第286話

ドワーフ達に対するアルコール中毒説については気にしないことにした。



代々そういう生活を続けているのだから。


「それにしてもミラージュが攻めてこなくて良かったわい。」


確かに国中があんな状態では簡単に制圧されていた気がする。


ラグナは攻めるという言葉を聞いて、とある事を思い出すとガッデス王にあの件について話すことにした。


「ここに来る道の途中でミラージュの兵士達が話をしているのをこっそり聞いていたのですが……ミラージュはアルテリオンとガッデスの街道を完全封鎖し、食糧難に陥らせる計画の様です。」


「なんじゃと!?そんな事をされては酒が作れなくなるではないか!!」


「酒が作れねぇだと!?絶対に許せねぇ!!」


2人の反応を見て、やっぱり食料よりも酒なのかよとツッコミたい気持ちでいっぱいになったラグナだったが、グッと我慢して話を続ける。


「しかし、街道を完全封鎖されるとなると本格的に食料も厳しくなる。山の恵みだけではどうにもならんぞ?」


「川魚もあてに出来ん。あまり取れないし、あの時と同様に川に毒を流されては終わりじゃ。」


川に毒……?


「あぁ。だいたい50年前くらいの話だ。ミラージュの奴らは川に毒を流した事がある。そのせいで川沿いに住んでいたドワーフ達が何人も死んだ。」


悔しい表情でルヴァンさんはそう語るのだった。


「えっ……川沿いに村があったんですか?」


ここに来るまでに村なんて一つも見なかった気が……


「50年前まではここ王都以外にも村々があり、数多くの住人が住んでいたのだ。」


「ミラージュとの最前線はこの王都じゃからな。山の反対側にはいろいろな村があったんじゃが……」


ミラージュの兵士はドワーフ達の大事な水源である川の上流に忍び込むと遅効性の毒を大量に持ち込み、そのまま自分の身体諸共川底へと沈んだらしい。


川に毒が流れているとは知らないドワーフ達は普段と変わらぬ生活をし、川魚を釣り上げて食べたり水を飲んだりしていた。


しばらくして異変に気が付く。


川の上流より死んだ魚が次々と流れてくる。


そして小さな子供やお年寄りが次々と謎の腹痛や吐き気に襲われる。


何が起きたんだと混乱しているドワーフ達だったが、1人また1人と同様の症状に襲われる。


その頃には小さな子供達やお年寄り達は意識を失い全身が痙攣しており、中にはそのまま息を引き取る者もいた。


ドワーフ達は原因が分からず、とにかく近くの村に助けを求めに行ったが……


すでに同じ様な症状の者達で溢れていた。


その様な状況下でとあるドワーフが自身にも症状が現れていたが決死の覚悟で王都へと向かい、村々の惨状を伝えた後そのまま息を引き取った。


その頃、王都でも同様の症状が現れている者がいた。


「何が起きているんだ!!」


次々と同様の症状に襲われる患者が医者の元へと運び込まれる。


「今日食べた物は?」


「さ、酒とツマミで川魚を……」


「安く売ってたから川魚を焼いて……」


「飯屋で川魚の鍋をツマミに酒を……」


王都で同様の症状が現れた者達の共通点。


それは今日釣れたばかりの川魚を食べた者達。


医者は慌てて王宮へと報告に向かうのだった。


その当時まだ王子だったルヴェイドと弟であるルヴァンは共に1日中鍛冶場に籠もって作業をしていた。


その為まだ食事をしていなかったが、それが2人の命を救った。


2人の両親である当時の王と王妃は献上されたばかりの新鮮な川魚を毒入りだとは知らずに食べてしまい……


医者が報告に来た時には既に時遅し。


運び込まれた患者と同様の症状が表れており、帰らぬ人となってしまった。



そんな時、兵士が慌てた表情をしながら報告に来た。


周囲の村々で人がバタバタと倒れていると。


ルヴェイドとルヴァンは両親の急死という件について混乱しながらも、同様の症状で苦しんでいる国民が多発している報告を受けると怒りや悲しみを堪え、すぐに川魚の廃棄と治療法の確立と被害者や無事な者達の救出を命じた。


それから数日という時が経過しても治療方法は見付からなかった。


しかし原因は判明した。


川魚を口にした者。


それか川の水を飲用した者だけにこの症状が現れていた事を。


バタバタと息を引き取る民をただ見ている事しか出来なかった王子の2人だったが……


川の上流を調べていた兵士達からの報告にルヴェイドとルヴァンは激怒する。


ドワーフ達が生活用水として使っている川の上流に、まるで祈りを捧げているような状態で川底に沈んでいる人族の姿が見えると。


そして川の上流の周辺には水を飲んだと思われる動物の遺体が大量に転がっていた。


この事件の原因かもしれない人族の遺体を引き上げようにも水が汚染されている可能性がある為、潜ることも出来ないとの報告だった。


試しに動物を捕獲し、ロープを結びつけ可哀想ではあるが川に沈む遺体の近くに放り投げその後引き上げて体調の変化を見守る。


1日見守り体調の変化をよく観察し、異常が無いことを確認。


そして川へと遺体を引き揚げを開始する。


その引き揚げ作業の中心人物として川に入っていったのは、第2王子のルヴァンだった。


「俺なら大丈夫だ。こいつらだけに命を賭けさせる訳にはいかない。」


兄であるルヴェイドは自分が行くと言い出すが、


「兄者はこれから国を支えねばならん!!兄者が命を賭けるのはここじゃねぇ!!国民のこれからに命を賭けるんだ!!だから……だからこそ、ここは俺に任せてくれ!!」


そう言い残すと、ルヴァンは仲間と共に川へ飛び込んだ。


「くそっ!頼むから無事でいてくれ!!」


兄の悲痛な叫び声を聞きながら、ルヴァンは自分の身を犠牲にしてでも必ずや川を元の姿に戻してみせるという意気込みで川の中を進んでいく。


上流とあってそこまで川の流れが急では無かったのでなんとか遺体が沈むそばまで辿り着くことが出来た。


川底には祈っている様な姿で沈んでいる男の姿が見える。


『ふざけやがって!!』


そういう感情が湧き上がる。


ルヴァンは仲間と共に遺体が沈む川底へと潜る。


そして命懸けで遺体にロープを結ぶとその場から脱出。


後はロープを引っ張り上げて、遺体を引き揚げるのみ。


川岸へと戻るルヴァンやその仲間達。


ルヴェイド達が慌てて近寄るが……


「それ以上は近寄るな!まだどうなるかわからねぇんだ!もう少し待ってくれ!」


その言葉にルヴェイドは歯を食い縛りながらその場を離れる。


そして数分後。


「やったぞー!!!」


仲間の歓喜の声が上がる。


ルヴァン達は無事に遺体を引き上げることに成功した。


ルヴェイド達もそれを見てホッとすると共に、弟やその仲間達の無事をただ祈るのだった。

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