっぱい蓄積しなきゃいけないんだもん。重量は後回しになってるの!!生身はこんな重く無いからね!?」


「そんなの見れば判ってますよ!!」


「見ればって……もぅ、エッチなんだからぁ!!」


ニヤニヤしながらリオ型ゴーレムがツンツンしてくる。


「あぁ、もう!!それよりも、真面目な話しますよ!!」


「ちぇっ。ラグナ君のいけず~。」


「いけずで結構です。それよりも……」


「話の前に魔力供給してもらってもいい?実は結構ギリギリで……」


「あぁ、そうですね。判りました。それでどうやって補給すれば……?」


ラグナがそう言うとリオ型のゴーレムが手を広げて構えている。


「……えっと、まさかとは思うけど、抱きつけと?」


「だってそれが一番効率がいいんだもん。」


「いや、だからって……」


「大丈夫、大丈夫。ほら、早く。抱きついたら魔力を練ってくれたら、後はこっちで処理するから。」


渋々といった様子でリオ型ゴーレムに抱きつくラグナ。


そして渋々魔力を練っていくと……


「ふぁっ……んっ……ちょっ……ちょいストーップ!!」


魔力供給を始めると、何故かほんの少しだけ……艶かしい声を上げ始めるリオ型ゴーレム。


「ちょっ!変な声出さないでくださいよ!」


「ち、違うってば!魔力が多すぎるし濃密過ぎるんだって!!もうちょっと優しく流しなさい!!」


リオの艶やかな声にドキッとしたラグナだった。

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