第287話

ルヴァン達は布で口元を覆い、魔物の革で作られた頑丈な手袋を装着すると引き揚げた遺体を確認していく。


遺体が背負っていたリュックをゆっくりと解き、中を確認。


中身はすでに空になっているが何かの液体を入れてあったであろう瓶が大量に入っていた。


更にリュックの中には、細かく細切れに切られた猛毒の毒キノコの欠片も見つかった。


この毒キノコはこの辺りでは殆ど生えることが無いキノコ。


その毒キノコは、ほんの少量口にしただけでも死に至る恐ろしいキノコ。


素手で触っただけでも皮膚が炎症を起こすほど。


改めて遺体を確認すると、身体のあちこちに皮膚の炎症の跡が見られた。


川の中に異常が無いか更に確認していた仲間から革袋が何個も沈んでいると報告があった。


何人かで手分けをして革袋を回収。


中身を確認すると、どれもこれも中身はほぼ空っぽ。


僅かに残っていたのは、あの毒キノコの小さな破片だけだった。


「複数人で大量の毒キノコを上流まで運んだのだろう。あの数はどう考えても1人で運べる量ではなかったからな。」


「そして川に沈んだ人物は、身体中に毒キノコによる炎症反応があちこちに見られた。だから帰還するのを諦めて、川に身を投げたのじゃろうよ。」


「つまりはあの男は自らの命と引き換えに川の水を汚染させたのだ。そんな事件があったからこそ、そう簡単に川の恵みに頼るわけにはいかないんだ。」


「そんな事があったんですか……」


改めてミラージュという国が怖くなる。


自分達とは違う異種族。


ただそれだけの事でこんなにも残酷な事が平然と出来るなんて。


アルテリオンでは人攫い。


ガッデスでは毒を使った虐殺。


ミラージュという国にだけは近寄りたくすらない。


ガッデスとミラージュとの戦争についていろいろと教えて貰ったが、基本的には攻めてきたら防衛するだけでこちらから打って出ると言うことはあまり無いらしい。


アルテリオンもガッデスも防戦するので精一杯。


それに仮に攻められる状況になったとしても……


「あんな国なんていらんわ!!」


とのことだった。


その後は食事会と言う名の宴会が行われていたが、まだ子供の身体なので俺自身は飲まなかったけど。


「本当に助かったのじゃ。お前のおかげで我らはまだ戦える。」


「い、いえ。僕は物資を運んだだけですし。」


「それが如何に凄いことか。でも、勇者様ではないのじゃろう?」


ガッデス王にいきなりそんな事を言われて驚くラグナ。


そういえば目の前で収納から物資を取り出しても一切驚いていなかったような……


「とある御方から、いろいろとお主について聞いているからのぅ。」


ガッデス王が空を指差してニカッと笑う。


『マリオン様とか天界の誰かが伝えたのかな?』


「それじゃあ気をつけて戻るんじゃよ。それとアルテリオンとシーカリオンの手紙については頼む。」


「お任せ下さい。お酒の飲み過ぎには気をつけて下さいね。なるべく早く戻って来る予定ですけど、次にいつまた運んでこれるかわかりませんし。街道の封鎖とやらが行われていたら、時間が掛かるかもしれませんから。」


「しばらくは節酒するしか無いのぅ。はやくこんなくだらない戦争なんて終わればいいんじゃが……」


ドワーフ達の表情が明らかに暗くなる。


やはり食料の心配よりも酒の方が大事なのか……


ドワーフ達の表情が暗くなる中、ルヴァンがラグナの元へと来ると、


「違和感があったら教えてくれ。次に来たときに修正するからな。」


「ありがとうございます。でも本当にいいんですか?」


ラグナはルヴァンから剣を1本送られていた。


せめてものお礼だと笑いながら手渡されていたが……


『これ、絶対に鉄じゃないよなぁ。鉄とは手触りも重さも違うし。』


明らかに鉄ではない金属で出来た剣だった。


ルヴァンは気にしないでくれと言っていたが、どう見ても高価な代物。


ラグナは遠慮したが、ルヴァンがどうしてもと譲らなかった為、ありがたく受け取ることにした。


「それじゃあ、また来ます!!お元気で!!」


そう言うと俺はアルテリオンへと向けて走り出すのだった。


まずはガッデスで受け取った武器と手紙をアルテリオンへ。


その後は残りの武器や鉄製品を持ってシーカリオンへと戻る予定。


『とりあえず、ミラージュの兵士達とは出会わないといいなぁ。』


と祈るラグナだった。

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